《制作会社インタビュー》Movable Type Premiumで実現する企業サイト運用の「新基準」──大規模管理とガバナンスを支えるCMSとは?

近年、大企業のWebサイト運用は、かつてないほど複雑さを増しています。グループ会社や複数拠点にまたがるサイト群の統合管理、巧妙化するサイバー攻撃への対策、組織改編にも耐えうる柔軟な承認フローの設計───CMSに求められる役割は、もはや単なる更新基盤にとどまりません。
こうした課題に対し、開発元と構築パートナーの両面から解決策を提示しているのが、株式会社フューチャースピリッツです。同社が推進する「Movable Type Premium」は、なぜ今、大企業のWeb戦略における“新基準”となりつつあるのか。プロダクト責任者の大前司さんと、マーケティング担当の廣谷いおなさんに、現場で培われたリアルな知見を伺いました。
エンタープライズがCMSに求める「新基準」とは?
現代のエンタープライズにおけるWebサイト運用では、CMSに求められる基準そのものが大きく変化しています。単に「お知らせを更新できる」といった機能性にとどまらず、組織全体のガバナンスやセキュリティをどう担保するか、さらには長期的な運用品質をいかに維持するかまでが、CMS選定における重要な判断軸となっています。
多くの企業が直面している課題を整理すると、主に次の4点に集約されます。
- ガバナンスと集約管理
子会社や拠点ごとに個別運用されてきたWebサイトを統合し、管理を一元化すること。 - 高度なセキュリティ
改ざんや乗っ取りを防ぐための静的配信環境の構築や、WAF(Web Application Firewall)の導入。 - 組織に最適化されたワークフロー
多段階の承認ルートや、組織変更にも対応できる柔軟な権限設計。 - 安定した長期運用の実現
担当者が変わっても、一定の品質と保守体制を維持できる仕組み。
これらの厳しい要件を満たしつつ、現場の運用負荷をどうすれば下げられるのでしょうか。
フルスクラッチでの開発は、コストや保守性の観点からリスクが高い。一方、汎用的なCMSでは、カスタマイズを重ねることでセキュリティ面の不安が残ります。そこで近年注目されているのが、「堅牢な静的配信」を前提に、エンタープライズ向け機能を標準化したパッケージという選択肢です。
その代表格といえるのが、Movable Typeの上位版である「Movable Type Premium」(以下、MTP)です。では、長年の実績を持つMovable Typeを基盤に、エンタープライズ要件を統合したMTPは、なぜ多くの大企業に選ばれているのでしょうか?
制作・運用の現場から見た「MTP」の優位性
MTPは、フューチャースピリッツがシックス・アパートと共同開発する、エンタープライズ向けCMSです。同社は長年にわたりインフラサービスを軸にWebサイト運用を支えてきた実績があり、セキュリティ対策や負荷分散といったインフラ面の知見と、コンテンツ管理の設計を一体で提供できる点を強みとしています。
プロダクト責任者の大前司さんは、近年の傾向について次のように語ります。
「最近では、最初からMTPを指名してお問い合わせいただくケースが増えています。弊社のエンタープライズ案件のうち、現在は5割強をMTPが占めています」(大前さん)
現場で特に評価されているのが、MTPに標準搭載されているプラグイン群です。たとえば、セキュリティを重視する企業に欠かせない「SiteSync」は、CMSサーバから公開用サーバへ、静的HTMLのみを同期する機能を提供します。
「通常、こうした同期設定には専門的なサーバ知識が求められますが、SiteSyncを使えば管理画面上の操作だけで完結します。サーバに詳しくない担当者でも、安全に運用できる点は大きなメリットです」(大前さん)
エンタープライズ領域では、セキュリティ対策を特定の担当者に依存させないことも重要なポイントです。管理画面上で直感的に操作できる設計は、運用の属人化を防ぐうえでも有効に機能しています。

「欲しい機能が最初から揃っている」から運用コストも抜群
マーケティング担当の廣谷いおなさんは、運用フェーズで特に重宝されているプラグインとして「ReplaceableVersion」を挙げます。
「運用フェーズでの『やってしまった』というミスに対して、もっともシビアなのがエンタープライズ企業です。ReplaceableVersionは、そうした失敗を未然に防げる、非常に頼もしい存在です」(廣谷さん)
このプラグインを使えば、公開中のページを維持したまま裏側で修正案を作成し、指定した日時に自動で差し替えることが可能。セール情報やIR情報など、公開タイミングが厳密に管理されるコンテンツでも、事前準備を落ち着いて進められます。
こうした合計22種類のプラグインは、フューチャースピリッツがすべて自社で開発・管理しています。プラグイン同士の相性やバージョン差を気にせず運用できる点は、長期的な保守・運用を考えるうえでも大きなメリットといえるでしょう。
もちろんMovable Typeをベースに、必要な機能を個別に追加していくという選択肢もあります。しかし、初期構築から運用フェーズまでを見据えると、あらかじめ必要な機能が揃ったMTPを選ぶことで、結果的に運用コストやリスクを抑えられるケースは少なくありません。

多階層組織の課題を解決する実践的活用
ここからは、フューチャースピリッツが実際の案件でどのようにMTPを活用してきたのか、具体的な取り組みを見ていきます。近年特に増えているのが、子会社や拠点ごとに個別運用されてきたWebサイトを統合し、全体にガバナンスを効かせたいという要望です。
「インシデントが発生した際に、このサイトには影響があるのか、あちらは大丈夫なのかといった状況を把握できていないことが、一番の問題になります」(大前さん)
こうした課題に対し、同社ではMTPを用いたマルチサイト構成を提案しています。デザインやヘッダーの統一といった表層的な整理にとどまらず、サーバ構成やOSレベルまで含めて、運用基盤全体を見直していける点が強みです。
一方で、すべてを1つに集約することが常に最適とは限りません。リスク分散のためにサーバを分けたい場合や、ドメインごとに異なる管理体制を維持したいケースもあります。
そうしたニーズに応える選択肢が「Movable Type Premium(Advanced Edition)」です。複数サーバへのインストールが可能で、ライセンス費用は1つで完結。20〜30サイト規模の大規模運用にも対応できます。LDAP認証に対応している点も、多階層組織での運用を支える重要なポイントです。

適時開示とガバナンスを支える、MTPの強み
続いて、MTPが特にシビアな運用現場で力を発揮する具体例を見ていきましょう。
エンタープライズ領域において、IRをはじめとする適時開示コンテンツでは、指定された日時に正確な情報を公開することが強く求められます。加えて、公開前の情報がURLの推測などによって外部から閲覧できてしまう事態は、企業にとって致命的なリスクとなります。
こうした課題に対し、MTPでは前述の「SiteSync」を活用することで、公開前のコンテンツをインターネットから隔離された非公開領域で管理し、指定したタイミングで公開サーバへ同期する仕組みを構築できます。物理的に領域を分けることで、未発表情報への不正アクセスリスクを構造的に排除できる点が特徴です。
また、適時開示の運用では「承認フロー」の設計も重要な要素となります。統制を重視するあまり承認ステップを厳格にしすぎると、公開までのプロセスが滞り、スピード感が失われるというジレンマが生じます。
「承認フローを厳しくしすぎると、公開までに越えなければならない壁が増えてしまいます。そこでMTPでは、『代理承認』や『グループ承認』といった仕組みを用意し、統制を維持しながらも承認の停滞を防げるようにしています」(廣谷さん)
失敗が許されない現場だからこそ、個々の担当者の注意力に依存するのではなく、システム側でミスが起きにくい構造を整える––––––こうしたきめ細やかな配慮こそが、MTPがエンタープライズ運用を前提に設計されていることの証左といえるでしょう。
情報の「発射台」として、企業の価値を加速させるCMSの未来
ますます複雑化していく企業サイトのニーズに対し、MTPはこれからどのように応えていくのでしょうか。最後に、今後の展望についても伺いました。
「これからのCMSは、企業内に眠っているナレッジや、まだ言語化されていない企業の空気感をすくい上げ、世の中に届けるための“発射台”になっていくべきだと考えています」(大前さん)
たとえば、女性管理職の比率や離職率といった、これまでは表に出にくかった情報をCMSに蓄積し、就職希望者や投資家など、その情報を必要とする人へ的確に示していく。Webサイトのためのコンテンツ管理という枠を超え、より大きな視点で企業のナレッジを蓄積・発信していく場としてのCMS──大前さんは、そんな未来像を描いています。
現時点では、まだ構想段階のアイデアに過ぎず、具体的な実装のかたちは未知数です。しかし、MTPが時代の変化を敏感に捉えながら進化を続けていくことは間違いありません。同社が提示するCMSの「新基準」は、これからの大規模サイト運用のあり方を、より本質的なものへと押し上げていくはずです。
プロフィール

大前 司 さん
株式会社フューチャースピリッツ
デジタルマーケティング事業本部 ゼネラルマネージャー
Webデザイン会社を経て、2013年にフューチャースピリッツ入社。Web制作ディレクターとインフラコンサルという立場でクライアントワークに従事。2025年、事業継承を機にMovable Type Premiumのプロダクト責任者に就任。

廣谷 いおな さん
株式会社フューチャースピリッツ
デジタルマーケティング事業本部 マネージャー
服飾メーカーの販促・広報やアートギャラリー運営を経て、2021年フューチャースピリッツに入社。制作・運営ディレクションやSNS運用に携わり、2025年よりMovable Type Premiumのマーケティングを担当。
取材・文:小平淳一



