組織体制を一新して、新たなステージへ。ちょっと代表・小島芳樹と新CTO伊藤大知が語る「AI時代に目指す姿」

2025年10月、次世代Webサイト構築プラットフォーム「Orizm」を提供するちょっと株式会社(以下、ちょっと社)に、新たにCTOとして伊藤大知氏が就任しました。

これまでOrizm開発チームのリーダーとしてプロダクト開発を支えてきた伊藤氏。AIやクラウド技術の急速な変化のなか、ちょっと社として新しいステージに踏み出すタイミングでのCTO就任となりました。

就任の経緯と、ちょっと社が目指すエンジニア組織、そしてOrizmの未来について、伊藤氏と代表取締役の小島芳樹氏に話を聞きました。

目次

異なる職種やレイヤーの経験が武器

──まず、伊藤さんのこれまでのキャリアを教えてください。

伊藤大知(以下、伊藤) 最初は、ハードウェアを制御する組み込み系のプログラマーとして働いていました。機械を直接動かすような、いわゆる低レイヤーの開発です。その後、Webエンジニアに転向し、ソーシャルゲームを運営するgloopsという会社で小島さんと出会いました。

小島芳樹(以下、小島) 当時、社内で勉強会を開いていて、伊藤くんはよく顔を出してくれていたんですよ。その後、僕がグッドパッチに転職して、大きな案件が決まり、サーバーサイドができる人材を探していたときに伊藤くんを誘ったのが一緒に仕事をするきっかけでした。

伊藤 グッドパッチでは、エンジニアとデザイナーの混成チームをマネジメントしていました。UI/UXデザイナーやサービスデザイナー、インフォメーションアーキテクトなど、さまざまな職種の人たちと関わる中で得た経験は、今も大きな糧になっています。ちょうど会社が大きく揺れていた時期でもあり、チームマネジメントの難しさと大切さを、身をもって感じた期間でした。

その後、AIを活用したローコードサービスを開発する企業に転職しました。ChatGPTが登場する少し前、GPT-2が話題になり始めた頃で、AIと開発をどう結びつけられるか、日々試行錯誤していました。

ちょっと株式会社のCTOに就任した伊藤大知氏

──そこから、伊藤さんがちょっと社に入社された経緯を教えてください。

伊藤 子どもが生まれたことをきっかけに、働き方を見直したいと思ったんです。そのタイミングで声をかけてくれたのが小島さんでした。当初は「動画を活用した教育系プラットフォームをつくる」という話だったのですが、実際に入ってみると状況が変わっていて(笑)。

小島 あの頃は確かに動画プラットフォームに挑戦しようとしていました。ただ、資金面などの制約もあり、Jamstackのようなモダンなフロントエンド開発に特化した受託開発をやっていこうというふうに方針を転換し、それが少しずつ波に乗ってきた頃に伊藤くんが加わってくれたんですよね。

ちょっと株式会社・代表取締役の小島芳樹さん。会社員としてWebデザイン・ディレクション・事業開発の仕事に携わる傍ら、勉強会や技術者向けコミュニティを主催。2018年5月に独立し、2019年4月ちょっと株式会社設立

伊藤 もともとの話とは違っていましたが(笑)、僕自身、WordPressに依存したWeb制作に危機感を持っていて、Jamstackのような新しい技術には強く惹かれていました。ちょっと社にはフロントエンドエンジニアが多く、バックエンドやデータ連携の知見を持つ人が少なかったので、そのあたりでも貢献できると感じました。

組織をつなぎ、変化を導く役割を担うCTOに

──伊藤さんはこれまで技術基盤チームのリーダーを務めていました。今回、CTOに就任された背景を教えてください。

小島 実は、ずっとCTOになってほしいとお願いしていたんです。でも毎回やんわり断られていて(笑)。

伊藤 僕がCTOだなんて、恐れ多かったんです。社内には僕より若くて優秀なエンジニアがたくさんいますし、当時は子どももまだ小さくて、プライベートを優先したい気持ちもありました。

ただ、AIを中心に開発のあり方が変わっていくなかで、「そろそろ自分が旗を振るべきだ」と感じるようになっていきました。

小島 これまで受託開発がメインの事業だったところから、この半年の間に「Orizm」の事業としての可能性が広がってきていて、それに合わせた組織づくりの必要性に迫られていたんです。一方で、生成AIの進化に合わせてエンジニアの業務内容や必要なスキルの見直しについても進めていかなければならないと感じていました。そこで「全体をつなぐ旗振り役」が必要になり、改めて伊藤くんにCTO就任をお願いしました。

伊藤 僕は“持てる者の義務”という言葉が好きなんです。僕らはgloopsやグッドパッチなど恵まれた環境で、多くの先駆者たちから学んできました。ライフステージとしても子どもが少し大きくなり、働き方も徐々に変わりつつある中で、「今度は自分たちが次の世代をリードする番だな」と思ったんですよね。

小島 コードを書いてプロダクトを改善するCTOもいれば、開発全体をリードするCTOもいます。伊藤くんには「つなぐ」ことに注力してほしい。マネジメント視点をエンジニアチームに注ぎ込みながら、技術的な構造をつなげ、進むべき方向を示してチームをリードしていく──そんな役割を期待しています。

──伊藤さんがCTOに就任してから、社内ではどのような変化がありましたか。

伊藤 ちょっと社はリモートワーク中心なので、直接的に大きな変化を感じることはありません。ただ、就任した途端にSlackで、今まで知らなかったいろんなチャネルに急に招待されました(笑)。これまではOrizm中心の活動でしたが、受託チームとも関わるようになり、全体を見渡す立場になったことを改めて実感しましたね。

小島 これまではWebサイト制作・アプリケーション開発・Orizmの開発と、エンジニアが分かれて配置されていたんです。そのため、技術的な知見の共有が十分でなく、一方で進んでいる技術が他方で活かされていない、という状況が生まれていました。今回の組織再編で、エンジニアをひとつのチームとしてまとめ、そのトップに伊藤くんを据える体制にしたんです。

彼は本当に仏様のように穏やかで、僕とはまったくタイプが違います。僕はすぐ怒っちゃうんですけど(笑)、伊藤くんはみんなが困っているときに、しっかり優しくアドバイスしてくれるんですよ。本人は謙遜していますが、技術知識も非常に広い。そういう人がトップに立つことで、チーム全体に安心感と信頼が生まれるんじゃないかと期待しています。

AIとどう向き合うか。Orizmが目指す先とは?

──AIの急速な発展に対して、ちょっと社としてはどのように向き合っていこうと考えていますか。

小島 AIの活用は、大きく2つの軸で考えています。ひとつは社内業務の効率化、もうひとつはAIアプリケーション開発の強化です。

転機となったのが、Vercelのシリーズ資金調達でした。これまでフロントエンドクラウドプラットフォームと位置づけられていたVercelが、その発表で「AIクラウド」への転換を宣言したんです(※1)。時価総額は93億ドル(約1兆4000億円)に達し、業界全体がAI統合へと急速にシフトしていることが明らかになりました。

同社が提供するAI SDKはNext.jsとの親和性が高く、まさに私たちの強みをそのまま活かせる領域です。そうした背景もあってか、自然とAI関連の相談が集まってくるようになりました。

(※1)Towards the AI Cloud: Our Series F

伊藤 AI開発といっても、自分たちでAIを“つくる”より、既存のAIをどう“活かす”かが鍵です。実際、受託の現場ではAIを組み込んだコールセンターシステムや、社内検索の仕組みづくりといった案件が動き始めています。受託のWebアプリケーション開発は、AIアプリケーション開発へと姿を変えていきそうですし、自社サービスのOrizmにも当然ながらAIが組み込まれていくと思います。

小島 AIアプリケーションによって、これまでのWebの役割は大きく変わります。「ページ」を作るのではなく、「エージェント」を作るのがエンジニアの仕事になる。そのため、これまでにない体験設計が必要になってきます。そんな時代だからこそ、「使う人を理解し、やさしい体験をデザインできるチーム」でありたいと思っています。

──ちょっと社は「テクノロジーをやさしく届ける」というミッションを掲げています。めまぐるしく業界が変化する中で、改めてその意味をどう捉えていますか。

小島 「テクノロジーをやさしく届ける」とは、使う人のリテラシーに合わせて最適な体験を提供することだと思っています。たとえば、AIが利用者の状況に応じてUIを切り替えたり、視覚に不自由のある方に音声で案内したり。そうした“人に寄り添うテクノロジー”を実現できれば、それこそが本当の“やさしさ”だと考えています。

伊藤 僕自身のポリシーは「寛容さ」です。人のメンタルを大切にしながら、楽しくスキルアップできる環境をつくっていきたい。AIの進化はものすごく速いですが、僕はスピードよりも理解の深さを重視したいと思っています。AIが生み出すものがまだ完璧ではない今だからこそ、人間のエンジニアが深く考える価値がある──そう信じています。

──そういった思いをふまえて、Orizmを今後どのように進化させていきたいと考えていますか。

伊藤 これまではCMS制作プラットフォームとしての側面が強かったですが、今後はより“開発者に愛されるプロダクト”へと進化させたいですね。使っていて楽しく、開発者の能力を引き上げるようなツールを目指しています。そうすることで、これからますます多様化していくウェブサイトのニーズに応えられるプラットフォームにしていければと思っています。

小島 これまではCMSが中心でしたが、今後はデジタルエクスペリエンスプラットフォーム(DXP)というジャンルを目指しています。Adobe Experience ManagerやSitecoreのように、CMSの周辺領域も包括的に提供していく構想です。

たとえば、freeeが会計から労務、請求管理まで領域を広げたように、OrizmもCMSにとどまらず、マーケティングオートメーション(MA)やセキュリティといった領域まで展開していく計画です。最終的には、顧客がウェブサイトを通じてやりたいことをすべて完結できる製品群にしたい。その中心にOrizmがある──それが僕たちの描く未来です。

取材・文/大井あゆみ、写真/山田秀隆

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