知れば差がつく! UX視点で見るヒットのツボ

付加価値ではなく"価値"をつくる未来へ

WebマーケティングにUXは必須のものとなっています。最近では特にWebだけで完結せず、リアルとの接点を含めるケースが多くなっており、私たちの場合内容によってはほとんどPCを使う作業を行わないケースもあるほどです。Webだけに閉じず、その前後から考えることで、逆にWebを活用する意味も改めて見えてくるでしう。

製品・サービスに関して言えば、均質化したものに対してプラスアルファしていくのではなく、新しい視点を生み出す必要があるということです。付加価値は「価値」ではありません。では、新しい価値とは何でしょうか。そうした点から2017年に話題となったアイテムを振り返ってみました。

UXの考え方は、突き詰めれば10年後20年後の社会を考えることにも繋がります。私たちは、UXを課題解決ではなく未来を生み出すための手段だと考えています。従来のマーケティングは自社・自社製品のことだけでも事足りていましたが、モノやサービスが溢れる現在、利用者視点の重要性が高まっています。さらに、これからはSTEEPV(ソーシャル・テクノロジー・エンバイロメント・エコノミック・ポリティクス・バリューの頭文字)で社会全体のことを考えていく発想も必要なのです。ヒットアイテムを通じて2017年を振り返りながら、将来のこともちょっと考えてみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

「三方良し」の考え方は、メンバーズの企業理念「マーケティングの在り方を『社会をより良くするもの』へ」にも通じる

 

甘酒

甘酒自体は何も変わらないまま核になる価値を変えて大きなヒットに

多様な種類の飲み物が存在する中、これまでわざわざ甘酒を選ぶ理由はなかったところを、「飲む点滴」というキャッチーなフレーズによって価値を見直したことで人気が出ました。甘酒それ自体は何も変わらないまま、核になる価値が別のところに移動した、つまりバリューをリフレーミングさせた事例という意味で大変興味深いと思いました。「飲む点滴」という言葉選びも、訴求の仕方として非常に上手かったと思います。

長年利用している熱心なユーザーにインタビューすると従来考えていなかった意外なヒントが出てくる可能性が

 

うんこ漢字ドリル

買ってくれる人よりも実際に使う人優先インタラクションのキャッチーさで人気に

書き取りをして漢字を覚えるという深いレベルでの価値はそのままに、インタラクションレベルですべての内容を「うんこ」に関連づけたことで、それが好きな子どもが飛びついて注目されました。教材の場合、ステークホルダーとしてお金を出してくれる親の存在が重要ですが、それよりも子どもの視点を重視したと考えられます。ただし、あくまで「漢字ドリル」。勉強に飽きず使い続けてもらえるかどうかが今後の評価につながると思われます。

本質的に「漢字ドリル」の価値を提供することで、最終的に親も納得させられたのでは

 

明治 ザ・チョコレート

評価するのは誰なのかプロトタイピングでユーザーの声を聞く

有名な話ですが、パッケージの最終版に対して社内で反対意見が出た時、プロトタイピングしたものをターゲットの女性ユーザーに見てもらった反応をもってそれを説得したそうです。一般的にバリューのリフレーミングがある場合は反対意見が出やすいのですが、その時に利害をユーザー側に置くことで、合意形成がしやすくなります。顧客志向を掲げない会社はありませんが、本当にそれを実現するのは難しいものです。

「お菓子」から「嗜好品」へのリフレーミングで新しい価値を提供する商品となった

 

anello®?の口金リュック

デザインと社会状況が合致して受け入れられた価値

実際の女性ユーザーから聞こえたのが、「許せる大きさ」という声です。大きすぎないサイズ感と、PCを持ち運んだりそれを持って満員電車に乗る必要があるといった社会状況の中から生まれた人気だったのではないでしょうか。シナリオでいうと、具体的な行動である「アクティビティ」からUIに相当する「インタラクション」にかけた部分において、求められていた価値性が提供されたと考えられます。

求められていた価値性を手頃な価格で入手できたことも、若い人に受け入れられた理由

 

電子タバコ/加熱式タバコ

議論を起こしつつもタバコというカテゴリに新しい領域

他人に迷惑をかけずにタバコを吸いたい、喫煙者も他の人の煙は嫌といったニーズに対し、新しい価値を提供した=タバコの価値をリフレーミングさせたものと考えられます。一方で、タバコというカテゴリを分断させて新しい領域が生まれたことで、既存のタバコを吸う人からは世間への迎合だと捉えられたり、逆に非喫煙者からするとタバコには変わりはない、などといった議論も生まれています。

既存のタバコを吸っている人に比べ自分を優位と捉えるユーザーがいるのも興味深いところ

 

映画『この世界の片隅に』

参加する意識を持ち 払いたいものにお金を使う価値観

今、いろいろな業界で「参加感」が注目されています。特に若い人は積極的で、誠心誠意ものづくりをしたい人たちに対し共感を持って応援するケースが見られます。クラウドファンディングが制作を手助けしたこの作品もその一つと言えるでしょう。単に"消費"するのとは違うお金の使い方と、それを善意で行う気持ちをどうデザインするか、という点において、価値の測り方のバランスが良かったのだと思います。

『この世界の片隅に』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:バンダイビジュアル ©こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会
認知科学的にも「参加したもの」に対しては思い入れが変わることが知られている

 

 

原 裕
株式会社メンバーズ 執行役員 株式会社エンゲージメント・ファースト CEO 日本マーケティング学会会員。著者に『Engagement First !』、共著『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン~』など。
川田 学
株式会社メンバーズ UXデザイン室 UXデザイナー HCD-Net認定 人間中心設計専門家。共著『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン~』など。
『UX × Biz Book~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン~』 (マイナビ出版)
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