AI検索時代でも、Webサイトの成果を生むUX視点【マーケティングUXとアクセシビリティUX】

昨今、AI検索の発展により、Webサイトへの流入が減少する可能性が指摘されています。この記事では、これからのUX設計に必要となる「マーケティングUX」と「アクセシビリティUX」との2つの視点を紹介します。一見相反するように思えるこれらの視点が共存することで、多様なユーザーに価値ある体験を届けることが可能です。

本記事では、株式会社ノベルティ代表の酒井美貴氏が語った、AI検索時代におけるUX設計についてお伝えします。(2025年春 web professional summitセミナー資料より抜粋)

目次

AI検索でWebサイトのアクセスが低下すれば、成果も低下する?

2024年8月以降、Googleの検索結果には生成AIによるAI概要(AI Overview)が表示されるようになりました。

従来の自然検索結果よりもAI概要が上位に表示されることで、ユーザーはAI概要だけで満足し、Webサイトを訪問しなくなる傾向が強まっています。その結果、これまで自然検索で上位表示されていた企業サイトへのアクセスが減少し、資料請求や購入といった成果にも影響が出ている状況です。

これまでは、各企業が検索結果で上位表示されるよう、さまざまなSEO対策を講じてきました。しかし、これからは検索結果で上位表示されるだけでなく、「訪れることで価値がある」サイト設計、すなわち「ユーザー体験(UX)の質」が大事になるフェーズに入っています。

企業の価値を高める、新しいUXの2つの視点

ユーザー体験(UX)とは、Webサイトを利用することで得られる体験全体のことを指します。具体的には、操作性や使いやすさ、その体験によってどのような感情を抱くかなども含まれます。

これまで多くの企業は、直感的で迷わない操作性や、欲しい情報に気持ちよくアクセスできる導線設計など、ユーザーが目的をストレスなく達成するための基本的なUXの向上に注力してきました。

AI検索の時代に、企業のWebサイトがユーザーに選ばれ価値を提供し続けるためには、さらに「マーケティングUX」と「アクセシビリティUX」の2つの視点を持つことが重要です。

成果を最適化するマーケティングUX

マーケティングUXとは、ユーザー心理や行動に基づき離脱ポイントを減らす設計をし、成果を最大化するためのUXです。

マーケティングUXを最適化することで、以下のメリット・デメリットがあります。

メリット
● 資料請求・購入などコンバージョン率の向上
● ABテストによる定量的な施策改善
● 広告・CRM連携による売上最大化

デメリット
● 戦略やターゲット分析にミスがあると成果が出にくい
● 強引な導線は反対にUXを損なう恐れがある
● 常に効果検証と改善を繰り返さないといけない

過度に企業の都合を優先した設計は、かえってUXを損ねる可能性もあるため、ユーザー目線を忘れないことが重要です。

すべての人が快適に使えるアクセシビリティUX

そもそもアクセシビリティとは、障害のある人や高齢者、一時的な不自由を抱える人、技術的制約のある人なども含め、すべての人が情報やサービス、製品などにアクセスし、利用できるようにするための考え方と取り組みを指します。

つまり、アクセシビリティUXとは、さまざまな背景や状況の人々にとっても使いやすいWebサイトを目指すための視点です。

アクセシビリティUXを最適化することで、以下のメリット・デメリットがあります。

メリット
● 新市場の対応、マーケットシェアの拡大
● SDGs/CSR対応としての企業価値向上、無形資産の形成
● SEOだけでなく、AEO、LLMOに効果がある

デメリット
● 正しい知識と技術を元にした対応が必要
● 100%全ての人が使いやすい状態の実現は難しい
● マーケティングやデザインと一部トレードオフとなる場合がある

マーケティングUXとアクセシビリティUXが共存する例

マーケティングUXとアクセシビリティUXは、異なる視点のUX設計のため、ユーザーによって体験の差が生まれることもあります。多くの人にとって便利な機能が、一部のユーザーにとっては操作の妨げとなる場合もあります。

こうした「UXのトレードオフ」が起こりえる状況では、どちらか一方を優先するのではなく、両方の視点を共存させる設計が重要です。

ここからは、マーケティングUXとアクセシビリティUXの両立が実現されている例として、NetflixとAppleの取り組みを紹介します。

Netflix

Netflixはアクセシビリティへの取り組みが世界的に高く評価されている企業のひとつです。さまざまなユーザーが快適に利用できるよう、以下のような機能を提供しています。

  • 補聴システム
  • 音声ガイド
  • 輝度のコントロール
  • フォントサイズの調整
  • キーボードショートカット
  • 再生速度のコントロール
  • スクリーンリーダー
  • 字幕&字幕ガイド
  • 音声コマンド

マーケティングUXとアクセシビリティUXがうまく共存している例として、自動再生機能について紹介します。これは、ドラマなどの次のエピソードがあるものは、自動で次のエピソードを再生する機能です。

何か作業をしながらNetflixを視聴しているユーザーにとっては、操作しなくても続きが再生されるため、とても便利です。また、企業側にとっては、ユーザーに考える時間を与えないことで離脱を防ぎ、視聴継続率を高めるというマーケティング上のメリットがあります。

一方で、視覚障害や認知障害、身体障害を持つユーザーにとっては、勝手に次のエピソードが再生されることで混乱したり不便さを感じることもあります。

引用:Netflix

こうしたケースに対応するため、Netflixでは自動再生機能を使用するかどうかをユーザー自身で設定できるようになっています。

使いにくいと感じるユーザーがいることを考慮し、その不便さを解消するための変更や調整を行うことを「合理的配慮」といいます。このような合理的配慮を取り入れて、さまざまなユーザーが使いやすい仕組みを提供することが大切です。

引用:Netflix

Apple

Appleの公式Webサイトでは、これから製品を買うユーザーの期待を高めるような画像や動画が豊富です。

視覚障害のあるユーザーにも内容が伝わるよう、各ビジュアルには詳細な代替テキスト(aria-label)が設定されています。また、動画には再生停止ボタンが用意されており、読み上げ機能を使用するユーザーが動画を停止し内容を把握することが可能です。

このように、合理的配慮のもと、さまざまなユーザーに情報が正確に届くようWebサイトが設計されています。

引用:Apple

1人でも多くのユーザーに寄り添い価値を提供する

これからのWebサイトのUX設計には、アクセシビリティへの配慮は必要不可欠です。

また、NetflixやAppleのように、合理的配慮のもとマーケティングUXとアクセシビリティUXの共存を実現することで、より多くのユーザーに価値を届けられます。

大切なことは、サービスや製品を利用するユーザーの視点を意識したうえで、その先にある成果や利益を追求することです。1人でも多くのユーザーに寄り添い、使いやすさだけではなく訪れることで価値が得られる体験を提供することで、企業のマーケットや成果がさらに広がっていきます。

セッションで使用されたスライドの全ページは、以下よりご覧いただけます。

文/小嶋七海(ちょっと株式会社)

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