
「売れてるECサイト」は何が違うのか? その理由3つの側面から考える(2/4)●特集「EC再強化」
「ウォークマン」と「LINEスタンプ」が示していること
今ではごくごく普通のことになった、外で音楽を聞くというスタイル。これは1980年代に、ソニーのウォークマンが世に出て初めて登場した行為だ。発売前、ソニー社内でも、「わざわざヘッドフォンで音楽を聴くのか?」という疑問があったと聞いている。しかし、ウォークマンを発売したところ、ご存じのように爆発的に売れ、現在につながる、外で音楽を聴く文化が生まれたのだ。
今の若者にはピンとこないかもしれないが、「メール」も同様だ。最初にパソコンでメールが登場した頃、「電話があるのにメールなんかするのか?」と感じる人は多かった。「絵文字」やLINEなどの「スタンプ」も同様だ。当初は使用に抵抗を感じていた世代も多かったはずだが、今では若者だけでなく、おじさんもおばさんも、いやおじいさんもおばあさんも、「それがあるのがふつう」とばかりに、スタンプを使いまくっている。
こういった事例のように、抵抗感がなくなること、そして「なければ困る」状態になることが「文化」になるということだ。いったん根付いたものは非常に強い。今、LINEのスタンプがなくなったらどうなるのか? 戸惑う人は相当いるはずだ。
これをECに応用するなら、「顧客にとってなくてはならない店にする」ということになるだろうか。文化というと、世間を大きく巻き込んで展開する話に聞こえるかもしれないが、必要としている人にきちんと届け、「なければ困る」と思ってもらえれば、それはECサイトにとって大きな財産となり、「信用」を築くことにもつながる。ではどうすれば、顧客にとって「なくてはならない」存在になれるのだろうか。

これらが普及する前と後で、何がどう変わったかを考えてみると 「文化」とはどういうものかを感じ取れるはずだ。
「オフライン」でしか生まれない絆。コアな顧客をつくりだせ
当初ECだけで展開していた、名古屋に本拠を置く「ベルギービールジャパン」(P054)は、「オフラインのイベントがポイントだった」と話している。膝をつきあわせて話をするのが一番だったというわけだ。少ない人数であっても、しっかりと接客することで「これがなければ困る」と考えるコアな層を作り出す。彼らはSNS等を使って、あなたのECサイトのことを熱心に語ってくれるだろう。その前向きな姿勢は多くの新しい顧客にも伝わっていく。
実施の難しいカテゴリーもあるが、「オフライン」でのつながりは、ECにとって強い武器になる。百貨店の催事でもいいし、何かのマーケットに参加するのもいい。そこで強い絆を作りだそう。
身近な生活の中からサプライズを見つけ出す
ブランドを、消費者に浸透させる手法には学ぶべき点が多い。ブランドはそのストーリーを根付かせるためにさまざまな手を打つが、なかでも興味深いのが「サプライズ(驚き)をもたらす」という手法だ。誰もが「そんなことはありえない」と思うような驚きには、実は、人を引きつける魅力がある。考えてみれば、先ほども例に挙げた「LINEスタンプ」など、もともと「こんなもの自分が使うなどありえない」と思っていた層にも広がっている。驚きや戸惑いが、新鮮さに変わったのだ。
「そんなサプライズは用意できない」と考える人もいるかもしれない。しかし考えてみれば、ECは身近な商圏を越え、さらには国境をも越えていく。実は、「サプライズ」の背景となる「ギャップ」がそこかしこに存在しているのだ。
例えば、我々の身近にある「和」の文化など、海外のユーザーにはギャップだらけだろう。また、世界では売れているのに日本で売れていないものや、その逆に、日本で売れているが世界で売れていないものなどにも注目してみるといいだろう。そこにもまた、さまざまなギャップが隠れている。そのギャップを強調すれば、そこにはサプライズが現れる。一度、広い視野でモノ、コトをあらためて見直してみよう。意外にもハッとさせられることは多いものだ。
「ミッション」は共感を呼ぶもう一度目的をハッキリさせよ
あなたがECショップを始めた理由は何だろう。これを伝えたい、売りたいという強い気持ちはあったのではないだろうか。「ミッション」と言いかえてもいいだろう。私の知り合いのECサイトの店長は、自分が惚れ込んだ「ハム」を売りたくて、自らECサイトを立ち上げた。その気持ちは「共感」の輪を作り「なくてはならない」と考えるユーザーを増やしてくれた。「なぜ、それを売るのか?」 それをあらためてハッキリさせてみよう。

- Text:川連一豊
- フォースター株式会社代表取締役、ジャパンEコマースコンサルタント協会代表理事。1999年よりEコマースを始め、倍々で業績を伸ばす。楽天市場で講師等を手掛けた後独立。これまで1万社以上の企業、モール、ECサイトにアドバイスや取引実績がある。