顧客がそのサービスを仕方なく使っている「悪い売上」●特集「リピーター&ファンを生む新法則」

リピーターでも大きな不満を持ちうる

あるオンライン証券会社(以下「A社」とする)の例を見てみよう。A社では、売上の9割を上位8%の顧客が占めていた。彼らは日常的に大量の取引を行う個人投資家であり、当初A社では、彼らをエンゲージメントの高い顧客とみなしていた。

しかし、彼らに話を聞いてみると、実にその半数近くがA社のサービスに不満を持っていることが明らかになった。彼らがそれでもA社を使い続けているのは、既にA社の口座に多くの株式や債権などを保有しており、他社へ移すのに手間とコストがかかるという理由でしかなかったのである。

 

悪い売上は他社へ流出しやすい

そうはいっても、売上に貢献していることに変わりはないという意見もあるだろう。しかし、このような顧客は外部からの刺激に弱い。例えば、A社の競合であるB社やC社が、口座を切り替えた投資家を優遇するキャンペーンを始めた場合、移動のハードルが下がり、彼らがA社から出ていってしまう可能性が高い。彼らの半数が動くだけで、売上を一気に失うリスクが生じる。

顧客がサービスを心から気に入って買ってくれるときの売上を「良い売上」とすれば、この例の場合の売上は、そのサービスへの感謝が伴っていない「悪い売上」といえるだろう。そして、「悪い売上」は競合他社の動向など外部環境の変化によって失われてしまうリスクを伴っている。安定した顧客基盤をつくるためには、「良い売上」の割合を大きくすることを目指すべきではないだろうか。

A社を仕方なく利用する

左図をみてほしい。この顧客はA社のサービスが使いにくく強い不満を持っているにもかかわらず、買ってしまった株を他社に移す作業に手間とコストがかかり、“仕方なく”A社を利用している。一見するとA社を使い続けている「いい顧客」だが、果たしてこの状態が「エンゲージメントが高い」と言えるだろうか

「良い売上」と「悪い売上」

03のような例は、単にその時の売上を考えるなら結果オーライとも言える。しかし、この状態の顧客は、例えば他社が「乗り換えキャンペーン」などを打ち出してきた場合、簡単に口座を切り替える可能性は高い。サービスを心から気に入ってくれている顧客なら安定した収益も計算できる

 

Text:大谷直也 (株)ビービット コンサルタント
東京大学経済学部卒業後、ビービット入社。 テクノロジーとユーザー中心設計に関する調査・研究活動に従事。
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