
mountがリニューアルしたWebサイトで伝える、自社の矜持と価値

深い企業理解に基づく緻密なつくり込みのWebサイトを数多く公開してきたmount。最近ではコクヨのコーポレートサイトや大丸松坂屋 百様図 特設Webサイトなどが話題を集めました。そんなmountが、約9年ぶりに自社サイトをリニューアル。そこでは、同社の仕事の進め方や矜持が、より明快に言語化されています。
数々の企業のブランド戦略を紐解き、あらゆる手段で課題解決を行ってきたmountは、自社のWebサイトの役割をどのように定義したのでしょうか。同社代表のイム・ジョンホさんに話をうかがいました。
目次
Webサイトリニューアルで目指す“機会”の獲得
––––なぜ自社サイトを9年ぶりにリニューアルされたのでしょうか。
イム・ジョンホ(以下、イム) 端的にいうと、二つの目的ですね。営業力を高めていきたいというのと「クライアントと出会う機会」をつくり、「若手のスタッフの打席」を生み出すことを目的としています。


––––営業力を強化しようと思われたのには、何か理由があるのですか。
イム ただ良いものをつくっていれば仕事が来る、という時代は終わったと考えています。自ら発信して、わかってもらうための努力をしないと、なかなか機会は巡ってきません。そのため、私たちがどんな考え方で仕事を進め、どんな領域をカバーできるのか、そしてどんな仕事をしているのかを気持ちを込めて伝えることを強く意識してつくりました。
また、内容をアップデートするだけでなく、多くの方に気づいていただけるようにWebサイトのローンチと同時にリリースを出し、SNSでの投稿もバズるよう準備しました。クライアント案件でも必ずそうした仕掛けをしています。
––––SNSでバズらせるために、どのような準備をされるのですか。
イム つくったWebサイトのアピールポイントをしっかり伝えるようにしています。そうすることで、2025年10月にコクヨのコーポレートサイトを公開した際の投稿は70万以上のインプレッション数になりました。今回の自社サイトのリニューアルについても、公開から数日で25万以上のインプレッション数を獲得しています。
イム Web業界の方であれば、mountのことを少しは知ってくださっているかもしれませんが、一般的な知名度は高くないと思っています。新たな仕事の機会を得るためには、トラフィックをつくって、弊社がどのようなことをやっているか知ってもらう必要があるんです。
––––Webサイトのリニューアルは、すべて社内メンバーで実施されたのですか。
イム 僕を含めて、8人のメンバーが中心となり制作しました。社外からは、コピーライターの小藥元さんに参加いただいています。小藥さんとは昔から何度も仕事で苦労を共にした仲なので、私たちがどういうふうに仕事をしているかよくわかってくれているんです。
僕がマインドマップで要素分解をしてWebサイトで何を伝えるべきかを整理し、必要なコンテンツ項目を書き出しました。そして「つくることへの信念が見えつつ、クライアントと一緒にものづくりをしたいという想いが伝わるように」とオーダーし、小藥さんに言語化してもらっています。
––––コピーはもちろんのこと、メニュー名やテキストも全体を通してわかりやすく、どのような会社なのか伝えることに注力している印象を受けました。
イム 企業の方々に、我々がどのようなつくりかたをして、何ができるのかを知っていただけるようにしています。これまでも初めてお会いするクライアントには同じ内容を伝えてきましたが、あらかじめわかっていたほうがお互いに理解が深まり良いのではないかと考えたんです。

プロとして向き合う「クライアントファースト」のあり方
––––課題解決までのプロセスなどが詳しく書かれている「ポートフォリオ」のページでも、どのような仕事をされているのか伝わってきます。
イム 私たちがカバーする仕事の領域を知ってもらうためには、プロジェクトへの関わり方や課題解決のプロセスなどを伝えることも大事だと考えました。将来的にはmountのWebマガジンを展開して、我々の矜持や手法をより詳しくお伝えしていきたいと思っています。

イム また、「サービス領域」というコンテンツも用意しました。ここでは、プロジェクト設計からブランド戦略、制作実行までを一貫して手がけていること、場合によってはトータルプロデュースやアドバイザリーも担う立ち位置であることを明確にしています。
弊社はクリエイティブについてもWeb制作だけでなく、CIやコピー、映像、グラフィック、空間など幅広く手がけてきました。フォトグラファーやコピーライター、建築家、プロダクトデザイナーなど、外部メンバーとの協業を通じて、領域を横断したデザインが可能であることを伝えています。

––––つくる目的として、課題解決が根幹にあるのが伝わってきます。
イム 私たちはつくる前のコミュニケーションにとても時間をかけ、クライアントとエネルギーをぶつけあってお互いを理解しながらアイデアを考えていきます。こうした進め方は、クライアントにも一定の負担をお願いすることになります。だからこそ、あらかじめプロセスを共有しておくことが重要だと考えました。
コミュニケーションを重ねることで、共通理解が持てるようになります。たとえ最終的なアウトプットがすごくシンプルなものになったとしても、なぜそれが良いと思ったのか、どれだけの労力やエネルギーを注いできたかをわかっていただけるので、納得感が生まれるのです。
––––良いアウトプットにするためには、クライアントの協力も不可欠なのですね。
イム 私たちはクライアントファーストの姿勢で取り組んでいます。ただし、それは「クライアントの要望をそのまま形にする」という意味ではありません。
クライアントが本当に成し遂げたいことは何か。その目的に対して、どのようなアウトプットが最適なのかを自分ごととして捉え、考え抜いたうえで提案する。そうした姿勢こそが、プロとしてのクライアントファーストだと考えています。

––––mountが手がけるWebサイトは、つくり込まれたデザインや高度な技術を用いたものが多い印象です。一方で自社サイトは、シンプルなデザインでまとめられている点に少し意外性を感じました。
イム 自社サイトのデザインは、私の中では完成度としてはまだ7割程度です。本来であれば、さらに時間をかけてバランスを調整し、精度を高めることで、より洗練されたものに仕上げることもできました。
ただ今回は、それ以上に「早く公開すること」を優先するべきだと判断しました。これはデザイン上の妥協ではなく、あくまで経営判断です。
––––依頼する立場からすると、むしろ少し隙があるほうが、心理的なハードルは下がるようにも感じます。
イム そうした点も意識しています。自分で言うのもなんですが、隙がないものばかりつくっているので、どこか怖さや、突き放した印象を与えてしまうのではないかという懸念がありました。
なので、今回はつくり込みすぎないことで心理的な障壁を取り払い、距離感を近く感じていただけたらと思っています。
若手の成長を促し、企業としてさらなる成長を
––––「私たちについて」のページで、mountのことを「デザイン プラクティス」とあまり馴染みのない言葉で説明されていますが、これはどういった意味ですか。
イム 海外のデザイン事務所や建築事務所では、「デザイン プラクティス」という言葉が使われることがあります。クライアントと対話を重ねながら、自分たちの手法や矜持にもとづいてデザインしていく集団、というニュアンスです。
「クリエイティブエージェンシー」や「デザインファーム」といった呼び方も検討したのですが、どこかしっくりこなくて。ほかに適切な言葉がないかAIと壁打ちする中で、この言葉を知りました。それまで知らなかった言葉ではあるのですが、mountのあり方を最も的確に表していると感じました。

––––「デザイン プラクティス」がしっくりきたのは、どのような点においてですか。
イム デザインという言葉を、非常に広義に捉えている点ですね。たとえば、制作に集中できる環境を整えてくれているオフィスマネージャーも、僕は“つくる人”だと考えています。プロスポーツにおける裏方やF1のメカニックがチームの一員であるのと同じですね。
––––これまでmountさんに何度か取材をさせていただきましたが、課題解決となるアウトプットに辿り着くまでのプロセスはとても苦しいのではないかと思っていました。さまざまなセクションの方が協力して乗り越えているんですね。
イム 私たちは別にスーパーマンではないので、アイデアがスッと簡単に出てくるわけではありません。どうすれば良いものがつくれるか悩みに悩み抜いて、泥水をすすりながら前に進んでいるんです。
プレッシャーの中で、自分が崩れそうになったり、逃げ出したくなったりすることもあります。それでも、クライアントの課題に向き合い、ビジネスやブランドに貢献するアウトプットを実現したい––––––その思いがあるからこそ、粘り強く、熱意を持って取り組み続けています。
––––先ほど若いスタッフが打席に立つ機会を増やしたいというお話がありましたが、そうした人材をどのようにして育成されているのですか。
イム マネージャーなど上に立つ者が、若手に成功体験を積んでもらうようにしています。つまり、必死に挑戦すれば超えられるくらいのハードルを課し続け、がむしゃらになってアイデアを捻り出していく機会を設定しているんです。本人にとっては苦しいプロセスですが、成長にはそうした壁を乗り越える経験が不可欠だと考えています。
一方で、マネージャーは常に伴走し、乗り越えられなかった場合には責任を持って自ら解決することも重要です。クライアントワークである以上、最終的な品質は絶対に落とせませんから。こうした経験の積み重ねによって、5〜6年前に入社したメンバーも現在はマネージャーとして活躍しており、組織としての強度も一段と高まっています。

––––成功体験を積んだ若手が成長することで、会社も成長していくのですね。
イム 若手から良いアウトプットが生まれ、それが評価されることで新たな依頼につながる–––––そうした循環が生まれていきます。創業から18年間、このスタンスで続けてこられたのは、その成長のサイクルをどうつくるかに向き合い続けてきた結果だと思っています。
そして、クライアントにmountの価値を提供し続けるためには、きちんと対価を得ることも欠かせません。対話を重ねて生み出したアウトプットには、それに見合う価値があると考えていますし、適切な対価が伴わなければ、その価値を持続することもできなくなってしまいます。
今回のWebサイトリニューアルも、そうした我々の価値を継続的に提供し、自社が成長し続けるための取り組みの一つとして実施しました。
取材・文:平田順子 写真:山田秀隆
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