人を動かすための18の「ツボ」

ネットで見つけたイベントの予定をスケジュール帳に入れていたのに、結局言い訳を見つけて、行かない‥‥。それは「行かなくちゃ!」と感じる「ツボ」が押されていなかったからだ。今回は、思わず人を動かす「ツボ」を解説する。

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脳はついつい「簡便法」に頼りがち

前回は、増加しつづける情報量と脳の情報処理のキャパシティのギャップのせいで「情報コスト」が上昇している、という話をした。そうなると人はどうするか。いちいち情報を集め、その真偽を分析し、最適な判断をする‥‥なんて丁寧にやっていられない。身の回りに危険が迫ったようなときは別だが(脳が高速回転で情報を分析・検討するようになる)、それは相当のエネルギーが必要なので、普段はなるべく楽に物事を判断しようとする。これがチャルディーニという心理学者が「簡便法」と名づけた、「楽な割には、当たる確率が高い」と経験的に学習済みの情報判断のメカニズムだ(01)。

01 チャルディーニの6つの法則
アメリカの社会心理学者、ロバート・B・チャルディーニ(1945~)は、「人は、急いでいる、関心がない、疲れているといったときには、効率的に正しそうな答えを導いてくれる“いつもの方法”に頼りがちだ」という。「簡便法」には6つの法則性があると分析 出典:ロバート・B・チャルディーニ著『社会行動研究会訳「影響力の武器(第二版)~なぜ、人は動かされるのか』(2007年/誠信書房刊)

「簡便法」とは、たとえば、「本当に正しいかどうかを自分で調べず、権威ある人の言うことを信じておく」「希少なものは、価値の高いものだと思う」「みんなが行列しているお店はきっとおいしいと思う」といった判断だ。こうした判断は日常的に行われている。もちろん、行列ができているお店がハズレのことも多いが、それでも気づけば私たちはついつい「簡便法」に頼りがちではないだろうか。

さらに「判断」のもっと手前で瞬間的に体が動いてしまう、という条件反射レベルの行動がある。サッカー日本代表のゴールが決まった瞬間に思わず「やったー!」と立ち上がる人は多いと思うが、いちいち「立とうか、どうしようか」なんて判断はしていない。このように、「簡便法」以外にも人を思わず動かす強い衝動が存在する。前回触れた「行動ブレーキ」を解除することで、行動が喚起されるという状況もある。これらのさまざまな力学を一つにまとめて整理したものが「行動デザインのツボ」なのだ。

思わず動いてしまう行動デザインの18の「ツボ」

行動デザイン研究所では、過去のヒットマーケティング事例がなぜ「人を動かせたのか」という理由を「行動デザインのツボ」として分類、整理している。その主要なものが、今回紹介する18の「ツボ」だ。18の「ツボ」のうち、上半分に挙げているのが「行動アクセル」加速系、下半分が「行動ブレーキ」解放系と考えてもらえばよい(02)。

02 行動デザインの18の「ツボ」
ほかにも多数の「ツボ」のバリエーションは存在するが、代表的なものを18個にまとめた

いくつかの「ツボ」を詳しく見てみよう。「急かされると(ツボ1)」「限定されると(ツボ4)」は、「簡便法」の「希少性の法則」に通じるわかりやすいツボだ。あるピザチェーンが、「毎時00分00秒の瞬間しか発券されない割引券」というWebプロモーションを行い、多くの人がその時間にPCの前にかじりついたのが好例だ。

「帰属意識(ツボ6)」は「簡便法」の「一貫性」や「好意」の法則の活用なので、「◯◯甲子園」のような県対抗のイベントやキャンペーンが不滅なのだ。また、「挑発すると(ツボ7)」は、「自尊心」が刺激される状況のことだ。

「お膳立て(ツボ10)」は、面倒な手間を誰かが引き受けてくれることでリスクやコストが下がり、「行動ブレーキ」が解除されるもの。その代表例は、添乗員付きのパック旅行だといっていいだろう。「お墨付き(ツボ11)」は、まさに「簡便法」の「社会的証明」や「権威」の応用。

では、これらの「ツボ」でなぜ人が動くのだろうか。それは、行動が強い感情と直結しているからだ。行動を抑制している「行動ブレーキ」が解放されたり、逆に感情に強く背中を押されることで、理屈や損得感情抜きでとっさに行動が発生することがある(=行動アクセル)。これが「ツボ」の基本的なメカニズムなのだ(03)。

03 行動アクセル/行動ブレーキの反応モデル
行動発生のメカニズムは、「喜び」など基本的な強い感情(心理学用語で“情動”という)と、社会生活の中で育まれた強い感情(情動)がきっかけとなる

※Web Designing 2015年11月号掲載記事を転載

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