サンフランシスコの会社訪問!【自動運転トラック OTTO】

日本と同様、アメリカでも、運送業界はドライバー不足、ドライバーの労働環境の悪化が深刻化しています。それを「自動運転」という技術で解消しようとしているのがOTTOです。「物流を改革する」という理念のもと、自動運転トラックの実用化に向けた道をひた走っています。

 

運送業界の深刻な問題

朝から晩まで、ときには夜通し運転することも珍しくないトラックドライバー。生活の大半を車内で過ごし、ハイウェイ途中の駐車場のロットで夜を明かすなんてこともざら。そういった理由からもトラックは非効率で死亡事故が多く、ドライバーの数も年々減ってきています。

そんなトラックドライバーの問題、ひいては運送業界の深刻な課題を解決するべく、自動走行トラックの実用化をめざすスタートアップが、2016年1月に設立されたOTTOです。サンフランシスコからシリコンバレーをつなぐ高速道路の101を走っていると“OTTO”のロゴの入ったトラックを見かけることがあり、ついつい運転席を見てしまいます。

自動運転というと一般的には普通自動車のイメージを持ちがちですが、アメリカで最も早く自動運転の実用性が求められているのは、大陸を横断するトラックです。日本の約26倍の国土を有するアメリカでは、サンフランシスコからニューヨークまで車で移動するとなると約一週間はかかります。現在は陸路での輸送は大型のトラックが行い、運転も人間が行っていますが、長い直線をひたすら走るだけの旅路はかなりの重労働だということは想像に難くありません。その場面において、自動運転が活用しやすいという側面もあります。

 

バド缶5万本を運送成功

そんな背景もあり、OTTOは普通自動車に先駆けて自動運転技術を長距離輸送用トラックに採用しています。ちなみに、OTTOは創設者がGoogleマップの元製造責任者、リオー・ロン氏とGoogleの自動運転車部門元技術責任者、アンソニー・レバンドフスキ氏であるということでも注目されています。

共同設立者のうちの一人、リオー・ロンは、ミュージシャンのビヨンセやデイビット・ボウイ、IBMのCEOであるジニー・ロメティにならんで2016年のMost Creative People 50にも選ばれました。ちなみに、約50名ほどのOTTOのスタッフの中には元Apple、Google、Tesla、Uberで働いたことのあるエンジニアもいます。

OTTOの自動走行トラックは、2016年10月コロラド州にて、フォート・コリンズからコロラド・スプリングスまでの約200キロを、完全にドライバーの操縦なしで5万本のバドワイザー缶をトラック運搬することに成功し、大きくメディアに取り上げられました。また、同年8月には設立から1年足らずでUberに約6億8,000万円で買収され、サンフランシスコのSOMA地域にあるオフィスは、Uberの自動運転のラボとしての役割も果たしています。

OTTOは現在までにボルボのトラック5台に完全自動運転システムを搭載し、比較的道が単純で道路状況のよい高速道路を自動運転に任せるといった形でカリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州で1日3回、週7日の走行テストを続け、実用化に向けてまさに奔走しています。

 

ITの力で死亡事故を減らしたい

もう1人の創始者であるアンソニー・レバンドフスキ氏によると、OTTOのミッションは社会貢献。交通事故を減らし、環境にも優しく、より多くの人々の生活を改善することが一番の目的であると語っています。

彼によると、現在アメリカでのトラックの量は高速道路を走る車両数全体のわずか5.6%であるのに対し、死亡事故の原因の9.5%を占めているとのこと。そしてトラックのドライバーは平均で200日もの間家から離れ、トラックの中で暮らしています。その状況を改善する必要があると強く感じたと述べています。

その目的を果たすために、新しい車両を開発するよりも、既存の車両に取り付け可能なレーダーやセンサ、カメラなどのハードウェアとソフトウェアを開発し、すでに走っているトラックにも実用可能になるような開発を進めています。それにより、通常は1,000~3,000万円ほどするトラック車両を新しく購入せずとも、トラックの自動運転化が実現するというわけです。もしトラックの自動運転化が可能になれば、現在米国の法律で一日11時間しか走行を許されていないトラックが、24時間走ることで倍以上の移動が可能になります。

OTTOが目指しているのはあくまで高速道路上での自動運転であり、トラックの運転すべての自動化ではありません。もちろん市街地に入ればドライバーがハンドルを握り、目的地までの運転を行います。しかし、長距離の高速道路では自動運転をオンにし、ドライバーはトラック後部で睡眠をとることができるのです。

今後は行政や自治体の自動運転に関する規制がどのように変化するによって、実現の可能性が変わってくると考えているそうです。

OTTO

元Google社のエンジニア2人が自己資金で立ち上げたスタートアップ企業であるOTTOは、2016年の創業からまもなく、同じく自動運転技術に取り組むオンラインタクシー配車サービスのUberに買収されました

OTTOの自動運転トラックにはセンサやレーダー、カメラなどが取り付けられています。それらは後付けで既存のトラックに搭載することができます
2016年10月20日、大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)社の協力のもと、5万本のバドワイザー缶の自動運転による配送に成功しました。その距離約190キロ。ABインベブ社によると、自動運転での配送が実現すれば、年間約52億円の経費が削減できるそうです

 

Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。サンフランシスコ、シリコンバレーを中心に、スタートアップの魅力をデザイン、ビジネス、テクノロジー面から解説します。 http://btrax.com/jp/
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