“カスタマー・ジャーニー”をどう考えたらいいのか?
適切なカスタマー・ジャーニーを描くことは、ペイドメディアをペイド以外のメディアとどう組み合わせて運用していくかをプランする上でも非常に有効だ。今回は「行動視点」でカスタマー・ジャーニーを考察する。
illustration:石川マサル(mi e ru)
話してくれた人
國田 圭作さん
前博報堂行動デザイン研究所所長、現博報堂行動デザイン研究所外部アドバイザー。1982年東京大学卒業、同年博報堂入社。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。近年は「健康行動」を喚起するための「健康行動デザイン」に関する研究と取り組みも行っている。
カスタマー・ジャーニーの終着点をどこに設定する?
近年のマーケティング界では、次々と新しいキーワードが登場しては更新されていく。トレンドワードをキャッチアップしていくだけで精一杯だ、という声も耳にするが、重要なのは、そのキーワードの背景にある思想を理解することである。
数年前まで「タッチポイント」という用語がトレンドだった。「顧客の生活動線上にブランドと出会う接点をつくろう」という思想から生まれたものだが、運用の中で「メディアありき」でタッチポイントを設計しがちだった。そこで「メディアではなく、顧客ありき」という自戒の念から生まれたのが「カスタマー・ジャーニー」という発想だ。
ところが、その思想を十分に理解せず、単に「認知から検索、そして購買に至る」というAIDMA型※プロセスをカスタマー・ジャーニーと呼ぶ人が多い。生活者のジャーニーは1回の購買で完結するとは限らない。最終的に顧客をどこに導きたいのか、企業/ブランドのヴィジョンがゴールとなる。
01は「ダブル・ファネル」と呼ばれるモデルだ。左半分はいわゆるAIDMA型の、行動に至るまでのファネル。だが、そこが終点ではなく、むしろその行動体験を起点として、どう顧客の意識と行動が変化し、ブランドのファンに育っていくかという右半分の重要性を気づかせてくれるモデルだ。
ある老舗ホテルは、顧客3代にわたる交流でカスタマー・ジャーニーを描くという。両親に連れられた幼い日の体験から、自分が大人になり、やがて祖父母として孫を連れていく。そうしたブランドとの絆(エンゲージメント)が深まるプロセスの想定が重要だ(02)。
カスタマー・ジャーニーを360° × 365日で把握
適切なカスタマー・ジャーニーを描くには、360° × 365日で顧客行動を俯瞰するアプローチを推奨したい。一般的には「どう検索するか」「どう購買するか」「どう使用するか」というキー・モーメントにフォーカスして、そこでアクションプランを考えることが多い。
ここでは「買う→持つ(保管する)→使う→捨てる(交換する)」という全周的なサイクルで描くことで、今まで見過ごしていた行動チャンスを発見できる(03)。特に「持つ」「捨てる」は見落とされがちな行動だ。さらには1カ月、1年という長い期間で行動を俯瞰することで見えてくることもある。
例えば入浴剤で考えてみよう。入浴剤は冬によく売れるが、夏場は浴槽にお湯を溜めずシャワーだけで済ます人が多く、入浴剤には厳しい季節だ。購買履歴を追いかけると、夏冬、同じブランドを使ってくれるロイヤルユーザーはいても、夏はまったく使わず、冬になると同じブランドに戻る“渡り鳥”ユーザーがいることもわかってくる。これも一つのカスタマー・ジャーニーだが、半年も間隔が空くと、再び確実に戻る保証はない。夏場にも施策を投入し、関係性を維持する方が効果的だろう。
そこで、猛暑の夏に入浴剤を売るために、まず浴槽を溜めてもらう行動をつくり出す必要がある。夏に人気なのはプールである。「お風呂を溜めよう」ではなく「ちょっとぬるいプールをつくろう」と読み替えることで、夏の入浴行動を活性化させることができるはずだ(04)。360° × 365日で気を配りながら思い描いたカスタマー・ジャーニーを実現するためには、こうした行動デザインが不可欠だ。
※Web Designing 2016年12月号掲載記事を転載