音声SNSの注意点

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

(※この記事は2021年4月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。) 

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音声SNSの複雑な権利関係

Clubhouseが人気を集めたように、文章、写真や動画ではなく音声での発信を主とするSNS(音声SNS)の注目度が上がっています。そこで、音声SNSの利用に際してどのような問題があるのか考えてみましょう。

音声SNSで他人に音声を発信するのは、多数または少数でも不特定の人に対して伝達をすることになるので著作権法上は「公衆送信」にあたります。ですから、小説の朗読や、音楽の演奏(以下「演奏等」とします)などを流すと公衆送信権侵害になります。

「演奏等」にはいろいろなパターンが考えられます。好きな詩を朗読したり、歌ったりして生の演奏等をリアルタイムで流す場合、好きなCDやネット配信といった録音された演奏等をBGMとして流す場合などです(下図参照)。方法は異なりますが、著作物が伝達されているのは同じですから、これらは全て公衆送信権の侵害になります(下図①)。音楽についてはYouTubeなどの主要な動画配信サイトでは、JASRACなどの主要な著作権管理団体と契約をしています。しかし、音声SNSでそのような契約をしている例はまだないようです。

次に、録音された演奏等を流す場合には、著作権以外の権利も問題となります。CDなどには、収録されている小説や音楽についての著作権とは別に、収録されている音源に対する権利があります。著作隣接権の中のレコード製作者(レコード会社)の権利です。このレコード会社の権利の中に送信可能化権という権利があります(下図②)。要するに多数または不特定の人に伝達できる状態にする権利です。音声SNSに音源を流すと、アクセスした人は誰でも聴くことができる状態になるので、送信可能化権の侵害になります。自分でCDを直接流す場合も、放送・配信されているCDの音を流す場合も同様です。

さらに、放送されている著作物の音を流す場合にも、著作隣接権のうち放送事業者(放送局)の権利が問題となります。放送しているコンテンツについて、放送局が持っている権利です。この放送局の権利の中に、レコード会社と同様の送信可能化権があります(下図③)。ですから、放送されている演奏等を流すと放送局の送信可能化権の侵害となるわけです(割愛しましたが、有線放送局にも同様の権利が認められています)。

なお、サービス提供する配信事業者の著作隣接権は認められないので、ネット配信中の演奏等を流しても配信事業者の権利は問題となりません。

このように音声SNSで演奏等を扱う場合は、権利関係が複雑です。例えば、Clubhouseの利用規約では著作権を含む知的財産権を侵害するコンテンツを流すことは禁止されています。手軽に利用できる音声SNSですが、注意は必要です。

著作隣接権には演奏した者の権利(実演家の権利)もあるが、より複雑になるため割愛

※Web Designing 2021年6月号(2021年4月16日発売)掲載記事を転載

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