よくある家族写真に著作権は発生するのか?

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

(※この記事は2015年8月時点の法令等に基づいています。) 

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7月8日に島根県の松江城が国宝に指定されましたが、みなさんはどんなお城なのかご存じですか? ためしに検索してみると、インターネット上には膨大な数の松江城の写真があふれています。これらの写真は簡単にPCに保存でき、コピー&ペーストして利用することもできます。便利な時代になったものです。しかし、写真に著作権があることは、みなさんもご存じでしょう。だから、プロのカメラマンが撮影した芸術性を感じる松江城の写真を無断で利用することはないと思います。

では、一般の方がスマートフォンで撮影して、SNSに投稿した平凡な写真の場合はどうでしょうか? もしかしたら誰にでも簡単に撮れる写真には著作権はないと思う方もいるのではないでしょうか。

下の写真は子どもを抱いた夫を妻が撮影した、ごく普通のスナップ写真です。この写真を、戦後日本の裏社会で活動した外国人を描いた書籍『東京アウトサイダーズ』で掲載したところ、写真の撮影者である当時の妻が著作権侵害を理由に訴えました。「東京アウトサイダーズ」事件と呼ばれる裁判です。

裁判の結果、東京地裁はこの写真に著作権が成立するという判決を下しました。構図やシャッターチャンスの捉え方に創作性を認めることができるというのがその理由です。この判例を前提とすると、現在インターネット上に氾濫している写真のほとんどに著作権が成立していると考えた方がいいと思います。

ほかにも「ボク安心 ママの膝よりチャイルドシート」という交通標語が「ママの胸よりチャイルドシート」の著作権を侵害していると訴えた「交通安全スローガン」事件(第一審東京地裁H13.5.30判決)と呼ばれる裁判がありました。この裁判では「ママの胸よりチャイルドシート」という交通標語が「ボク安心‥‥」の著作権を侵害するかが争点となりましたが、裁判所は著作権を認めるものの、「ママの胸より‥‥」の著作権侵害には当てはまらないと判断しています。誰でも簡単に思いつきそうな交通標語ですが、東京地裁はこれについても著作権が成立するとしました。

こうしてみると著作権が成立するためのハードルは意外と低いということがわかります。もっとも著作権が成立するといっても、このように比較的ありふれた作品の場合、その権利はあまり強力なものではありません。

前述のスナップ写真についても、写真撮影者に著作権があるといっても、構図や被写体のポーズがよく似た別の写真がこの写真の著作権を侵害するといえるわけではありません。少し相違点があると侵害が認められない“弱い権利”しか認められないというわけです。とはいえ、著作権が成立しているのは間違いありませんから、いわゆる完全なコピー&ペースト(デッドコピー)の場合は著作権侵害となります。前述の事件ではオリジナル写真がそのまま使用されたので著作権侵害と判断されています。どんなに平凡でありふれていると感じる作品でも、無断でデッドコピーして使うのは避けた方がよいでしょう。

書籍『東京アウトサイダーズ』(ロバート・ホワイティング 著)に登場する人物の写真。被写体である男性本人はすでに故人だったが、撮影者である当時の妻が著作権侵害を理由に提訴した (第一審東京地裁平成18.12.21判決、知財高裁平成19.5.31判決)

※Web Designing 2015年9月号掲載記事を転載

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