ジェイミー・カレイロ(PARTY NY)|芸人根性がつくり出したハイブリッドモンスター

筆者がニューヨークのチャイナタウンの真ん中にある汚いオフィスで一緒に働いているクリエイティブ・ディレクター/テック・ディレクターのジェイミー・カレイロは、信じられないほどなんでもできる人だ。

プログラムを書き、電子回路を自由自在に組み上げる。映像の監督もできれば企画もできるし、すごいカッコいい企画書もつくれる。デザインもできる。

今の時代、なにかをつくるためにはテクノロジーとアートの両方の技術が必要だということはよく言われることで、そういう意味でハイブリッドな人が多くのものづくりの現場で活躍している。筆者自身もデザイナーとプログラマーを経験しているから、そういうタイプではある。どうすればそういうふうになれるのか、なんていうことはよく聞かれる。

しかし、ジェイミーほどの高いレベルでオールマイティにものをつくれる人はそうそういない。一緒に働く仲間としては最高に心強い存在であり、同じつくり手として嫉妬を感じる存在だ。いったいどういう人生を歩んで、どういうことを考えて生きてくれば、ここまでのつくり手が生まれるのか。その秘密を探るのが今回のミッションだ。

「宇宙は素晴らしいストーリーを人々にもたらしてくれる。宇宙の前では、人種とか宗教とかは関係なくなる。人に夢やイマジネーションをもたらす。だから宇宙は素晴らしいんだ」

ジェイミーは風邪で辛そうにしながらも、楽しそうに話す。彼はものすごい「宇宙好き」だ。時折、仕事中にロケットの打ち上げ中継を見て盛り上がったりしている。宇宙について話しだすと、止まらなくなる。「なんでそんなに宇宙が好きなの?」という質問に対する答えがこれだった。

「宇宙飛行士になりたかったんだよ」と言うのも頷ける話だ。科学が好きで、宇宙開発のような大きなテーマに取り組んでいきたいという気持ちもあったらしい。彼はMIT(マサチューセッツ工科大学)に入ってコンピュータサイエンスを学び、一度は科学の道に入った。

「けど、その道は諦めた。プログラムでコンパイラを書くことは、本当に自分が好きなことからは遠すぎたんだ」

彼は、MITからデザインの学校であるRhode Island School of Designに移籍してしまう。東大の理学部から美術大学に移籍するようなものだ。そのとき彼は相当に悩んだらしい。そもそも彼は宇宙のことばっかりしゃべっている科学好きだ。科学を続けていればいいのに、そこから別の領域に向かって彼を突き動かした強力な「なにか」があったはずだ。

「自分は人を楽しませるのが好きな人なんだよ。音楽を演奏したり、なにかを演じたり、物語を話したり。そういう自分と、テクノロジーを愛する自分とで折り合いをつけなければならなかったんだ」

そう。ジェイミーの本質はエンターティナーなのだ。日本語でいうと芸人だ。他者になにかを伝えたり、表現したりする上で、ものすごい芸人根性を持っている。芸人根性とは、もっと言うとサービス精神ということになる。

「こうすればもっと楽しんでもらえる」「こうすればもっと良くなる」。そういう芸人根性がジェイミーの根底にはある。そして、人を楽しませるという目的と、狭い部屋でオタッキーなプログラムを書くことは彼にとって遠かったのだ。

ジェイミーは、良い芸を見せる(良いものをつくる)ためには手段を選ばない。そんな彼が、自分がもともと好きだった知識や技術、つまりプログラミングや電子工作を「人を楽しませる」ために使いだしたのはとても自然なことだった。しかしそれだけではない。

「MITで学んだ一番大きなものは、『あらゆるもののやり方・作り方は学ぶことができる』ということだった」

大事なのはハイブリッドを目指すことではなく、好きなことを実現するためにはなんでもやるということだ。テクノロジーもアートも手段でしかない。

目的をとても大事にしているから、手段はなんでもいい。なんでもいいから、ボーダーレスに自分の能力を拡張していく。学び方を知っているから、映像でも、プロダクトデザインでも、なんでも自分のものにしてしまう。

PARTY NYのオフィスにて話しているジェイミーと筆者。ハードウェアづくりの達人でもあるジェイミーの机は、常に謎の部品で埋め尽くされている http://www.jamiecarreiro.com/
自宅にある工房。ガレージを改造して作業場にしている。会社所有のレーザーカッターもここに設置している
Time Travel Radioは、ジェイミーが考案したPARTY NYの新商品プロトタイプ。左のつまみでボリュームをコントロールし、右のつまみで年代をコントロール。年代に応じたヒット曲を聴くことができる
PARTY NYでジェイミーが手がけたプロジェクトたち。ハードウェアからミュージックビデオまで多岐にわたる
ジェイミーはポルトガルのアゾレス諸島からの移民の子孫。腕に入っているタトゥーは、アゾレスの伝統的なものだ

 

清水幹太のQuestion the World:
30代後半になってニューヨークに移住した生粋の日本人クリエイター清水幹太(PARTY NY)が、毎月迎えるゲストへの質問(ダベり)を通して、Webについて、デジタルについて、世界を舞台に考えたことをつづっていくインタビューエッセイ。

 

Text:清水幹太
Founder/Chief Technology Officer/PARTY NY 1976年東京生まれ。2005年より(株)イメージソースでテクニカルディレクターを務める。2011年、クリエイティブラボ「PARTY」を設立。企画からプログラミング、映像制作に至るまで、さまざまな形でインタラクティブなプロジェクトを手がける。現在はニューヨークを拠点に広告からスタートアップまで幅広い領域にチャレンジしている。>http://prty.nyc/
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