UXを「見た目の良さ」だけで語らない──フォーデジットが考える、サービス全体を設計するという視点

ユーザー体験(UX)は「見た目のデザイン」や「使いやすさ」といった表層の話として語られてしまうことがあります。しかし、UXとは本来もっと広く、サービス全体の設計と深く関わるものです。

UXとは何か、WebデザインやUIデザインとどう違うのか。そして、どう実現するのか。フォーデジット代表取締役CEOの田口亮氏が考える「良い体験を生むサービス設計」について、開発事例を交えて紹介します。(2025年春 web professional summitセミナー資料より抜粋)

目次

Webデザインだけでは、UXは生まれない

「UXが大事」とよく言われますが、UX=見た目の美しさやボタンの押しやすさ、というイメージだけで語られてしまうことも少なくありません。

しかし、UX(ユーザー体験)は本来もっと広い概念です。サービスを使う前・使っている最中・使った後まで含め、ユーザーの感じ方そのものを指します。

UXは「サービス全体の設計」があってはじめて生まれるもの。UXデザインは、その設計をユーザーに伝わる形へ落とし込む工程にあたります。

またUXとは、一度きりの印象だけではなく、以下のような流れを経て積み重なっていきます。

  • 使う前に期待する(予期的UX)
  • 使っている最中に感じる(瞬間的UX)
  • 振り返って考える(エピソード的UX)
  • 全体として印象が残る(累積的UX)

このようにUXは、ページ単位のデザインの話にとどまらず、サービス全体を通じた体験設計として捉える必要があるのです。

UXをつくるためのプロセスはあるが、うまく使われていない

UXは感覚やセンスだけでつくるものではありません。

現実的な制約や調整はあるにせよ、人間中心設計(HCD:Human Centered Design)という、明確なプロセスに基づいて設計するものです。

HCDでは、ユーザーの視点を起点に、次のようなステップを繰り返してUXを形にしていきます。

  • 利用状況の把握
  • ユーザーの要求の明確化
  • 解決策の設計
  • 解決策の評価と改善

このプロセスを丁寧に回すことで、単に「使える」だけでなく、継続的に「使い続けたくなる」体験が生まれます。

ところが実際の現場では、「とりあえず改善案だけほしい」「ユーザー理解があいまい」といった問題が起こり、プロセスが十分に活かされていないこともあります。

UXを本当に価値あるものにするには、手順を知っているだけでなく、それを実際に活用することが欠かせません。

通帳アプリの事例に見る、プロセスを活用した設計

ユーザー中心のデザインプロセスを実行すれば、本当にUXは良くなるのか。その答えとして、ゆうちょ通帳アプリの事例をみてみましょう。

ゆうちょ通帳アプリ

このプロジェクトでは、事業・デザイン・システムの各担当者が連携し、「どうすれば使い続けてもらえるか」という視点で体験を設計しました。

見た目の良さだけでなく、機能やコミュニケーションを含めて“ユーザーが継続して使いたくなるUX”を重視したのです。

実際に、チームでは

  • ユーザー視点で課題と目的を共有
  • 意思決定をスピーディに実施
  • ユーザー視点という方針のブレを最小限に

といった連携が行われていました。結果として、当初の目標を上回る大きな成果を得られています。

  • 機能の大胆な取捨選択により、開発工数を削減
  • ユーザー行動の中にタッチポイントを設計し、マーケティングコストを最小化
  • MAUは70%超を継続的に維持

ユーザー中心のデザインプロセスをやり切ることが、価値ある顧客体験とビジネス成果の両立につながった実例です。

UXはWebやアプリなど個別でなく、サービス全体の設計の話

ユーザー中心のデザインプロセスは、UXをより良くするための手段です。

そして、UX(ユーザー体験)は見た目のデザインや操作のしやすさだけでは成り立ちません。

Webデザインは、Webサイトの構成や見た目、Web上のコミュニケーション。
UXデザインは、サービス全体を通じた体験をデザインするもの。

サービスデザインは、その体験が生まれる仕組や構造まで含めてデザインするものです。

つまり、UXを深く考えるというのは、単なるインターフェース改善にとどまらず、サービス全体のあり方に向き合うということを意味します。

Webもアプリも様々なサービスチャネルの一つですので、このような複層的な視点は、これからのデザインに欠かせない要素だと言えるでしょう


▼セッションで使用されたスライドの全ページは、以下よりご覧いただけます。

<シリーズ記事はこちら>

第1回|AI検索時代でも、Webサイトの成果を生むUX視点【マーケティングUXとアクセシビリティUX】
第2回|Web担当者が“楽”になるCMSとは? NEW FOLKが提案する「ヘッドレスCMS」という選択肢
第3回|大規模サイトをどう設計し直すか──株式会社キテレツが取り組んだリニューアル事例に学ぶ運用改善の視点
第4回|サイトリニューアル後の「うまくいかない」を防ぐために──スタジオスプーンが語る、制作者と依頼主の「見え方の違い」とは
第5回|作って終わりにしないWebサイト運用。事業成果につなげる考え方と実践例

文/岡野花梨(ちょっと株式会社)

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