
顧客の利便性を最大限に実現。それが事業者にも利益をもたらす●特集「ECサイト、次に打つべき6つの施策」

アマゾン以外のECサイトでも、Amazonアカウントに登録された配送先・クレジットカード情報を利用して買い物ができるサービス。「カゴ落ち」を改善し、コンバージョン率を高めるだけでなく、新規会員の獲得にもつながる。
Amazonログイン&ペイメントとは?
「Amazonログイン&ペイメント」は、「PayPal」や「Yahoo!ウォレット」のような、いわゆるウォレット系の決済・ペイメントサービスの一つだ。アマゾンを利用しているユーザーなら、そのアカウントに登録された配送先情報やクレジットカード情報を利用できる仕組みだ。
アマゾン ジャパンで、同事業を担当する井野川拓也さんは、このサービスを「まず第一に、お客様のことを考えた仕組み」だと話した。
「『Amazonログイン&ペイメント』は、そもそも、お客様により多くの品揃えを提供したい、という発想からスタートしたサービスなんです。我々としては、もちろん自社サイトでの品揃えについて努力をしてきているわけですが、例えば『出前館』(https://demae-can.com/)さんのような出前サービスであるとか、『劇団四季』(https://www.shiki.jp/)さんのような席種まで指定した上でチケットを購入できるサービスまでは、提供できていません。また、ファッションブランドのように、自社サイトでの購入にこだわって販売をされているショップもあります。そういった品揃えについても、お客様に提供することができないか。そう考えて、お客様が普段から使用しているAmazonアカウントを利用してお買い物できる仕組みとして実現しました」
その「Amazonログイン&ペイメント」で、アマゾンが重視しているのは、顧客にそれを“どう提供するのか”という点だ。
アマゾンが提供する利便性とは
井野川さんによると、「Amazonログイン&ペイメント」の特徴は、3つの言葉で表すことができるという。それが本稿の冒頭でも記している「利便性」「スピード」「安心感」だ。
「お客様がECで買い物をする際に、まず手間がかかるのは、アカウントやパスワードを登録しないといけないという点でしょう。名前や住所にはじまり、電話番号や支払いに関することまで、さまざまな情報を入力する必要がありますが、特にスマートフォンでの入力となると、面倒だと感じる方も多いのではないでしょうか。『Amazonログイン&ペイメント』では、まずそこの負担を軽くしよう、と。機能の導入・実装の仕方にもよりますが、ログイン後、最短で1クリックするだけで買い物ができるようになります。購入の際の手間を大幅に低減することができるのです」
顧客の「利便性」を高めるこの機能は、同時に顧客に「スピード」を提供する。
「実際の購入画面をご覧いただくとわかるのですが、クレジットカードと配送先の住所の情報が、導入事業者のサイト上で表示されますので、お客様からすれば、パッと見て確認するだけでいい、ということになります。購入までの時間も大きく短縮できるかと思います」

「Amazonログイン&ペイメント」を採用する「TORATO」(制作:カンナート)で購入までの手続きを取ってみた。Amazonアカウントでの支払いを選択してログインすると、配送先住所とクレジットカード情報が表示されるので、あとは注文を確定するだけだ。ログイン後、最短で1クリックで決済ができる。なお、最後の画面で「会員登録」「メールマガジン購読」のチェックボックスが表示されている点も注目だ
もう一つの要素である、「安心感」とはセキュリティに関するものだ。
「お客様の中には、クレジットカード情報の提供に慎重な方もいらっしゃるかと思います。あちこちのサイトに番号を書き込みたくない、と考える方も多いでしょう。その点、『Amazonログイン&ペイメント』では、クレジットカードの情報はアマゾンでしっかりと管理し、事業者さんにはお渡ししませんので、漏えいのリスクを低減できるかと思います。さらに、『Amazonマーケットプレイス』で採用している『Amazonマーケットプレイス保障』に対応している点も、お客様に安心して買い物をしていただくにあたってのメリットになるかと思います」
もう一つ、顧客優先の考え方がよく表れているポイントがある。それは機能の「実装」に関する部分だ。
「正直に申しますと、EC事業者様が『Amazonログイン&ペイメント』を自社のシステムに組み入れる作業は、それなりの工程を踏むことになりますので、なかなか大変かと思います。商流を変えることにもなりますし、それなりにご苦労をおかけすることになるのは間違いありません。ただしこれは、お客様に『利便性』『スピード』『安心感』を提供することを第一に考えた結果です。EC事業者の皆様にご負担を強いるのは申し訳ない点ではあるのですが、そこは我々としてもこだわった部分です。ただし、もちろん解決策も用意しておりまして、ASPカートプロバイダーやシステムインテグレーターと協力しながら、より簡単に実装できる仕組みづくりを積極的に進めています。事業者様にはそちらを検討いただければと思っております」

実装が難しいのではというイメージを持つ人も多いかもしれないが、外部のソリューションプロバイダーを活用することでその問題を解決できる。現在はecbeing、FutureShop2、FRACTA NODE、aishipR、iplogic、CARTSTAR、Magento.FLATz、喜信堂カート、トントンカート2が利用可能で、今後その数は増えていくという
顧客のメリットが事業者にとってのメリットにつながる
ここまで、「顧客にとってのメリット」を中心に話が進んできたが、裏を返せばそれはEC事業者に利益をもたらすものでもある。利便性が高く、素早く操作でき、安全であるということが「カゴ落ち」の改善につながっているのだ。中には7割だったカゴ落ち率が3割まで改善された事例もあるという。

ASPカートプロバイダー大手の「FutureShop2」が実施した、自社サービスを使っている店舗への調査によると、「Amazonログイン&ペイメント」を導入したショップは、月間受注数に大きな伸びが見られた。特にスマートフォンからの伸びが大きいことがわかる

同じく「FutureShop2」が「Amazonログイン&ペイメント」を導入した顧客300店舗への調査を行ったところ(2015年末)、7割近いユーザーが効果を感じたと回答し
「カゴ落ちの大きな原因は、ご注文の際に煩雑な工程が発生していることが大きな原因だと言えるかと思います。アマゾンのID、パスワードがあれば情報入力の手間もなく、簡単に安心して買い物ができるといった点が改善につながっているのではないかと思います」
ただし、事業者にとって気になる部分もあるだろう。特に、アマゾンに売れ筋のデータが流れてしまうのではないかと不安に思う事業者も少なくないはずだ。
「気にされている方も多いと思いますので、はっきりとお答えしておきたいのですが、アマゾンが購買に関する情報を取り込むことはいっさいありません。我々が管理するのはあくまでも金額だけです。そこはご安心いただきたいと思います」

使い勝手のよい管理画面。ここから売り上げ請求処理や入金確認など、さまざまな操作が可能になっている。なおAPIを活用すれば、現状のシステムにデータを取り込んで表示することも可能だ。この管理画面を使わなくても管理ができるという
新規顧客獲得のための仕組みも搭載
もう一つ、事業者にとって見逃せないメリットがある。注文時のメールアドレスなどの情報を利用して、新規会員やメールマガジン会員への登録につなげることができる点だ。新規顧客の取り込みに苦労しているショップにとって、この仕組みがもたらすメリットも決して小さくないだろう。
気になると言えば、手数料に関しても触れておきたい。これについてはアマゾンが原則非公開としているため、ここに掲載することはできないが、カゴ落ち率の低下、さらには新規会員獲得のハードルが下がることなどのメリットを考えれば、決して高いものではないと感じた。気になる方はぜひ問い合わせをして確認をしてみてほしい。
最後に、アマゾンの事業における「Amazonログイン&ペイメント」の位置付けを尋ねてみると、井野川さんは、同社の創業者であるジェフ・ベゾスが、レストランでの食事中にナプキンに書いたという、よく知られるビジネスモデル(下図)を示した。この内容はさまざまなビジネス書でも解説されているが、同社がいかにSellers(パートナー)を増やし、品揃えを充実させるという点を重視しているかを示すものとして知られている。
「多くの事業者様にこのサイクルに入っていただくことが、お客様の利益につながり、ひいては事業者様の利益にもつながっていくものだと考えています」

同社の創業者であるジェフ・ベゾスが仲間と食事をしながらナプキンに描いたと言われている、アマゾンのコンセプトを示した図。豊富な品揃えを実現することで顧客が集まり、その集客力を期待する売り手も集まる。それによってさらに品揃えが充実して顧客満足度が高まる。このサイクルによりコストを下げる構造が生まれ、低価格を実現し、さらなる顧客満足につながる、というもの。「Amazonログイン&ペイメント」もこのサイクルをさらに広げようという思想のもとにつくられたサービスだという

東京大学大学院 化学生命工学科修了後、石油会社にてエンジニアとして従事。米ペンシルベニア大学Wharton校にてMBAを取得後、外資系コンサルティング会社、外資系PCメーカーを経て、2010年にアマゾンに入社。Amazonマーケットプレイス事業のFBA、マーケティング、事業企画、広告ビジネス、グローバルセリングなどを担当後、2015年11月よりAmazon ログイン&ペイメント事業の日本市場の統括責任者となり現在に至る