BASSDRUMの「人間不在のラジオ配信実験」に学ぶ、AIと人間の心地よい関わり方
「人間とAIの心地よいコミュニケーション」をテーマにした独自プロジェクトに取り組むBASSDRUMでは、最新事例としてAIのパーソナリティとディレクターが人間不在で制作するラジオの配信実験を行いました。テックヴィジョナリーの毛原大樹さんに、その仕組みや人間とAIの関係をデザインする考え方についてうかがいました。

BASSDRUM
Webサービスやフィジカルプロダクト開発・イベント企画などのさまざまなプロジェクトを技術面からリードするテクニカルディレクターを集めた、世界初のテクニカルディレクターコレクティブ、およびその中核にある会社組織。クリエイティブとテクノロジーを横断的に理解し、両者のコミュニケーションを媒介しながら、プロジェクトのあらゆる局面において技術を武器にチームの実現力を最大化している。
https://bassdrum.org/
AIと人間が協働する作品づくり
BASSDRUMでは、2024年春ごろから「人間とAIの心地よいコミュニケーション」をテーマにした独自プロジェクトに取り組んできました。人間とAIの関係性についての議論をチーム内で促すなど、クリエイティブビジョンの策定を担ってきた毛原大樹さんは、プロジェクトの内容をこう話します。
「第1弾プロジェクトでは、駄菓子の情報を教えたChatGPTをスマホに入れ、我々の京都事務所に併設している駄菓子屋に置きました。『300円分の甘いお菓子を選んで』といったオーダーに応え、ソムリエ的な働きをしてくれます。こうした人間と1対1でコミュニケーションするAIの活用は一般的なものになりましたが、第2弾プロジェクトでは、複数人とAIで協働する実験を行いました」

それは、BASSDRUMがスポンサーを務めるKBS京都のラジオ番組「祇園pickup あっぷ!」内の企画としてオンエアされた、AIが演じるラジオドラマ「祇園ピックアップ物語」でした。
「ラジオドラマでは、まずChatGPTに盛り込みたい設定や必要な話数などを伝えてキャラクターの名前や性格・背景を考えてもらい、朝倉翔太というジャズミュージシャンを目指す17歳の少年が誕生しました。ラジオドラマのあらすじもChatGPTが考え、それを元に人間が話しあってAIに修正案を提示しています。さらにAI朝倉翔太に我々がインタビューしてエピソードを引き出し、それをAIに伝えて脚本に反映するという流れで、AIと協働して脚本をつくりました(01)。番組では、AI朝倉翔太が音声生成AIによる声で演じた全20話のラジオドラマをオンエアしています(02)」


そして第3弾プロジェクトとして、AI朝倉翔太をパーソナリティとしたラジオの配信実験を行いました。
2人のAIが届ける人間不在のラジオ配信実験
第3弾プロジェクト「2人のAIによる人間不在のラジオ配信実験」は、AIラジオディレクターが指示したテーマに沿ってAIパーソナリティがトークするラジオ番組でした。2024年7月にBASSDRUMが東京で開催した展示「SEEDS ー未公開プロトタイプ展」で披露し、ライブストリーミング配信プラットフォーム「Twitch」で配信(03)。AIラジオディレクターはWebカメラで見た会場内の様子から連想してトークテーマを決め、ロボットアームでキーボードに入力することでAIパーソナリティに伝えました。


「AIラジオディレクターには人格を設定せず、『前に指定したテーマと被らないものにする』『2つ以上の話題を選定する』というプロンプトを入力しました。例えば立っている人を見て『ウインドウショッピング』、会場にある照明を見て『インテリア』を連想し、『ウインドウショッピングとインテリア』をテーマに指定するというように。
2人のAIがコミュニケーションを取ることは、1台のパソコンでもできます。しかし、あえてWebカメラやロボットアームのようなデバイスを介したコミュニケーションにすることで、人間不在のプロジェクトでありながら、人間が介在する余地をつくりました」
パーソナリティは、ラジオドラマの演者として誕生したAI朝倉翔太が務めています。AIラジオディレクターが指定したテーマからAI朝倉翔太がジャズミュージシャンの目線で内容を考え、トークしました。
「2人のAIで、人間が配信しているかのようなラジオを目指しました。ただ、実際にAIだけでつくるラジオ番組を放送局に売り込むとしたら、24時間疲れずに放送し続けられるという機械ならではの強みが一番のメリットになるのではないかと思います(笑)」

AIと人間の関わり方次第で表現の可能性が広がる
3つのプロジェクトを通して、毛原さんは「人間とAIの心地よいコミュニケーション」をどのように捉えているのでしょうか。
「AIの技術は日進月歩で進化しているものの、発話のイントネーションに不自然さがあったり、適切な情報を与えるまでは平均的な意見しか出せなかったりと、まだまだ苦手なことがあります。そのため、人間が得意領域に応じて役割分担をするように、AIに得意なことを任せて苦手なことを人間が担うという役割分担をすることによって、さまざまな場面で心地よいコミュニケーションが取れると考えています。
それこそラジオドラマの脚本制作で行ったように、AIと人間が一緒に会議をする関わり方は有用だと感じました。人間はアイデアに行き詰まって意見が出なくなるときがありますが、AIはそうしたことがなく会話を進めてくれるので、会議が活性化します。また、人間の考えをすべて入力したAIの分身をつくれば、ラジオの配信実験のようにAIとAIだけで会議を行い、その間に人間は別の仕事を進めることもできます」
しかしながら、AIは人間の仕事や活動を奪うのではないかと懸念を持たれることもあります。
「絵やものづくりなどの表現活動は、楽しいから自分でやりたいという人が多いのではないでしょうか。私個人としては、表現をAIに任せてしまうと、人間が物事を『見る』『知る』きっかけを逃すのではないかという懸念があります。
これは、人間とAIの今後の関係を見据えたとき、理想的なあり方とは言えないのではないかな、と。願わくば、人間が自身でやりたいことの可能性を広げるために活用するのが、人間とAIのいい関係ではないかなと思います」
BASSDRUMでは、すでに新たなプロジェクトが始動しています。
「環境センサーなどで周辺の状況を読み取り、それをAIで『静かな夕暮れが訪れ、涼しい空気が湿った土の香りを運ぶ』といったポエムにし、ポエムを元に楽曲生成AIでその場にマッチした音楽を自動生成する『エコチューン』というプロジェクトに取り組み始めました。この『エコチューン』を世界各地の街に置き、好きな場所の今の雰囲気を感じる音楽を聴けるサービスがあってもおもしろいかなと思います。その場で生成された音楽と人間のストリートミュージシャンが即興でセッションをするというコミュニケーションが生まれると、楽しいですよね」
取材・文:平田順子
※本記事は「Web Designing 2025年4月号」に掲載された内容を一部再編集して作成しています。

