現場から見たCMSトレンドの変化。デザイン会社コンセントが語るMovable Typeへの「信頼と課題」

CMSを選ぶときには、機能やコスト、将来の運用まで、いくつもの要件が絡み合います。だからこそ「なかなか決めきれない…」という悩みは少なくありません。そんなときに頼りになるのが、数多くの導入を手がけてきたプロの視点です。
今回は、豊富な経験を持つ株式会社コンセントのウェブディレクター・山﨑貴史さんにインタビュー。CMSをめぐるニーズや選択肢の変化、そして老舗CMS「Movable Type」シリーズがどんな課題解決に役立つのかを語っていただきました。
教えてくれた人

山﨑 貴史
株式会社コンセント ウェブディレクター/プロジェクトマネージャー
東京工業大学工学部開発システム工学科/社会理工学研究科人間行動システム専攻卒業後、2014年にコンセントへ入社。大手化学メーカーのコーポレートサイトの運用、東証プライム上場の工業系企業のコーポレートサイトのリニューアルのほか、大規模音楽イベントサイトの制作に従事。多くのシステムの導入経験と知見を活かし、Webサイト構築プロジェクトを一貫して対応可能
CMSに対するニーズの変化
コンセントに寄せられる相談の中で、近年目立つのが「内製化」を意識したケースです。コンセントがコンポーネントやテンプレートを設計し、それをもとにクライアント自身が複数のWebサイトを展開していく、というスタイルが増えています。その背景には、サイト構築そのものよりも、Web施策やコンテンツ制作にリソースを割きたいという意図があると感じています。
コンセントではこれまでも、テンプレート設計だけでなく、デザインシステムや運用ガイドラインの策定支援なども行ってきたため、そうした実績に期待いただくことも多いです。
また、機能要件の面では、以前と変わらずセキュリティとパフォーマンスが重視されています。特にセキュリティ面では、プラグインを含めたアップデート対応を放置せず、継続的に維持できる体制をどう構築するかが課題となります。クライアントは構築時の安心だけでなく、継続的に不安なく運用できる仕組みを求めています。

プロジェクトの課題に応じたCMSの選択肢
CMSに対するニーズは少しずつ変わってきていますが、主要な選択肢そのものは、この数年で大きく変化していないと感じています。私たちコンセントでは、数百ページ規模のコーポレートサイトやサービスサイトであれば、その他の要件も加味しながら、Movable TypeやWordPress、PowerCMSなどを提案することが多いですね。
最近は、Movable Typeのクラウド版やMovableType.net、WordPress.comといったSaaS型CMSを提案する機会も増えています。こうしたサービスを選ぶクライアントは、導入後の運用負荷を軽減できる点を、大きなメリットとして捉えています。

一方で、「短期間で小規模なランディングページやキャンペーンサイトを立ち上げたい」というニーズも確実に増えてきました。そうした場合にはSTUDIOなどのノーコードツールをおすすめすることもあります。スピードや柔軟性を優先する場面では、ノーコードは有効な選択肢になると考えています。
さらに、国内外に拠点を持つような大規模クライアントには、システム会社と連携しながらAdobe Experience Manager(AEM)やOpenText Web CMS(TeamSite)といったエンタープライズ向けCMSを導入するケースもあります。プロジェクトによってはHeartCore CMSやSitecoreを提案することもありますし、HubSpotのランディングページ機能など、MAツールを活用した事例もあります。マーケティング施策と一体化できる点は、クライアントにとって大きな魅力になっています。
クラウド版か、ソフトウェア版か。Movable Typeシリーズを選ぶ基準とは?
私たちは、特定のCMSを推奨するということはしていません。クライアントの課題やニーズに応じて、都度最適なCMSをご提案しています。その点で、Movable Typeシリーズには「クラウド版」「ソフトウェア版」「MovableType.net」という3つのラインアップがあるため、提案機会や導入実績も多くなっています。
シリーズの中で、近年提案機会が多くなっているのはクラウド版です。サーバ管理やCMS本体のアップデート、セキュリティパッチ対応といった運用面をシックス・アパートが担ってくれるので、情報システム部門を持たない企業でも安心して利用できます。
クラウド環境で公開できるだけでなく、サーバ配信機能やプラグインを使って静的ファイルをCDNや公開サーバに転送することも可能。CMS本体を公開環境から切り離せるため、セキュリティを強化できる点も大きな強みだと思います。
一方で、セキュリティポリシー上、外部クラウドの利用が制限されている企業にはソフトウェア版が選択肢のひとつになります。その場合はAzureやAWS、GCPといったすでに社内で利用を許可されているクラウド基盤に載せるケースが多いです。更新やパッチ対応は社内体制に依存しますが、既存のITポリシーに準拠できることが決め手になります。
また、短期間でWebサイトを立ち上げたい場合にはMovableType.netをよく提案します。ブロックエディタやフォーム機能が標準で備わっていて、スピード重視のプロジェクトには最適です。ステージング機能もあり、テンプレートを安全に調整できるほか、指定時刻に公開したり、トラブル時には元に戻したりできる点も非常に便利です。

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制作現場がMovable Typeに感じる魅力
Web制作会社やデザイン会社がMovable Typeを選ぶ理由は、プロジェクトの目的や課題、要件によってさまざまです。私たちが提案する際に特に大きいと感じているポイントを、4つに整理してみます。
①アップデートに対する安心感
Movable Typeはサードパーティ製プラグインへの依存度が比較的低いため、CMS本体を更新しても整合性の問題が起きにくく、安定した運用が期待できます。もちろんプラグインはありますが、主要なパートナーと密に連携しているので、アップデート後の不具合は少ない印象です。
さらに、官公庁や教育機関での導入実績も豊富。長期的な信頼性を求めるクライアントにも安心して提案できます。
②パフォーマンス
Movable Type(クラウド版・ソフトウェア版)は、静的HTMLを出力できる点が大きな特徴です。アクセスのたびにデータベースを照会しなくて済むので表示が速く、遅延による離脱を防げます。Google検索での評価(Core Web Vitals)対策にも有効です。管理画面についても、古いバージョンの印象から「重い」と言われることがありますが、実際には設計を工夫すれば快適に利用できます。
一方で、MovableType.netは動的CMSですが、プラットフォーム側でキャッシュやチューニングを行っているので、表示も管理画面も十分に快適です。
③開発の柔軟性
制作会社にとって扱いやすいことも強みです。歴史が長く、情報が豊富に共有されているので、安心して開発を進められます。
また、現場で必要とされる機能の多くが標準で備わっているため、無理にカスタマイズをしなくても対応できます。私たちも「作り込みすぎない」設計を重視しているので、その点でMovable Typeは相性がいいと感じています。
④コスト
Movable Typeは有料のCMSですが、企業向けとしては提案しやすい価格帯です。クラウド版やMovableType.netはサイト規模に応じた複数のプランが用意されており、料金体系も明確です。
ライセンス費用がかからないオープンソースのCMSもありますが、保守やアップデート対応で想定外のコストが発生しやすいのが実情です。その点、Movable Typeはイレギュラー対応のリスクが少なく、運用コストを見積もりやすいのが魅力。特に官公庁や教育機関のように、年度予算に合わせたいクライアントにとっては大きなメリットになります。

Movable Typeに感じる課題と、AI時代のCMSのあり方
もちろん、Movable Typeにも改善を期待したい点はいくつかあります。ひとつは、基盤となっている言語がPerlであることです。Perl自体は歴史が長く安定していますが、今はPHPやNode.jsといった言語が主流になっているため、将来性を気にするクライアントも少なくありません。
もうひとつは、公式ドキュメントについてです。機能リファレンスやタグの説明は充実しているものの、「どの書き方がベストなのか」「規模に応じた効率的な実装方法は何か」といったベストプラクティスが見えにくいと感じています。たとえば、大規模サイトを構築する際にパフォーマンスを維持するには、どのような設計が有効なのか。そうしたナレッジが体系的に整備されれば、もっと多くのユーザーが安心して活用できるのではないでしょうか。

今後のCMSは、AIとの連携がますます重要になると考えています。これはMovable Typeに限らず、CMS全般に共通する課題です。
最近では、検索結果の最上部にAIによる要約が表示されるようになりました。そうした時代には、AIが理解しやすい形でWebサイトを構築することが求められます。だからこそ、CMSにも構造化マークアップやサイトマップを自動的に整備し、AI最適化(AIO)やLLM最適化(LLMO)を支援してくれる機能を期待したいと思っています。
制作現場においてもAIは欠かせない存在になりつつあります。実際コードを書くのにAIが役立つ場面も増えていますが、その回答はインターネット上に蓄積された情報に依存しています。その点、長年にわたって豊富なナレッジを積み重ねてきたMovable Typeは、AIを活用したCMS構築において大きな強みを持っていると感じます。
さらに、長い歴史を持ち、今も多くのユーザーに使われ続けているという事実は、プラットフォームの将来性に対する信頼感にもつながります。Movable Typeには、その信頼を維持しながら、新しい時代の要請にも応え続けてほしいですね。
取材・文:小平淳一、撮影:山田秀隆、企画協力:シックス・アパート株式会社
※本記事はシックス・アパート株式会社とのタイアップです。
