Web制作者は今後何を求められる?「Webクリエイターボックス」Manaさんに聞く 2010年以降の業界の潮流

2010年の開設以降、Web業界情報を提供している「Webクリエイターボックス」の運営者で、WebデザイナーのManaさん。ここ15年のWeb業界の変遷について、話をうかがいました。また今後Web制作者には何が求められるのか、アドバイスをもらいました。

教えてくれたのは…

Manaさん
Webデザイナー/Webディベロッパー
2010年1月から、Webサイト「Webクリエイターボックス」を運営中。同サイトはアルファブロガー・アワード2010を受賞している。
https://www.webcreatorbox.com/
https://x.com/chibimana/

目次

2010年代前半は
Web業界の変わり目だった

私は2010年代の半ばまで、海外を拠点にWeb制作活動を続けていました。元々はグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。海外への関心が強かったので、日本を飛び出してカナダのバンクーバーへと拠点を移し、最初はWeb制作を学べる専門学校に通っていました。卒業後に、カナダをはじめオーストラリアやイギリスなどにも渡り、海外でWeb制作業務に携わってきました。私にとって2010年以降の現在に至るまでの約15年間は、海外での活動を続けてきた前半と、日本に戻り、国内で活動を始め出した時期に分けられます。

振り返ると、現在も運営する「Webクリエイターボックス」がスタートしたのも、2010年1月でした。また、2010年はiPhone 4が出た年でもあります。世の中にスマートフォンが普及し始め、Web制作といえばスマホサイトも含めた対応がデフォルト、という時期に差しかかっていました。

加えて、初代iPadが発売されたのも同じ2010年でした。スマホやタブレットが一気に拡がり出したことで、Web制作がイコールで「パソコン向けのWebサイトをつくればよかった」という時代が終わり、スマホやタブレットへの対応、レスポンシブ対応が必須となった時期だったと言えます。

当時からWeb制作者といえば、最新技術に対応するスキルが必要とされ、常に情報をキャッチアップしながら、技術的な部分にも対応できるよう勉強の日々を送るといったところがありました。

2010年代に入って、その傾向は輪をかけて求められるようになった時代に入ってきた印象です。パソコン向けだけでなく各デバイス向けのデザインや実装にも対応しなければならず、そこにしんどさを感じた人たちには、つらく厳しい業界になったと言えます。2010年代初頭は、Web業界において時代の分岐点となった時期だった、とも感じています。

Web制作者は、これまでに勉強してきた蓄積があっても、新たな状況に対してすぐに対応できるわけではありません。対応できるためにも、私の場合、当時は日課として勉強時間を設けたり、情報収集の時間をきちんとつくったりしながら、自らを意識的に洗練させていました。

フラットデザインの台頭
シンプルかつ使いやすく

デザインの変遷を振り返ると、2010年頃はオブジェクトに影をつけて立体感を出したり、実写的なアイコンが好まれていました。大きく変わったのが、2013年にAppleがフラットデザインを採用したiOS 7をリリースした頃になるでしょう。当時はGoogleやMicrosoftなどが手がける世界的なサービスにも、次々とフラットデザインが採用され出した時期でもあります。この頃から、シンプルでミニマル、それでいて使いやすいデザインが求められ始めていたのを覚えています。

技術面では、2000年代のWeb表現を豊かにしていた「Adobe Flash」をiPhoneがサポートしないとなって、これから動的な表現をどのように取り入れ、実現していくべきかに対応する必要がありました。この当時はインタラクションが豊かで、アニメーションが施された“魅せるWebサイト”への評価がまだまだ高かったとも記憶しています。

2010年代に入り、開発環境の変化としては、「jQuery」の普及も挙げられます。動的な表現を実現するにはJavaScriptが欠かせず、とりわけWeb制作者の多くがjQueryを学習し、案件へ導入することが常態化していった時期でした。Webデザイナーは、デザイン寄りか開発寄りかの2種類に大別できますが、デザイン寄りの制作者でも、jQueryが欠かせない技術となっていったので、学習コストをかけて取り組んだ人は多かったと思います。

もう1つのトピックを挙げるなら、「Webフォント」への対応も、2010年代前半から拡がり出しました。ユーザー側のパソコン環境に左右されず、Webデザイナーが採用したいフォントを指定して表示できるので、どういうフォントをどのような狙いで採用するかの判断が求められました。

このように整理していくと、スマホやタブレットなどのデバイス別の対応はもちろんのこと、その他のWeb表現にまつわる技術的な部分を含めて、開発が苦手なWebデザイナーであっても、デザイン以外の多岐にわたる対応が今後も求められ続けるでしょう。

フラットデザインの台頭は象徴的な出来事で、その延長線上でもある現代は、実用性が高く、使いやすいWebサイトが受け入れられる傾向を感じています。

2010年前半は、デザインと技術の両面で起きた大きな変化に、Web制作者がどこまで対応できるかを問われた時代でした

制作や環境だけでなく
ユーザーのニーズも多様化

現在とここ15年を比べた時、制作環境や制作ツールについても、大きく多様化していったと感じています。2010年頃は、「デザイン業務をするなら…」「コーディングするなら…」と、特定の環境やツールが、どのデザイナーにとってもある程度共通していたと思います。また、Web制作ならHTMLとCSSをしっかりと身につけて、動的な要素にはjQueryで実装するといった対応が多かったと思います。

クライアントが管理しやすいサイトとなると、WordPressをベースにした構築がとても有力な選択肢でしたし、そうなった場合のつくり方がある程度決まっていたのが、現在ではノーコードツールがとても増えて、コーディングしなくても質を担保したWebサイトがつくりやすい時代へと変わってきています。

こうした時代背景については、クライアントも熟知していることが増えてきました。私たち制作者は、Web制作で欠かせない要素をしっかりと学んで、知っておくべきことを身につけた上で、さらに広範囲で制作業務にかかわることを理解して、最終的にクライアントが納得する判断をしなければならなくなりました。

ただひたすらに、1つの分野を深く知り、得意なことを磨き上げるクリエイター像では、なかなか通用しないのが現在のWeb業界だと思います。ジェネラリストとしてさまざまなことに幅広く対応できながら、スペシャリストとして「ここが得意です」と言える状態にしておかなければいけないのが、今の制作者に求められているハードルです。自分で言っておきながらですが、私としても大変な事態です(苦笑)。でも、ここまでできて初めて、他者と差別化できている状態だと言えるのです。

無論、制作側だけでなく、ユーザー側も多様化しています。例えば、Webサイトの閲覧環境を考慮すると、現代ではもっと当然のようにアクセシビリティが対応されるべきです。また、制作条件の中には多言語対応が入ることが増えていますし、ダークモードをはじめとした視聴環境への配慮についても、当たり前のように対応すべきことです。Web制作者は、そうした時代の変化に応える技量を身につけ、必要な素養を備えていく。ここに尽きます。

未来は、つくり手にとってもユーザーにとっても、多様化に対応できるWebサイトがますます当然、という状況になっていくでしょう

AIの台頭で問われる
つくり手としての強みとは?

多様化に対応できる技術や環境が揃っている現代だからこそ、つくり手にはますます、その人らしさが強く出てくる個性が大切になるでしょう。普遍的に求められる技術や知識はきちんと兼ね備えている上で、その人らしさが伝わる個性が、これからのつくり手には自ずと求められると思います。

ありきたりな受け答えをしていれば、「だったら、AIがやってくれる」というのが、以前にはない今の発想ですし、さらに拍車がかかるでしょう。すでに制作現場では、コーディングで困ったら、生成AIを活用することで解決しやすい環境があります。つくり手はAIを上手に使いこなしながら、AIではないリアルな人間だからこそ発揮できる力が必要です。

こうした話は、わざわざ言わずとも当たり前だと思うかもしれません。では、実践できているでしょうか? どこまでできているのか、自分を見つめ直す必要があるはずです。例えば、クライアントと直接言葉を交わし、相手の機微を感じ取って柔軟に提案を行ったり、相手の悩みに寄り沿いながらつくっていったりする過程こそ、AIが及ばないところです。いわゆる人間力やコミュニケーション力といったスキルを備えた上での「制作」力が問われてきます。

これからは環境の整備が進むほど、ますます便利で効率的、かつ質の高い成果物がつくりやすい時代になるのでしょう。だからこそ、自分(自社)だけが持つ強みを磨いていきたいです。

Webサイトによっては、ユーザーにあわせてコンテンツを出し分けていますよね? 企業側が見せたいものを見せるのではなく、ユーザーが見たいものを見られるような仕組みがすでにあります。任意の状況で何をユーザーが求めているかを探るには、つくり手として発揮できる人間力やコミュニケーション力こそを、もっと意識的に活用することがAI時代における活路なのかもしれません。というのも、相手の状況に応じながら探っていくような行為が、AIではなかなか難しいアプローチとなるからです。

皆さんにとって、Web制作者としての時間を忘れ、没頭できることは何ですか? そこで取り組んだ分野なり技術なりが、AIがますます発展する中で、堂々と対抗できる皆さんの強みとなるでしょう。

プロンプトの指定ありきで動くAIへの対抗策は、機転が効いたやり取りなど人間力やコミュニケーション力の発揮が1つの打開策でしょう

Text:遠藤義浩
※本記事は、「Web Designing 2024年12月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。

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