【タイアップ】だれに、なにを、どのように届けるのか? 人から人へ、人からシステムへ コンテキストとコミュニケーション

現代において、デジタルを通じたコミュニケーションは文字情報を活用しているものが中心だ。文字情報の活用自体は以前から行われているが、情報環境や人々の生活スタイルの変化などにより、その姿は大きく変貌を遂げている。そのような中で、情報を正しく届け、受け取るには何が必要になるのか。多様な専門家による座談会を通じて、その答えを探っていく。

左から黒田さん、上野さん、安西さん
目次

コミュニケーションに齟齬が生じる要因

 AI の普及が進む現代社会において、コミュニケーション能力の向上と活用は、人間らしさの追求のために不可欠な要素だ。しかし実際には、多くの場面でコミュニケーションの齟齬による問題が発生している。その理由について、取扱説明書に関する専門家団体である「一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会」の一員として、テクニカルコミュニケーションをテーマに毎年開催される「テクニカルコミュニケーションシンポジウム(以下、TCシンポジウム)」関西地区実行委員会議長の上野由紀子氏は、次のように考察する。「コミュニケーションにおいて、お互いに理解したつもりになっていても、一歩踏み込んだやり取りになると、実は当事者同志が同じ理解に至っていないことが明るみに出ることがよくあります。この状態が進むと、いつまで経っても噛みあわない状況が続き、適切なコミュニケーションに発展しません。伝える側が相手の理解度を考慮した会話ができると、お互いの認識が合い、スムーズなコミュニケーションにつながります。テクニカルコミュニケーションの分野では誰が読んでもわかりやすい文章が求められますが、ここで活躍するためには、伝える力や質問力を身につけることが必要ですし、そうすれば業務効率もアップするでしょう」

短文化が進む文字情報のコミュニケーション

 文字情報を通じたコミュニケーションでは、万人に向けた文章が是とされてきた。「暗黙の了解」に象徴される日本文化をネガティブに捉え、欧米流の論理的で丁寧な説明を追究してきたのがテクニカルコミュニケーションだ。だが、デジタル化とネット文化の定着による情報量の増大、チャットツールやSNS の普及など複数の要因が絡み合った結果、日常のコミュニケーションでは短文を是とする社会に変容している。企業活動や政治活動でも短文の利用がもはや普通のことだ。テクニカルコミュニケーションの専門家である黒田聡氏は、次のように説明する。「短文を常用する日常が定着したために、論理的な説明、丁寧な説明よりも、状況や前後の文脈を指す『コンテキスト』を駆使した簡潔な文章を好む社会規範が定着しました。この変化は、同じ言葉であってもコンテキストによって意味が異なるという『コンテキスト依存』ならではの誤解や分断を生み出しやすくなっています。しかし、文字数の多い文書が重用される時代にはもう戻らないでしょう。この社会規範の変化を直視しなければなりません。一方で、コンテキスト依存度が高いと文字情報に依存しない新しいスタイルのコミュニケーションの創出が進むポジティブな側面もあります」

コンテキスト依存のスタイルをポジティブに活かす

 背景を共有し、行間を読み、省略語や絵文字を用いるコミュニケーションスタイルを好む「ハイコンテキストな文化」は日本の伝統であるため、ますますコミュニケーションスタイルの変容が広がることが予想される。一方で、コンテキスト依存の度合いが高いとコミュニケーションに齟齬が生じやすくなる。この相反にどう向き合うのか。デジタルマーケティングの専門家である安西敬介氏は、人同士、人とシステム間のコンテキスト理解が重要になると説明する。「人と人が対面すれば表情や場の雰囲気からコンテキストを察せられます。しかし文字情報によるコミュニケーションだと、コンテキストが共有されない状態で会話が進んだり、コンテキストの把握に時間を要したり、言葉の意味を取り違えて意思疎通が上手くいかない可能性があるので、対象者に合わせたコミュニケーションの取り方を考えていく必要があるでしょう。テクニカルコミュニケーターはAIなどのシステムにコンテキストをメタ情報として提供し、システムがこれを活用できる状態にすることで、適切な情報提供が期待できるようになっていくはずです。コミュニケーションを取り巻く環境がこれまでにない領域に突き進もうとしています。AIなどの技術を活用していけるかが鍵になるでしょう」

目指す姿は「コンテンツにメタ情報を持たせる」

 自社製品を購入していただいたお客様が必要な情報を提供しようとすると、マニュアルなどのコンテンツやドキュメントにメタ情報を持たせる必要があります。ただしそれらを実現するためには膨大な情報量が必要となるだけでなく、一つひとつにメタ情報を持たせることが困難な状況をも生み出してしまいます。そこで今後求められていくのは、企業の枠を超えたメタ情報の持たせ方に関するルールづくりです。どんな情報をメタ情報として扱い、もう一方で何を扱わないのかを決めることができれば、データの品質向上などを実現し、より効果的な情報提供が可能になるからです。そのためにも、製品構造を理解し、その上でマニュアルの構造を紐づけていく分類が重要になってくるでしょう。

製品モデルと各カスタマーを結びつける理想的ルールの例
上の図は、製品モデルと各カスタマーを結びつけ、必要なコンテンツを届けることができるかについて、上野氏が理想的と考えるルールの例。どこにどういったメタ情報を持たせるかのルールづくりは、その複雑性ゆえに困難を伴うのも現実である

人と人、人とシステムの関係でコンテキストを捉えていく

 これからは、人と人、人とシステムとの関係において、コンテキストの把握がますます重要になります。人同士のコミュニケーションでは、コンテキストの理解に時間がかかることがあります。既にX のGrok などがこの方向に進んでいますが、ここにAIを活用することで、コンテキストを補完し、欠落した部分を吸収し、その中から最適な文章を取り出すなどの動きが出始めてきています。

人とシステムのコンテキストの相違
人同士のコミュニケーションの場合、テキストだけでは得られない表情や態度など対面時のデータがコンテキストを生む一方、
人とシステムではドキュメントに対してメタデータをいかに付与するかがポイントとなる

提供情報の限定を促進するコンテキスト活用

 コミュニケーションが短文化されたことによりコンテキスト依存が強まっています。これは日本に限らない世界的傾向です。求める情報を探し出す過程を大幅に省くことを新技術が可能にしたことが関係しています。従来は人が読み説かなければならなかったコンテキストの特定を、メタ情報を外部に置き、AIなどのシステムに読み込ませることで行うようになりました。これを活用して提供する情報を絞り込むことができます。

コンテキストを前提とした短文化
スマートフォンの普及、SNSの常用、チャットコミュニケーションの日常化によって、
コンテキストを前提とした短文化が社会規範になっている。
手紙、文書の利用は限られた用途、場面に限られる

もっと詳しく知りたい方は! CD&TC シンポジウム2024

一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会(JTCA)では、取扱説明書というパッケージ化された文書が時代に応じて様変わりしている背景を受け、本座談会の内容をはじめとした「情報をどうつくるか」「どう届けるか」「どう使うか」等について、時代に即した技術の知識と研鑽に取り組むためのシンポジウムを開催しています。

 技術の進歩やスマートフォンの普及により、人々の生活スタイルも変化しました。情報のやり取りもインターネットを経由するシーンが増え、発信/受信の手段や表現にも世代の違いを感じます。このような状況の中、わたしたちは情報をどのように伝えていくべきでしょうか? CDシンポジウムは「How do you 伝?」というテーマのもと開催いたします。企画の1つとして、取説が製品に同梱されない前提で、製品情報の伝え方を考えるセッションを用意しました。これらを通し、コミュニケーションに携わる方々が、これからの情報の伝え方を考え、答えを見つける機会にしていただければ幸いです。

 とはいえ、コミュニケーションは形がなく、捉えにくいものです。情報を伝える考え方が見えたとして、具体的に何をどうすればよいのでしょうか? 次に、そのような疑問が湧いてくると思います。続くTCシンポジウムでは、これらの疑問を引き継ぎ、伝えたい情報を簡潔に誤解なく届けるための方法や、メタ情報を使ったコンテンツのつくり方など、テクニカルな仕様まで掘り下げた内容が議論されます。皆さまがCDシンポジウムで見つけた答えを再確認し、具体化する場として、ぜひTCシンポジウムにもご参加ください。

コミュニケーションデザイン(CD)シンポジウム2024
How do you 伝?

概要効果的なコミュニケーションを生む「ユーザー理解」への2つのアプローチ
もし取説を作らなかったら… 製品情報の新しい伝えかた
世代を超えたコミュニケーション おじおば構文ではダメかしら?
開催日時2024年8月27日(火)~29日(木)10時〜17時
配信形式オンライン形式 Zoomウェビナーでの配信(入退室自由)

テクニカルコミュニケーション(TC)シンポジウム2024
製品・サービスに追いつけ! テクニカルコミュニケーター (追いこすで~)

概要準備中
開催日時2024年10月9日(水)~11日(金)10時〜17時
開催形式京都リサーチパークで対面開催。

Text:久我智也 Photo:山田秀隆

本記事は一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会とのタイアップです。

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