TPPで変わる著作権の保護期間。「戦時加算」って知っていますか?

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

(※この記事は2015年12月時点の法令等に基づいています。) 

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10月7日に、環太平洋連携協定(TPP)交渉が大筋で合意に達しました。合意内容はさまざまな経済分野にわたっていますが、知的財産権に関しても重要な項目が含まれています。今回は、著作権に関する合意項目のうち、保護期間の問題についてご紹介します。

著作権には保護期間があります。現在の日本の著作権法では、著作権の保護期間は著作者の死後50年となっています。ところが外国では死後70年という国が多数派です。このように外国と日本で保護期間にズレがある場合、条約では短い期間が適用されることになっています。そのため、米国の著作権は米国内では70年保護されるのに、日本国内では50年しか保護されません。米国などはそれが不満なので、TPPにおいて日本の保護期間も70年にするよう求めており、日本側はそれを受け入れたわけです。近いうちに著作権法が改正され、著作権の保護期間は70年になることでしょう。

ここまではそんなにややこしい話ではありませんが、実は国内の著作権問題を複雑にしていることがあります。日本に対する「戦時加算」という制度です。第二次世界大戦の連合国の著作権については、本来の著作権の保護期間に戦争期間に相当する約10年間(1941年12月5日から平和条約が発効する日の前日まで)を加算するという制度です。日本は戦争中、対戦国の著作権を保護していなかったからその「著作権保護の空白期間」を穴埋めしろというわけです。加算される主な国と日数をまとめたのが下の表です。スイスやスウェーデンなどの中立国、イタリア、ドイツなどの枢軸国、そして連合国でもサンフランシスコ平和条約に署名していないロシアや中国などには戦時加算の適用はありません。この戦時加算により、米国や英国などの連合国の著作権の保護期間は、現在の著作権法ではおおむね死後60年となります。

たとえば、小説『風と共に去りぬ』の著者のマーガレット・ミッチェルは1949年に逝去していますから、本来の著作権の保護期間は没年の翌1950年1月1日から起算して50年後の1999年12月31日までとなります。そこに表の米国の戦時加算の期間である3,794日が加算されると、最終的に保護期間は2010年5月20日までということになります。

著作権の保護期間を70年に延長した場合、戦時加算も含めると保護期間は約80年になるところですが、報道によると今回のTPPに基づく著作権の保護期間の延長に伴い、TPP参加国との間では戦時加算は解消される見込みです。とすると、法改正後の外国の著作権の保護期間は、70年(もともと戦時加算の適用がなかった国とTPP参加国)と、約80年(もともと戦時加算の適用があったTPP非参加国)の二つの場合があるという、ちょっと複雑な状況になります。

なお、著作権の保護期間が延長されても、すでに保護期間が過ぎてしまった著作権が復活することはない見込みです。ですから『風と共に去りぬ』の著作権が復活することもないと考えてよいでしょう。

海外の著作物に対する戦後加算日数一覧。TPP加盟国間では撤廃される予定だ

※Web Designing 2015年12M月号掲載記事を転載

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