具体例で学ぶCMSの選び方

ここからは、具体的なシチュエーションを提示しながら、CMSの選び方や予算の目安について解説します。引き続き、CMSの導入案件を多数手がけている(株)アリウープの田島邦彦さんに話を聞きました。

具体例を手がかかりにCMS選びのコツをつかむ

私たちアリウープはマルチベンダーですので、CMSの導入が決まった案件には、クライアントの状況にあったCMSを、各種の要件や予算、品質を念頭に置きながら精査します。クライアントが抱える課題を最善な形で解消できるCMSを選定していくわけです。

選定の岐路の1つには、無償か商用かの選択があります。WordPress(以下WP)などオープンソースはライセンスが無償なので、コスト面の導入障壁が低い一方で、運用やセキュリティ、サポートなどの保守も含めると、トータルのハードルは低くはないことが見えてきます。導入や運用、保守と、それらに関わる人件費もCMS選びには欠かせません。社内でCMSに精通する人材がいるのか、社外パートナーを求めるならその分の予算確保が可能なのか。これらもCMS選びの判断基準です(01)。

01 CMS選定の導き方
CMSの決め手は、課題への対応能力と、要件定義や予算、品質のハードルを越えていることです

実際は課題ごとに多種多様ですので、“こういう時にはこのCMS”といった断定的な言い方はできませんが、選定時の目安の1つとなるように、具体例を通じてCMS選定の判断方法を紹介します。厳密には社内だけでの判断か、外部に相談相手を求めるかでも変わりますが、大枠の考え方の参考になるでしょう。「今抱えている課題」を克服できるCMS選び、という視点で読んでください。

さまざまな人が触れる場合商用CMSが選択肢になりやすい

最初のケースとして、「規模が大きい企業/組織で、複数の部署が運用しながら、複数のWebサイトのページ作成をする場合」を考えます(02)。

02 複数部門、複数サイトの統括に向くCMSの選び方
ここでは複数部門や複数サイトを統括し管理できるハブになれるCMSを選びたいところ。権限設定などを含めた管理機能に優れ、さまざまなユーザーを支える豊富な機能の搭載が基準になります

この場合、1つのCMSで複数サイトを効率的に管理できることが条件になります。さらに、生産性が高い状態に保てるように、ワークフローを細かく設定できることも求められるので、もともと備わっている機能が豊富な商用CMSのどれかが、最有力候補となります。

関わる部署が複数という点もネックです。関わる部署が増えるほど、部署ごとでの管理が問われます。各部署でCMSに関わる人数が複数いればいるほど、Webリテラシーのばらつきが出ることを勘案すれば、あまりリテラシーが高くない人たちでも迷わないUXを担保するべきでしょう。“いかにも”という複雑な管理画面だと、運用が滞る人たちが出ることがあるからです。細かな設計内容は、各部署へのヒアリングや希望機能の内容を参照するほかに、汲み上げてきた内容が本当に必要な内容なのかも判断しながら、取りまとめていくこととなります。

部署内の管理も細かく対応できるように、権限設定もきちんとしたいですし、もしレギュレーションとしてリモートワークにもGoサインを出すとなると、規模感と複雑な構成の管理に耐えられるCMSが望ましくなります。そうなると、オープンソースよりも管理機能が優れた商用CMSで、豊富な機能を搭載したパッケージを選ぶのが現実的です。さまざまな人が操作する可能性があるのなら、利便性を追求している機能がいかにデフォルトで搭載されているか、もCMS選びの基準になります。

このケースはさまざまな属性の人たちが触れる可能性が高いだけに、WPだと、管理画面のUIをカスタマイズしてもある程度の限界があり、そもそもフルカスタマイズを前提にした開発となるため、費用が膨らみそうです。かなり大量のページボリュームになることも予想され、あまりオススメはできません。

データベースのフル活用なら動的CMSの選択が可能

次に、「ユーザーごとでコンテンツを出し分けたい場合」を考えます。この課題に応えるには、アクセス履歴などユーザー情報を扱えるCMSが求められます(03)。03のような要望に対応するには、動的CMSが適しています。

03 ユーザーごとでコンテンツを出し分けたい場合のCMS
各ユーザーの情報(アクセスログや属性などの情報)にあわせたコンテンツを表示する場合は、動的CMSが向いています。あとは使いたい機能の有無と予算が選定の手がかりになります

動的CMSとは、ユーザーのアクセスごとに各ユーザーにあわせたコンテンツの表示(=コンテンツの出し分け)ができるCMSのことです。さらに数多くのデータを扱うならば、セキュリティなど保守をきちんと組み込んでいる商用CMSの中から、必要とする機能が搭載されている(or 必要な機能をカスタマイズで搭載しやすい)、より適したCMSを見つけていきましょう。

動的CMSといえばWPもそうなります。WPの場合は、社内体制が整っていたり、社外パートナーと一緒に運用体制が組めるならば、選択肢の1つとなるでしょう。ただし、一定以上のアクセス数が見込まれるなら、もともとカスタマイズの必要があるケースですし、サーバ負荷への対応も含めて保守のコストも考えると、無理して選ぶべきではないでしょう。

そのほか、膨大な製品の検索に対応できるWebサイトをつくりたいという場合も、このケースと同様の判断で動的CMSを優先、となります。

静的CMSを選ぶと、どうなるでしょうか? 静的CMSは、静的ページ(HTMLファイル)を生成するCMSで、サーバ負荷が少ないという利点がありますが、データベースを背景にしたい今回の課題には向いていません。静的CMSで03に対応したいなら、導入したCMSとは別に、コンテンツを出し分けるための動的対応が求められるので、そのための開発費が生じてきます。実装中のCMSが静的で、同一CMSでの対応を求められるような事情でもなければ、このケースでは動的CMSの採用が無難です。

コストをかけず即公開希望なら、オープンソース系CMSが◎

身近に感じられる例として、「あまりコストをかけずに、スピーディにWebサイト公開したい場合」についても考えておきます。この場合は、WPをはじめとしたオープンソース系CMSが最有力となります。

WPを選択する強みは、ライセンスが無償で初期コストを抑制しやすいことや、国内だけでも非常に数多く普及しているCMSですので、制作できるデジタルプロダクションが数多く存在することです。

例えば、全体を統括するメーカーのWebサイトとは別に、メーカーの最新商品を単独でWebサイト展開したい場合、WPならコストやスケジュールが読みやすいです。初期段階で100ページ以下のボリューム、かつサテライトページの位置づけであれば、開発スピードが計算しやすいWPがもっとも無難ですし、足りない機能は状況にあわせてその都度カスタマイズするといいでしょう。対応できる制作会社も多いでしょう。

オープンソースだと、商用CMSと違ってセキュリティやサポートの心配が尽きませんが、WPだと社外パートナーを探しやすいですし、社内に精通したエキスパートがいて、大きな規模感でなければ、自前運用を前提にした構築も現実的です。むしろ、CMS選びに迷って公開タイミングが遅れてしまえば、機会損失にもなりかねません(04)。

04 低予算、進行(納品)優先案件に向くCMSの条件
十分な予算がなく、特急対応が求められる場合、ライセンスが無償で取り組みやすいオープンソース系CMSが有力な選択肢になります

別提案の可能性としては、同じオープンソースでDrupal(ドルーパル)を勧める場合があります。WPより初期実装の時点で使いやすく、カスタマイズしやすいメリットがあるからです。ただし、開発できるWebプロダクションが限られるため、開発費がかさみやすくなります。また、WPよりスペックが豊富な分、シンプルな構造のWebサイトとなるほど、オーバースペックになります。その場合はDrupalは不向きでしょう。

WordPress導入は保守に命運あり

では、ここでWPの最適な導入案件について整理しておきます。

WP=安価に対応できるという認識があるなら、改めるべきです。本特集で再三述べられてきていますが、WPはライセンスが無償なので、導入そのものまではハードルが低いとしても、保守を含めた運用体制を確立するとなると、技術的にも予算的にもハードルが高いCMS、とも言えます。ビジネスでの利用を想定するなら、社内外で技術面の人的リソースを確保しながら、導入そのもの以外の、保守を中心とした別途の予算もあわせて確保しておく必要が出てくるでしょう。

一方で、WP導入の判断に、事業規模や職種はあまり関係ないでしょう。それよりもWebサイトの種類や内容、運用体制やガバナンス、WPへの理解や対応力、保守への注力度合いにかかってきます。

低予算でWPの導入を進めると厳しい一例が05になります。WPはバージョンアップが生じるので、その都度の対応が求められます。外部に保守を任せていたとして、マイナーバージョンアップであれば月額の保守対応の範囲でできたとしても、メジャーバージョンアップとなればまとまった作業になるので、ほとんどのパートナーが月額とは別の保守対応となるでしょう。

自前で本番環境だけを運用し、きちんとしたテスト検証もせずにバージョンアップすると、最悪、Webサイトが非表示になることがあります。カスタマイズしたテンプレートや加えていたプラグインが動かなくなるからです。

回避策の1つが保守費用を充ててステージング環境を設けることです。ステージング環境とは、本番にほぼ近い環境のことで、この環境で先にバージョンアップ対応を試しておけます。ここまで考えた上で、WPにするか商用CMSを選ぶか、となるわけです。

05 WordPressのバージョンアップ対応の違い
予算をかけると保守体制がきちんとできます。本番環境とほぼ同じステージング環境で十分な動作検証をした後、満を持してメジャーバージョンアップができるからで、事故を回避しやすくなります

スピーディーな構築ならWPがオススメ

ビジネス最適化を意識した時、実現したい中身の優先順位を見誤り、05のような自体が起きてしまえば、本末転倒です。

WPについての知見を持つ制作/開発会社は多いので、予算を抑えながら短期間でWPによるWebサイトを開発することが可能です。ただし運用体制まで考えると、導入検討側のリテラシーが高めで、社内にWPに精通するエキスパートがいたり、保守も社内のエキスパートが担うか、外部パートナーとの提携を前提にしている場合でないと厳しい側面もあります。また、将来的にページボリュームが広がらず、機密性の高い情報を扱う予定がない場合は、WPの導入に向いているでしょう(06)。

06 オススメのWordPress導入の条件
上の条件を裏返す状況が、WPの不得意な状況です。WPのメリットを把握して、最適な状況で導入するようにしましょう

社内にエキスパートがいない場合や社内全体のリテラシーが基本的に高くない組織だと、予算を確保した上で、商用CMSを選択するのが手堅いでしょう。WPと違い管理画面は最初からUX重視で使いやすかったりするからです。

WPはメジャーバージョンアップ対応がつきものなので、他のCMSに比べると導入リスクが高まります。その点から考えても、保守体制が組めるかは外せない要素です。Webサイトの種類や扱いたいデータ、コンテンツにもよりますが、きちんとした保守体制を敷きたいけれど自社だけでは不安があるという場合は、商用CMSが無難でしょう。

私たちがWPを手がける場合、基本機能のままで納品するケースはまずありません。あまりにカスタマイズの度合いが大きくなるなら、カスタマイズ費用の面から考えても、デフォルトである程度の機能を搭載した商用CMSが現実的なことも多いです。

公開のタイミングを優先して、短納期が求められる構築となるとWPが勧めやすいだけに、最後はWebサイト公開のための譲れない条件の優先順位が、CMS選びに直結します。

要件定義から保守までCMS導入で必要な予算の内訳

最後は具体例に基づきながら、CMS導入の予算構成や予算相場、金額の根拠などについて解説します。ここでは、オープンソースのWPと、それ以外の選択肢として商用CMSを挙げて、それぞれで比べてみます。

最初に両者に共通するCMSに関わる予算構成を押さえましょう。「要件定義」「設計」「導入/実装」「データ移行」「保守」の5項目が挙げられます(07)。

07 CMSの予算の組み方(代表的な内訳)
上記とともに、CMSに関わる人材の人件費や割かれるリソースなども考慮しながら判断していきます

「要件定義」は、CMS導入後のWebサイトが果たすべき役割を決める作業です。コーポレートサイトなのかECサイトなのか、特定のサービスサイトなのか。サイトの種類やCMSに関わる体制や人数を定めて、搭載しておきたい機能やUIの方向性を決めます。これらは制作に携わるパートナーが徹底したヒアリングを導入側に行い、要件を洗い出し、最適な形を見出していきます。自社だけでWPを導入する考えの場合でも、社内できちんと行うべき作業です。

要件定義に基づいて、例えば管理画面のUIなどを細かく詰める作業が「設計」です。コンテンツの更新体制が、ある程度CMSへの理解が深い人たちで運用されるのか、複数の部署をまたいでWebリテラシーが決して高くない人たちがいる場合とでは、CMSの選び方が変わりますし、管理画面のUIも変える必要があります。他にもテンプレートやワークフローなども含めて、運用に関わるUIやタスクについて整理します。

「導入/実装」は、要件定義や設計に基づいて、実際にCMSを導入し必要な機能を実装することです。考え方として、洗い出した機能がさほど多くなければ、実装費用は抑制されます。「データ移行」はCMSを乗り換える場合、既存の運営時点でのページボリュームによって、価格の前後が変わります。「保守」はセキュリティやサポートについて、外部パートナーと提携するか、自社内で管理していくかが問われる項目です。

WPも商用CMSも、導入から保守までの費用は変わらない?

それでは、開発期間は平均的な相場(特急案件ではない)という前提で、「500ページ以内のWebサイトにCMSを導入する」という設定で、WPと商用CMSのそれぞれの予算を比較してみます。一概には言えませんので幅のある提示ですが、目安はつかめると思います。

先に結論を言うと、両者ともに一定の費用がかかりますし、表向きの数字はWPが安価ですが、導入以後の運用や保守を含めると、両者の開きがあまり出ない可能性があると言えます(08)。

08 500ページ以内のWebサイトへのCMS導入の予算
欄外に注記があるとおり、上記の数値はCMSの導入に直接的に関わる費用のみです。 ※上図の内訳や価格は仮の設定に対する、あくまで一例です。

WPの要件定義や設定は、人日単位(1日1人にかかる費用)で算出し、ここでは1人日で5万円としました。どの制作会社にも知見が貯まっているCMSで人日単位で組みやすい背景もあるからです。導入/実装費用は、コンテンツのボリュームが少なければもっと抑制されますし、テンプレートが少なくて済むなら、さらに抑えられます。データ移行の費用も同様の考え方です。

WPで難しいのは保守です。必ずしも固定の保守は必要でなくても、マイナーバージョンアップごとの対応や、メジャーバージョンアップ時の追加プラグインなどの動作検証は必須です。自社だけで不測の事態に対処できないなら外部パートナーとの保守契約締結は必須です。自社対応なら社内リソースの費用への考え方も判断が必要です。

商用CMSは、本来一括りにできませんが、私たちがよく取り扱う商用CMSの平均を意識しています。WPより割高なのは製品そのものの価格が入っていますし、それぞれのCMSに精通する会社がWPほど多くない点も価格に反映されています。高くなる分、保守を含めて安心して運用できるのがメリットです。

予算はCMS選びの大きな要素ですが、実際はなかなか予算だけでは決めきれません。費用とともにUXや運用、保守と社内リソースとの兼ね合いも含めた検討が必須です。

教えてくれたのは… 田島 邦彦(株)アリウープ ディレクショングループ マネージャー アカウントディレクター https://www.alleyoop.co.jp/

Text:遠藤義浩

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