サイトリニューアル後の「うまくいかない」を防ぐために──スタジオスプーンが語る、制作者と依頼主の「見え方の違い」とは

Webサイトのリニューアルには多くの関係者が関わるため、それぞれの立場で見えているものが異なり、考え方や判断にもズレが生まれます。特に、依頼主と制作者の認識がずれていると、完成したサイトが使いにくくなってしまうことも少なくありません。

では、制作現場ではどのように、こうした違いに向き合えばよいのでしょうか。今回は、スタジオスプーン株式会社代表取締役の中村明史氏による、立場ごとの見え方の違いとその整理方法をご紹介します。(2025年春web professional summitセミナー資料より抜粋)

目次

クライアント・クリエイター・エンドユーザー、それぞれの視点には違いがある

Webサイトのリニューアルに取り組むとき、「目的は明確なはずなのに、なぜかうまくいかない」と感じたことはありませんか?

実は、背景に存在する「立場ごとの見え方の違い」が関係していることがあります。

Web制作に関わる主な登場人物は、クライアント・クリエイター・エンドユーザーの三者。それぞれが重視するポイントや判断基準は異なります。これがズレが発生する原因です。

このズレに気づかずに進めてしまうと、完成時には見えづらかった使いにくさや運用のしづらさが、後になって影響してくることもあるでしょう。

クライアントの視点

クライアントは、納期や予算、社内調整といった実務面に加え、「効果を社内でどう説明できるか」も重視します。上層部への説得材料や社内合意の後押しになるかといった観点も、判断に大きく影響するためです。

ただし、ブランドらしさや世界観、エンドユーザーがどう考えているかなどの数値化しづらい価値への評価が難しく、本音と建前のギャップが制作側にうまく伝わらないことも考えられます。

クリエイターの視点

クリエイターは、表現の美しさや思想、職人的な完成度にこだわります。一方で、使いやすさや更新のしやすさとのバランスが求められます。Webサイトは情報を届ける手段であるためです。

見た目の完成度を突き詰めるほど、操作性や更新性との折り合いが難しくなる場面があるかもしれません。

そうした葛藤の中で、プロジェクトの目的に合った形を探り続ける──それこそが、クリエイターにとっての難しさであり、やりがいでもあるのです。

エンドユーザーの視点

ユーザーが求めるのは「迷わず情報にたどり着ける体験」。直感的な操作性や、共感できる表現、いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)の良さ」が重要です。

ただし、こうしたニーズは主観的で言語化しにくく、数値にも表れにくいため、制作の現場では扱いづらくなりがちです。

そのため他の要素と比べて判断のよりどころが見えにくくなることもあるでしょう。

このように、それぞれの立場から見た「当たり前」が異なることで、無意識のズレが生まれてしまうわけです。

「ズレ」はすれ違いでなく、よりよい設計への入口

こうした「ズレ」はネガティブなものと思われがちですが、実はそれがきっかけでプロジェクトが良い方向に進むこともあります。

あるプロジェクトでは、デザイン重視のあまり更新しづらい構造になってしまい、運用が続かないという反省がありました。

一方、最初にすべてを決めず、立場の異なるメンバーが都度話し合いを重ねた別のプロジェクトでは、目的と運用性の両立が実現できました。

大切なのはズレをなくすことではなく、制作段階でその存在に気づき、共有すること。違和感を拾い、立場を越えて対話を重ねることで、使いやすく、長く活きるより良いWebサイトに、さらに近づくことができるのです。

視点のズレを活かすための4つの工夫

それでは、ズレを共有し、対話の中でより良いWebサイト作り上げるには、どのような工夫ができるでしょうか。

スタジオスプーンでは、プロジェクトを進める上での「視点のすれ違い」を避けるのではなく、あえて向き合うことで、関係者全員にとって納得感のある設計を目指しています。

そのために取り入れているのが、次の4つの工夫です。

可視化と翻訳

同じ言葉でも、立場によって受け取り方は変わります。そこで、言葉だけでなく図やワイヤーフレームなども使って意図を「見える化」します。

また、「かっこよくしたい」など曖昧な言葉に対しても、「なぜそうしたいのか」「何を変えたいのか」といった背景まで丁寧に聞き取ることで、誤解や食い違いが生まれにくいようにします。

プロジェクト序盤からこうした“翻訳”を意識することで、表層的ではない、本質的な認識の共有が進んでいきます。

余白の設計

初期の時点で仕様を固めすぎてしまうと、途中での変更が難しくなります。むしろ、関係者の理解やアイデアは、進行にあわせて深まるもの。最初から“余白”を持たせておくことで、対話や再考の余地を残します。

完成形を決め打ちせず、途中の違和感や発見を取り込める柔軟な進め方が、結果的に納得感のあるアウトプットにつながっていきます。

共創の場づくり

関係者が互いの視点を理解し合える場を、意図的につくることも重要です。スタジオスプーンでは、初期段階のアウトプットをあえて粗いまま共有したり、ワークショップ形式で意見を出し合う場を設けたりしています。

そうすることで、言語化しづらい感覚や違和感を拾い、プロジェクトの目的を再確認しながら、納得感のある方向性を見出していくことが可能になります。そのプロセスを重ねることで、自然と運用しやすく、長く使われるサイトに近づいていくことができるでしょう。

役割の尊重

意見の正しさを判断するのではなく、その背景にある事情をすくい取って、別の立場へ丁寧につなぎ直す──その姿勢がチーム全体に浸透することで、立場を越えた連携が生まれ、よりよい成果物につながっていきます。

ディレクターの中村氏は、過去にWeb関連のさまざまな職域を経験してきたことで、異なる立場の意見を“翻訳”し、橋渡しする力を自然と身につけたといいます。

異なる視点でたどり着く、使い続けられるWebサイト

繰り返しになりますが、視点のズレは、ただ埋めるべき溝ではありません。

即座に解消を目指すのではなく、まずはズレを認識し、翻訳し合いながら形にしていく。その過程があることで、完成後も使われ続ける構造や仕組みに自然とたどり着くことができます。

たとえば、「この表現は更新しづらいかもしれない」「この導線は現場では使いにくい」といった互いの声が拾われることで、設計や運用の工夫につながっていく。そうしたプロセスを経たサイトは、現場で無理なく使われ、形骸化せずに活き続けるのです。

ズレとは、立場の違いが掛け合わさることで化学反応を起こせる“余白”である。その視点に立つことで、リニューアル後の「うまくいかない」を避ける道が、少しずつ開けていくはずです。


▼セッションで使用されたスライドの全ページは、以下よりご覧いただけます。

<シリーズ記事はこちら>

第1回|AI検索時代でも、Webサイトの成果を生むUX視点【マーケティングUXとアクセシビリティUX】
第2回|Web担当者が“楽”になるCMSとは? NEW FOLKが提案する「ヘッドレスCMS」という選択肢
・第3回|大規模サイトをどう設計し直すか──株式会社キテレツが取り組んだリニューアル事例に学ぶ運用改善の視点

文/岡野花梨(ちょっと株式会社)

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