
Happy Maker!|「オタクの自分」を前面に出すことでターゲットとの距離を縮める
オタクの婚活をWebサイトでバックアップ
「たとえ趣味が合った相手でも、オタク話ばかりはNG。それだと、恋愛対象じゃなくてただのオタク仲間になってしまいます」
そんなお見合いの時の心得を語るのは、仲人士の横井睦智さん。横井さんは、「Happy Maker!」という屋号でオタクの婚活を支援する、ちょっと変わった仲人士だ。拠点は岐阜県にあるが、相談があれば全国どこでも対応する。安易な婚活パーティを開催するのではなく、コンサルティングをしながらお見合い相手を紹介していくというスタイルが支持され、日本中から相談・入会依頼が寄せられている。
そもそも、拠点が岐阜県にあるといっても、それはあくまでデスクワークのための事務所。店舗営業をしたり看板を出したりしてるわけではないため、集客はほぼすべてWebサイト経由になる。それでも日本中で引っ張りだこなのは、やはり自社のサイトをオウンドメディア化し、積極的に自らをアピールしているからだ。
横井さんのWebサイトでは、自らの紹介や相談プランの紹介のほか、オタクのための婚活ノウハウや婚活の心得が毎週記事として公開されている。内容は「真夏の婚活にオススメするスーツの着こなし」といった、オタクかどうかに関係なくすべての人に共通する婚活テクも多いが、中の文章には横井さんの好きなアニメ「ラブライブ」の歌詞の引用があったりと、横井さんのキャラクターが伝わるようなコンテンツになっている。もちろん横井さん自身、根っからのオタクだ。こうした独自の記事を提供することで他の結婚相談所との差別化が図られ、しかもターゲットであるオタク層の親近感を得ることもでき、最終的な問い合わせへとつながっていく。
4コママンガの記事は親和性が抜群
さらに最近は、こうした婚活ノウハウのほかに、マンガを使った記事も掲載するようになった。
このマンガは、横井さんが相談に乗った元会員で、めでたく成婚退会した女性マンガ家が描いている。彼女が成婚退会するにあたり「ぜひ何かお礼を」ということで始めたのがきっかけだが、しっかりと原稿料を支払って連載してもらうことにした。
マンガの登場人物は、彼氏いない歴=年齢のオタク女子(いわゆる「腐女子」)。婚活パーティなども行ってみたがいい出会いに恵まれず、やがて横井さんの「オタクのための結婚相談所」にたどり着いて…といったストーリーが4コママンガで展開される。
そしてこれが、自社サイトの記事の中でもとりわけ大きな反響を呼んでいる。

自社のWebサイトでは、不定期で4コママンガを掲載している。やはりマンガという手法は、横井さんのターゲットとする「オタク層」へのアピール力が極めて高い
マンガの1コマ目がソーシャルのタイムラインに流れてくれば、マンガに興味のある人なら思わず目を止めてしまう。そして、内容が気になって記事を訪れる人も増えてくる。マンガは横井さんがターゲットとする、いわゆるオタク層にとって極めてアピール力の高い手法なのだ。

Happy Maker!公式サイト。かつてはホームページ作成サービスのJimdoで運営していたが、SEOに強いという話を聞いてWordPressへ。すべて横井さん自ら制作・運営している
実際、横井さんはTwitter広告による集客も行っているが、4コママンガに誘導する広告は、広告にもかかわらずコメント付きのリツイートが出たほどだという。
現在、この連載は締め切りを設定せずに時間を見つけて描いてもらっている。そのため掲載本数はまだそれほど多くないが、横井さんとしてはマンガを増やしていきたいという思いもある。幸い、執筆してもらえそうなマンガ家さんとのつながりも増えてきているとのことで、記事が増えていけば集客力はさらに高まっていきそうだ。

横井さんは、Twitterを使ってWebサイトの更新を告知しているほか、Twitter広告による集客も行っている。いわゆるオタク層はTwitterのアクティブユーザが多く、リスティング広告などよりも費用対効果が高かったという @otakunonakoudo

なおTwitter広告では、地域や性別、ユーザーの検索キーワードなどでターゲットを絞り込むことができる。設定次第で、広告の費用対効果を高めていくことが可能だ(図はTwitter公式サイトより)
オフ会で相談されたのが開業のきっかけ
ところで、そもそも横井さんはなぜオタク向けの仲人士というビジネスを始めたのだろうか。「自分自身、根っからのオタクだったのですが、それでも縁あって30歳のときに結婚できました。それで、同じオタク趣味を持つ人たちの集まり、いわゆるオフ会に行くと、結婚について相談されることが何度かあって。それでオタク専門の結婚相談所を始めようと思ったんです」
その前は、地元の岐阜県に根ざしたごく普通の結婚相談所をやっていたという横井さん。その頃はほとんど会員が集まらなかったという。そこでオタク専門にターゲットを変えてWeb中心の集客に切り替え、定期的に記事を投稿することで集客を狙った。最初はほぼ毎日記事を投稿したことが功を奏し、徐々に会員数が増えていった。現在は忙しくなってきたこともあり毎日の更新は行っていないが、それでも毎週1本のルールは厳守しているという。

横井さんは結婚相談所を開く際、独自にYouTubeチャンネルをつくり、動画コンテンツを上げていった。これがテレビ番組制作サイドの目に止まりテレビ出演が決まったことで、多くの人が知るきっかけになった
個性のアピールこそが共感の鍵
オウンドメディアでは、どんな記事を投稿していくか、集客力の高いネタをどうやって見つけていくかも重要なことだ。ソーシャルメディア上で拡散され、うまく盛り上がる(バズる)ことができればサイトの集客力は大幅にアップする。横井さんはどんなことを心がけて記事を書いているのだろうか。
「今は、特にバズることを狙って書くことはありません。それよりも、読者が読んで納得できるもの。共感できるものを心がけています」
確かに、拡散して多くの目に触れたとしても、読んだ人が結婚相談を検討してくれなければビジネスにはつながらない。いたずらにバズを狙うよりも共感が大切というのも、うなずける話だ。
日頃のネタ集めには、人が集まるイベントなどなるべく話題のタネが多そうなところに足を運ぶように心がけているという。そこで自分が見たもの、聞いたものでネタになりそうだと思ったものはiPhoneにメモしておくそうだ。
本人が根っからのオタクということもあり、記事を書くときは自然とオタクならではの感覚やオタク的なキーワードが入ってくる。それがうまい具合に婚活というテーマとブレンドされて個性のある記事が出来上がっていく。結婚相談所のメリットを謳うような、いわゆる宣伝文のようなものは控えめだが、それでも記事の効果は十分だ。結婚相談所というのは形のあるものを売る仕事ではなく、いわば横井さんという人物こそが商品だとも言える。横井さんは、自分の人柄を知ってもらうことが集客の近道になると、ある時から強く意識するようになったという。結局のところ、オタク趣味という自分の「好き」を突き進めて、オープンに投稿の中で表現していったことが、顧客から信頼感を得る結果につながったのだ。

会員とのコミュニケーションでは、もっぱらLINEを活用。早いレスポンスでやりとりができるうえ、伝えたいことをいったん文字に起こすことで相談者も考えがまとまり、電話よりも落ち着いてコミュニケーションできるというメリットがあるという。

横井さんは会員に対して親身になってアドバイスを行う。時には手厳しい意見を述べることもあるが、結果的に会員にとってのプラスにつながる。それが高い成婚率を生み、日本仲人協会から表彰もされている。
オウンドメディアをどのようにして最終的なビジネスの成果に結びつけるかは、どの企業にも共通する課題の一つだ。その正解は業種によってさまざまだが、書き手の個性をうまくアピールして共感を得ることは、あらゆる業種に共通するオウンドメディアの鉄則といえるのではないだろうか。