
事例:存在感を増す接客・お客様サポートとしての動画
フォロワー数がTwitter超え
iPodに代表される携帯音楽プレーヤーや、スマホの急成長によって、今まで以上に音楽がいつでもどこでも聴けるようになった今。“音”にこだわりを持つユーザーが増えている。
こうしたなか、2007年、大阪・心斎橋に“世界初”のイヤホン・ヘッドホン専門店としてオープンしたのが、(株)タイムマシンが運営する「e☆イヤホン」。急成長を続け、現在は東京、名古屋、大阪に6つの店舗とECサイトを展開している。最近でこそイヤホンやヘッドホンにこだわる人は増えつつあるが、当時はイヤホンやヘッドホンにこだわる人は、いわばマニア。そのため、同店はオープン直後からこだわりを持つユーザーには知られる存在だったが、幅広く店の認知を高めたいとの思いから、ブログやTwitterなどのWebマーケティングを積極的に行ってきた。
「うちは創業が大阪ということもあってか、ケチなんです(笑)。ですから、『タダでやれることは、どんどんやろう』というような雰囲気があって、少しでもたくさんの人に知っていただくために、ブログやSNSなどを使って積極的に情報を発信してきました」

東京都千代田区外神田4-6-7 カンダエイトビル4F
世界中のイヤホン・ヘッドホンが試聴できる専門店。現在、大阪に2店舗、名古屋に1店舗、東京に3店舗を構えている。写真左は大阪日本橋本店
こう説明するのは、創業メンバーの1人で、現在はPR全体を担当する西亮太さん。2010年ごろから、Ustreamを使って「e☆イヤホンTV」と題した生配信を継続的に行ってきたのも、まずは認知向上が目的だったという。そうした生配信を続けながら、動画をアーカイブする目的で、2011年にYouTubeにチャンネルを公開。だが、現在のように定期的に公開するようになったのは、ここ2、3年。その理由を西さんは次のように説明する。
「この2、3年でWeb上で動画を見る機会が急速に増えましたよね。それで、『これからは動画』と漠然と感じはじめて、定期的に動画をアップするようにしたんです。すると順調にチャンネル数や再生数が少しずつ伸びていきました」
現在の更新頻度は1日に1本が基本で、月の再生回数は約50万。2016年内には延べ再生数が1,000万を突破する勢いだ。月に50本ほどアップしていたこともあったが、通知をうるさく感じたユーザーが多かったこともあり、現在の1日1本ペースに変更したという。現在のチャンネル登録者数は約3万で、この数字は2009年6月から力を入れてきたTwitterのフォロワー数とほぼ同じ。こうした状況を「YouTubeの登録者数がここまで伸びると思わなかった」と西さんは驚きを隠さない。

商品レビューを中心に、スタッフの愛機紹介、パーツ交換の方法などを紹介している。ほとんどは、西さん1人で制作しており、編集、撮影などを含め、1日に4~5時間ほどかけているという
動画で接客しているようなイメージ
「e☆イヤホン」に日々、アップされる動画は、西さんによる新商品のレビューが中心。小売店の王道といえば王道だが、同店ならではの取扱商品の特性によるところも大きい。
というのも、同店が扱うイヤホンの数は、東京・秋葉原店だけでも数万点。試聴できるものだけでも数千に上る。それゆえ、「何を選べばいいのかわからない」というユーザーが圧倒的に多い。西さんはそうした声に動画で応えることを最大の目的にしている。
「うちの強みは試聴できる商品が圧倒的に多いこと。でも、店頭に足を運んでいただける人は限られていますから、商品を買うかどうか迷っているお客様の、判断材料になることを一番重視しています。お客様から『この商品どう?』と聞かれて、動画で接客しているようなイメージですね」

e☆イヤホンWeb本店。YouTubeで取り上げている商品ページには、基本的に動画を埋め込んでいる
“動画での接客”に重きを置いているためか、e☆イヤホンの動画は、メーカーのカタログに載っているようなスペック中心の情報ではなく、あくまで西さんによる印象や意見が述べられているのが特徴だ。
「お客様からすると、どうせ商品を売る側の意見じゃないかと思われるかもしれませんが、それでも『個人としての意見』が一番大切だと思っています。いろんな人の意見のまとめみたいなものだと、どうしても『あれもいいけど、これもいいよね』といったような、当たり障りのない意見に落ち着きやすい。そうではなく、商品の特徴をしっかりと際立たせるように伝えたいと思っています」
内容とともにこだわっているのが、紹介する商品のセレクト。「良い商品なのに、何もしなければまず売れないようなもの」を取り上げることも意識している。
例えば、iPhone 7の発売のタイミングで取り上げたワイヤレスイヤホンは、4万円という高額商品にもかかわらず、動画公開後に再生数が急上昇。「e☆イヤホン」をはじめ、他店にも多くの注文が入り、結果、輸入代理店が驚くほどの発注数になったこともある。

撮影は会社の会議室。一眼レフカメラに簡易なストロボと外付けマイクをつけ、撮影している。西さん以外のスタッフが登場することもあり、なかでも「スタッフの愛機紹介」は人気コンテンツ
課題はECサイトへの誘導
耳の肥えた販売員としての感想と、個人としての意見を織り交ぜながら、軽快に商品を紹介していく「e☆イヤホン」の動画。だが、違ったタイプの動画もある。それが、解説や使い方に関する動画だ。
これは店頭のスタッフやお客様サポートセンターによく寄せられる質問に応える形で制作するものでBluetoothイヤホンとスマホの接続方法や、ヘッドホンのパーツ交換方法、「ハイレゾ」など、最近、よく耳にする専門用語などを説明する動画。こうした動画を公開することで、店への問い合わせが減ったり、電話で問い合わせがあった際に、YouTubeを紹介するなど、いわばお客様サポートとしての性質を持つことにも成功している。

スマホとBluetoohイヤホンの接続をわかりやすく解説した動画。この動画によって、問い合わせそのものが減少すると同時に、お客様サポートの担当者も動画を案内するようになり、業務が効率化した

最近、オーディオ業界でよく聞く「ハイレゾ」についての解説動画。こちらも非常にわかりやすく、たくさんのコメントがついている。同店をよく利用する音楽関係者からも褒められたと西さん
YouTubeにアップしていくことで「接客」と「お客様サポート」の役割を果たしている同店の動画。だが、「動画を見て、その後、さらに検討されるお客様が多いようで、YouTube経由の売り上げは多くないのが課題」と西さん。人気商品の入荷をつぶやくと、日に400万円の売り上げにつながることもあるTwitterに比べると、動画経由による売り上げは、「期待よりもずっと少ない」という。
「それでも動画を見て店のことを知ったり、実際に足を運んでくださる人が非常に多いので、うちにとっては重要なツール。今後は、動画のなかで、ECサイトの告知を積極的に行っていきたいですね」
認知向上の目的から始まり、今では接客やお客様サポートとしての役割も担うようになったe☆イヤホンの動画。同店にとって、その存在感は日に日に増している。

- 西亮太
- 株式会社タイムマシン PR本部 メディア事業部 編集長