地域別攻略(1)中国編 世界最大の顧客をもてなす

インバウンドは拡大基調 求められる訪日中国人とのエンゲージメント

中国の実質経済成長率は、2018年4~6月期で6.7%と堅調に成長を遂げています。産業構造も製造業からサービス業へのシフトが進んだことで、消費を楽しむ人々も大幅に増えました。

こうした経済状況を背景として、日本国内へのインバウンド需要も増加、さらに訪日ビザ申請がスマホだけで済むようになるなど規制緩和が進んだことで、訪日客数は2017年に過去最多の7,355万人(日本政府観光局:JNTO発表統計)に達しました。多くの日本企業にとって、訪日中国人は魅力的な存在であることは間違いありません。

しかし、日本国内では実績があっても、中国では知名度がまだ高くない企業のほうが多数派です。そして「中国向けに商品やサービスをどう届けてよいかわからないという課題意識は中小企業を中心に多く見られます」とマルチタッチポイントでのデジタルコミュニケーション構築を行う博報堂アイ・スタジオのグローバルビジネスプロデューサー易臣(チェン・イー)さんは語ります。

「私たちは予算や要望に応じて、インバウンドにおいてもプロモーションの戦略づくりから各種施策の実施までさまざまなソリューションを提供しています。例えば2018年の3月には『WeChat』の『miniプログラム(小程序)』を利用したインバウンドマーケティング支援サービスを開始しました」

 

戦略づくりは訪日前から中国での口コミプロモーションに欠かせない「KOL」とは?

訪日する前から情報収集し始め、どこにいくか、何をするかを事前にプランを立てる中国人が増えています。そのため、訪日した後から情報発信するより、訪日する前にプロモーション施策を実施したほうが有利になります。

プロモーション手法はWEBやSNS、メディア活用などさまざまあるでしょう。しかし、大前提として知っておきたいのが、プロモーションツールがグローバルと中国で大きく異なるという点です。

例えば、日本ではあまり馴染みのない中国版Twitter「Weibo(微博)」や、LINEのようなコミュニケーションツール「WeChat(微信)」、「QQ」は中国では非常にポピュラーです。サービス内容もSNSの枠を超えて、ECやスマホ決済まで備えた日常生活のインフラとしての役割を果たすものもあります。

その逆に、日本人が「グローバルスタンダード」だと認識している欧米系のWebサービスはほぼ利用できないと思ったほうがよいでしょう。そして、この中国独自のオンラインサービス圏でのプロモーション展開で大きな役割を果たすのが「KOL(Key Opinion Leader)」の存在です。これは前述のSNSで多くのフォロワーを持つ「インフルエンサー」で、時として企業側のPRやメディアによる情報発信よりも購買に与える影響力があるといいます。

「日本製品で言えば、カメラや温水洗浄便座のような定番商品はもちろん、美顔ローラーのようなコスメ用品やネットで“神薬”と持て囃される市販の医薬品などがKOLの口コミで広まって人気が高まりました」

今では新しい商品やサービスだけでなく観光誘致なども、どの点をどうアピールすれば集客できるようになるのかを有力なKOLに意見を求めるのがマーケティングの出発点になりつつあるといいます。また、複数のKOLを束ねる組織も登場したことで、商品のジャンルにあわせた柔軟なプロモーション展開も可能になってきています。中国人を相手にしたインバウンドマーケティングを考えている企業の担当者は、こうした「口コミ」を活かしたプロモーションを最初に検討する必要があります。

 

一方的に売りつけるのは難しい中国でのトレンドを知り現地での知名度向上が先決

インバウンドにおけるKOLマーケティングが影響力を持つようになった背景には、中国特有の社会事情や国民性も深く関係しています。

まず、国土が広大で人口も多く、企業や製品も玉石混交な巨大マーケットでは、個別の企業の宣伝よりも信頼できる友人や仲間の「口コミ」を信頼する傾向があります。KOLはネットの登場によりこの口コミの伝播力がさらに拡大されたものと言えます。

また、急速な経済成長の原動力となっているのは20代から40代の働き盛りが中心で、ネットとの親和性が高いのも特徴です。さらに2015年まで実施されていた「一人っ子政策」の影響で親が子どもに投資する額は大きく、食の安全や健康意識の高まりから富裕層から中間所得層に至るまで海外からの輸入製品を好む傾向があります。

「日本だと国産製品を信頼する傾向がありますが、中国人は国産製品にそこまでの信頼は持っていません。同じようなミネラルウォーターが売っていたとして、信頼されている海外のブランドであれば、たとえ値段が高くても、買い求める人は少なくありません」

ただし、購買するものの傾向に関して際立った特徴はなく、地域ごとの差も現在はほとんど見られないといいます。

「北京では空気清浄器や高性能マスク、上海では浄水器が売れるといったことはあるでしょうが、基本的に人々の生活習慣や課題にマッチする商材で、正しいプロモーション戦略の元であれば、どんな商材でもチャンスがあり、売れないことはありません。特に日本製品の品質への信頼は高いので、ネットで評判が広まれば注目が集まります」

裏を返せば、安く良いものをつくれば黙っていても売れるというわけではなく、日本国内の知名度が高いからといって中国でもその知名度が通用するわけではないことは踏まえておきましょう。

「例えば、東京に住んでいる方はあまりご存じないと思いますが、中国でもっとも多く展開されている日本の外食チェーンは、熊本にあるラーメン屋さんです。中国人に知ってもらうようなプロモーションを正しく行えば、大きな成功を収める可能性が広がっているのです」

 

プロモーションの実施タイミングがとても重要Web展開はシンプルなものを

マーケティングのプランニングやターゲティングを策定したのち、中国国内でプロモーションを実施するにあたってはいくつか注意すべき点もあるといいます。まず、一年において、歴史的背景により対日感情に特に敏感になる日がいくつかあり、そのような日に掛かるように行わないことが重要です。

一方で、インバウンドのマーケティングに適したシーズンもあります、それは10月1日の「国慶節」から始まる大型連休のシーズンです。例年1週間程度の休みとなるため、帰省だけではなく海外旅行に出かけるのもこの時期です。中国の大手オンライン旅行予約サイトによると、もっとも人気のある海外旅行先の一つは日本で、その理由を観光地の選択肢が多いこととしています。「国慶節に加えて、7月から8月の子どもの夏休みに家族旅行を楽しむ人も増えています、また12月のクリスマスシーズンや旧正月も連休があるので狙い目ですね。その他、11月11日の『独身の日』にはEC大手のアリババ(阿里巴巴)が1日で約2.8兆円規模の大セールを行います。独身と絡められるアイテムを中国内で販売したい場合はこのタイミングで売れることがあります」

そして中国本土でWebサイトやサービスを展開する際に重要となるのが、Webサイトの開設が「許可制」なことです。これは2005年以降に定められた制度で、ICP(Internet Content Provider)登録を申請し、許可されたICP番号をWebサイトに掲載する必要があります。また、2017年6月以降は中国サイバーセキュリティー法が施行され、外資企業はデータセンターを中国国内に置くことを義務付けられました。

「Webサイト開設は申請手続きなどが必要ですし、SNSや決済アカウントの登録申請も中国内でないと行えないものもあります。大変なのであれば、ノウハウを持つ代理店に依頼するのが手っ取り早いでしょう。どのような商材でもアピールするチャンスはありますので、任せるところは任せてコンセプトやターゲット選定に力を入れていただくのが良いと思います」

教えてくれたのは…易 臣 Chen Yi
博報堂アイ・スタジオ プロデュース2部 副部長 グローバルビジネスプロデューサー
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