Claude DesignとFigma Makeはどう使い分けるべき?──Figmaはなぜ、事業をドライブする「コミュニケーション基盤」になり得るのか《村田俊英の『事業をドライブさせるデザイナーの越境思考』|Vol.5》

2026年現在、サプライチェーンリスク管理SaaS「Resilire」の現場で行われたひとつの実験は、プロダクトデザインの歴史における決定的な転換点を浮き彫りにしました。同じデザインシステムとPRD(製品要求仕様書)を、Claude DesignFigma Makeという2つのAIに読み込ませた結果、導き出された結論は明白です。

「画面を1から手で作る時代」は、実質的な終焉を迎えつつあります。これまでデザイナーのアイデンティティの一部であった「ピクセルを操作する」という行為が、AIによる数秒の処理に置き換わったとき、私たちは何を持って「デザイン」と呼ぶべきなのでしょうか。

本稿では、ツールの進化がもたらした「作業コストの消滅」と、それによって顕在化した「デザインの本質」について考察します。

2つのAI──Claude DesignとFigma Makeが示す「生成」の二面性

実験で比較された2つのAIツールは、それぞれ異なる思想に基づいたアウトプットを提示しました。これは、デザイナーがAIを「どう使い分けるべきか」という新たな戦略を示唆しています。

Claude Design:思考を揺さぶる「饒舌なUI」

Claude Designの最大の特徴は、その高い提案力と対話性にあります。

  • 能動的な問いかけ:指示を待つだけでなく、AI側から「権限ロールの分離」や「未想定のユースケース」について問いを投げかけてきます。これにより、PRDの行間に隠れた仕様の漏れが可視化されます。
  • 完成度の高いビジュアル:Tweaksによる直感的な調整機能や、複数画面を俯瞰できるレイアウトにより、一見するとそのままリリース可能なレベルの「饒舌なUI」を生成します。
  • リスクの所在:その饒舌さゆえに、ドメイン知識が乏しいまま採用すると「見た目は立派だが認知コストが高いUI」を量産する危険性を孕んでいます。

Figma Make:議論を加速させる「ミニマリズム」

対照的に、Figma Makeはより実務的かつ軽量なアプローチを取ります。

  • 削ぎ落とされた構成: 出力されるUIは極めてシンプルであり、プロトタイプの「たたき台」として最適です。デザインは「足す」よりも「削る」方が難しいため、この引き算の思想はプロにとって扱いやすいものとなります。
  • シームレスな移行: Figma本体へのスムーズな接続は、AIの出力をそのまま「実装に向けた議論」へと繋げるワークフローを可能にします。
  • 言語化の要求: AI側からの問いかけがない分、人間側の「何をしたいか」という言語化能力が、アウトプットの質を直接左右します。

画面制作コストの「ゼロ化」と、浮き彫りになるデザイナーの本質

AIの登場により、ワイヤーフレームの作成、コンポーネントの配置、レスポンシブ対応といった「画面を作る作業」のコストは限りなくゼロに近づきました。この劇的な変化は、デザイナーの業務における「80対20の法則」を再定義します。

「作業の2割」が圧縮された後の景色

従来、デザイナーは制作時間の多くをUIの調整に費やしてきました。しかし、その作業が数秒で終わるようになった今、残された「8割」の重要性が極大化しています。 その8割とは、「議論」「合意形成」「意思決定」です。

プロダクトデザインの本質は、画面を綺麗に整えることではなく、画面という共通言語を用いて「私たちは何を作り、何を作らないのか」を関係者全員で合意することにあります。AIは「画面」は作れますが、事業のコンテキストに基づいた「納得感のある意思決定」は代行できません。

AIの登場後、デザイナー業務は大きく変化した。より議論・合意形成が求められている。

なぜ「議論の磁場」なのかFigmaの本質

FigmaがPhotoshopやSketchを抑えて業界標準となった理由は、単なる描画性能の高さではありません。その本質は「同時編集」と「ブラウザベース」という、徹底したコラボレーション思想にありました。

  • 個人の工房から、衆人の広場へ:かつてのツールが「個人の作品仕上げ場」であったのに対し、Figmaは最初から「複数人が同時に思考を同期させるインフラ」として設計されています。
  • AI時代における役割の深化:画面生成コストが下がったことで、Figmaは「仕上げの場」としての役割を終え、AIが生成した複数の仮説を比較し、トレードオフを可視化する「議論の磁場」としての性格を強めています。

実務における「手を使わない」デザインフロー

AIを導入した新しい開発フローでは、デザイナーは早い段階でPdM、エンジニア、ビジネスサイドをFigmaに招待します。

  1. PRDをAIに読み込ませ、異なる論点(例:ビジネス成長重視案 vs CSコスト削減案)を持つ複数のたたき台を生成する。
  2. それらをキャンバスに並べ、各案の背後にある「論点」をテキストで添える
  3. まだUIを一文字も「手で」作っていない段階で、関係者間の議論を開始し、意思決定を加速させる

AIの出力を「議論の素材」に変換する技術

AI、特にClaude Designのようなツールの「饒舌さ」は、使い方を誤れば毒になりますが、正しく扱えば強力な「削る議論」の素材となります。

  • 「全部入り」から始めるメリット:何もない状態から「何が必要か」を考えるのは高コストです。しかし、AIが生成した「全部入り」の状態から、ドメインの文脈に合わせて「何を削るか」を議論する方が、人間ははるかに高いパフォーマンスを発揮できます。
  • 比較による解像度の向上:饒舌なClaude案とシンプルなFigma Make案を横に並べることで、「なぜこの要素が必要なのか(あるいは不要なのか)」という議論の解像度が劇的に上がります。

デザイナーの仕事は、AIと出力の美しさを競うことではありません。AIの出力を、いかに「事業の意思決定が加速する素材」へと高め、翻訳できるかにあるのです。

ジュニアとリードの協働組織の知恵をFigmaに蓄積する

AI時代において、デザイナーの経験値の差は「Figma上でのコメントと判断の質」となって現れます。これは組織における教育のあり方をも変容させます。

  • リードデザイナーの審美眼:AIの案に対し、「認知負荷の高さ」や「業務フローとの乖離」を指摘し、削ぎ落とす判断を下す。この「選別」のプロセスこそが、AI時代における熟練者の価値です。
  • ジュニアデザイナーの成長加速:ジュニアがAIで生成した案に対し、リードがFigma上で論理的なフィードバックを残す。このプロセスを繰り返すことで、リードの「判断の根拠」がキャンバス上に蓄積され、組織全体の知識ベース(ナレッジベース)として機能します。

デザインシステム:AIを動かす「組織のOS」

AIツールの精度を劇的に向上させる燃料、それがデザインシステムです。自社のデザインシステムをAIに読み込ませることで、出力は単なる「それっぽいUI」から、「自社の意志を宿した実装可能なプロトタイプ」へと進化します。

  • 判断基準の圧縮:デザインシステムは単なる色や形のルール集ではありません。「何を優先し、何をユーザーに約束するのか」という組織の判断基準を圧縮したOSです。
  • デザイナーの新たな職能:AIが画面を自動生成する時代だからこそ、その「燃料」となるデザインシステムを構築・メンテナンスできるデザイナーの価値は相対的に高まります。彼らは、AIというエンジンを自社に最適化させる「アーキテクト」としての役割を担うことになります。

まとめ:事業をドライブする「意思決定のデザイナー」へ

今後、AIツールの進化は止まることなく、画面生成の精度はさらに向上し続けるでしょう。しかし、どれだけ技術が進化しても、「人と人が議論し、合意し、事業を前に進める」というプロセスの重要性は変わりません

明日、あなたがFigmaを開くとき、その向き合い方を少しだけ変えてみてください。

  • そのファイルは、誰と何を議論するための場になっているか?
  • AIが生成した複数の仮説は、比較可能な状態で並んでいるか?
  • 非デザイナーが、議論に参加しやすい状態になっているか?
  • そこに残るコメントやシステムは、組織の資産として蓄積されているか?

Figmaはもはや、単なるデザインツールではありません。事業という名の巨大な乗り物を正しい方向へ導くための、コミュニケーションのインフラです。

AIに任せられる「作業」はすべて任せ、私たちはFigmaという広場に立ち、人と人をつなぎ、事業を一段深く、力強くドライブさせていきます。

追記:Config 2026への期待

この「コミュニケーションツールとしてのFigma」という潮流は、2026年6月にサンフランシスコで開催されるConfig 2026においても、最大のテーマのひとつになることが予想されます。AIとデザインシステムの融合が、いかに事業の意思決定プロセスを変革していくのか。その最前線で議論を深める準備を、今からFigmaの上で始めておきましょう。

Config 2026は、2026年6月23日から25日までサンフランシスコで開催予定。
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プロフィール

村田俊英(むらた・としひで)
株式会社Resilire デザイナー

博報堂アイ・スタジオ、STORES, inc.などでWebデザインやUIデザインを経験。現在はスタートアップResilire(レジリア)にて、ブランディングからプロダクトまで全てのデザイン領域を統括。その実践知を活かし、デザインメンタープロを主宰。noteやポッドキャスト「のうきんデザイン ラジオ」でデザインをテーマに発信中。

文:村田俊英(Resilire)

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