Making of「第二回研究発表会 R/EVOLVE」

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最適化された空間設計とは

 第二回研究発表会 R/EVOLVEは、武蔵野美術大学の芸術祭にて開催された電子音楽研究会のイベントである。地下一階の展示室を舞台に、3日間にわたるライブパフォーマンスが行われた。この「R/EVOLVE」を取り巻くビジュアルについて取り上げる。

 電子音楽研究会(以下、電音研)は「武蔵野美術大学電子音楽研究会」を前身とする、電子音楽とそれをとりまくカルチャー全体の研究、およびその研究発表を行うプラットフォームである。研究の成果発表という形で、一年に一度行っているのがこの「研究発表会」である。

 電音研のイベントの「つくり方」は大抵の場合、空間設計から始まる。その会場でしかできないような最適化された空間をどのように作るか。その上で、映像やビジュアルを考える。空間設計のチームから上がってきた提案は、パフォーマーを中心にそれを取り囲むように映像を投影するスクリーンを設置するもので、上から見ると円形を切り取ったような形である。

 ビジュアルもこの空間設計を基に具体的な言葉を定め、造形を組み立てていく。空間設計の円形、中央を軸とした回転の要素と、第一回研究発表会が「Awakening(目覚め)」という言葉を使っていたことから、目覚めた後の進化を表す要素。「回転・廻る」を意味するREVOLVEと「進化・発展」を意味するEVOLVEを組み合わせた造語である「R/EVOLVE」をテーマに据えることとした。

進化をグラフィックで表現するには

 造形手法としては至ってシンプル。ある一点を軸にマスター図形を反復させ放射状のパターンをつくる。マスターの図形が変化すると複製された図形もそれに合わせて変化する。 マスターには8つのアンカーポイントが使用されているが、少しのハンドルの調整や座標の変化でダイナミックにビジュアルが動きを持つような仕組みとなっている。最初からこの仕組みを狙ってつくったわけではなく、あくまでAdobe Illustratorのパスエフェクトで色々遊んでいるときに、偶然出来上がった形である。

 書体はTWK Ghostを全面に使うこととした。セリフ書体の持つ堂々と威厳のある雰囲気を保ちつつ、古めかしく伝統主義的にはしたくなかった。力強さと新鮮さ、キレの良さという観点から選定した書体。電音研がロゴやWebにて使用しているデフォルトの書体TWK Everettが同ファウンダリによる制作であることから、相性も良いと判断した。

 フライヤーの構成も極端なまでに中心を意識させるレイアウトである。中軸揃えにサブテキストをシンメトリーに配置、静的に佇むタイポグラフィと中央から爆発的に広がるような造形、それぞれの対比が生む動的でもあり静的でもあるようなコントラスト。「進化」というテーマに視覚的な力強さを持たせるための激烈な朱色。

ビジュアルを拡張する

 これを基にメンバーである坂本倫久にポスターを動かしてもらった。この際、基本の造形原理は説明するものの、詳しい動き方の指定はあまりしなかった。上がってきたモーションには単に造形が変化するのではなく、まるで呼吸しているかのような溜めと発散のリズム、それに呼応するタイポグラフィの表示といった、自分では想定し得ないようなモーショングラフィックならではの動きが付与された。

 さらにこれを拡張させるツールとして、同じくメンバーである角田創がパラメーター操作にて形を探ることのできるシステムを構築した。モーショングラフィックは、あくまで映像として定着させるための動きを作るプロセスであった。それより前の段階、どのような操作で形が生まれるのか探る行為を促すツールがこの造形システムである。 本来であればこれを基にビジュアルを展開する予定であったが、開発期間などの関係で実用には至らなかった。しかし、ビジュアルを考えるときに、形を作り出すツールから開発してビジュアルを拡張していくという手法の第一歩目としての役割は非常に大きかったのではないかと今振り返ると思う。

 8つのアンカーポイントを、自分自身はそれそのものとしてしか見ていなかったところに、パラメーターとしての役割が与えられる。越境的競合によって生まれる面白さ。R/EVOLVEの持つビジュアルのエネルギーは、そういった面白さに興奮する自分自身の感情が出た結果なのかもしれない。

CREDIT

電子音楽研究会: https://denonken.com/

TWK Ghost: https://www.weltkern.com/shop/detail-typeface/ghost

坂本倫久: https://x.com/skmchiiiii_201

角田創: https://tndhjm.com/

第二回研究発表会 R/EVOLVE: https://shunsukekudo.com/projects/revolve/

写真: Rei Sato

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