アクセシビリティ×ヘッドレスCMSで実現する、モダンWeb戦略の新常識

世界的にWebアクセシビリティへの関心が高まっており、日本でも対応が求められる機会が増えました。アクセシビリティとは、「情報のバリアフリー化」を意味し、誰もが平等に情報へアクセスできる状態のことです。多様性が重視される現代において、アクセシビリティは “あればよいもの” ではなく、“備えるべきもの” へと位置づけられるようになりました。

本記事では、株式会社トルクの本田氏が行ったセミナー内容をもとに、Webアクセシビリティを高める方法やそれを叶えるためのモダンWeb技術について紹介します。(2025年春 web professional summitセミナー資料より抜粋)

目次

アクセシビリティとは情報のバリアフリー

アクセシビリティとは、年齢や利用環境、障害の有無や程度にかかわらず、誰もが平等に情報やサービスへアクセスできることを意味します。社会におけるバリアフリーのように、Webにおける情報の届きやすさを保証する考え方です。

また、しばしばユーザビリティ(使いやすさ)と混同されますが、アクセシビリティはその一歩手前にある「そもそも使えるかどうか」を支える設計思想です。

アクセシビリティは「使える状況の幅広さ」、ユーザビリティは「ある状況での使いやすさ」を対比する棒グラフ式の概念図。縦軸は使いやすさ、横軸は年齢や障害の有無など条件の異なる利用者や環境の幅。各利用者の上の矢印の高さがユーザビリティを示す。見出しは「アクセシビリティとは、使える状況の幅広さ」
出典:「Webアプリケーションアクセシビリティ」P.4
「見えにくい、読みにくい、『困った!』を解決するデザイン」P.23

Webに公開するだけで、すでにアクセシブル

「アクセシビリティを向上させるには、まず何から始めればいいのか」と悩む方も多いかもしれません。しかし実は、Webサイトとして公開するだけで、すでにアクセシビリティの基本的な部分は達成しています。

以下の画像のように、アクセシビリティには6つのレイヤーがあるとされています。そのうち「堅牢性・発見容易性・携帯性」といった初期段階は、Webに公開した時点でクリアしていると言えるのです。

アクセシビリティを6つのレイヤーで示す概念図。下から堅牢性、発見容易性、携帯性、使用性、共有性、改変可能性のレイヤー構造になっている。上のレイヤーほど高度化。Webサイトを公開することで、堅牢性、発見容易性、携帯性の三レイヤーが満たされることが示されている。
出典:「Webアプリケーションアクセシビリティ」P.5

アクセシビリティの向上においては、もう一段階上のレイヤーである、利用者が情報を知覚・理解・操作し、目的を達成できる状態、つまり「使用できる状態」を作ることが大切です。

具体的には以下のような施策を実行することで、Webサイトのアクセシビリティを向上させることができます。

  • 視覚障害者のために画像に代替テキストを設定する
  • 見出しやリストに適切なHTML構造を使い、読み上げ機能を使っても伝わるように適切に構造化する
  • キーボード操作だけでもフォーム入力や選択が可能な設計にする
  • 色覚多様性に配慮し、WCAG 2.2のコントラスト比を満たす配色設計をする

世界的にアクセシビリティへの意識は高まっている

アクセシビリティ向上は、もはや任意の配慮ではなく対応すべきこととして意識されています。

EUでは、2025年6月に欧州アクセシビリティ法(EAA)が施行され、ECサイトや電子書籍、銀行サービス、交通機関のWebサイトやチケットサービスなどの多くのサービス、デジタル製品のアクセシビリティ対応が義務化されました。米国では、障害を持つアメリカ人法(ADA)及びリハビリテーション法508(Section508)などを根拠に、2021年以降、毎年4,000件以上の訴訟が発生し、事実上義務化されている状況です。(2025年9月現在)

さらには、Webサイトにスクリプトコードを追加するだけでアクセシビリティを確保できると謳うアクセシビリティオーバーレイを導入しているサイトも、それだけでは十分な対応とみなされず訴訟の対象となっています。

日本でも、2024年に改正障害者差別解消法が施行され、民間にも「合理的配慮」が義務化されました。欧米の状況やこうした流れによって、日本では努力義務の環境の整備にあたるアクセシビリティ向上への対応に努める企業が増えています。特にグローバル企業などにとっては対応しないこと自体が、ビジネスリスクにつながるフェーズに入っているといえるでしょう。

こうした背景はありますが、アクセシビリティ向上は、コストではなく未来への投資と捉えることも重要です。日本に障害者は1160万人存在しているとされており、人口の1割近くに及びます(出典:令和5年 人口動態 厚生労働省)。また、その多くが高齢者です。高齢化と人口減少が同時に進む日本の社会において、一人でも多くの方がWeb、デジタルを通じて社会参加しやすい環境を作っていくことは、日本が抱える社会課題の解決の一手となり得ます。さらに企業にとってはこれまでアクセスできなかった市場の拡大にも繋がると言えます。

アクセシビリティの向上はWeb品質の向上

アクセシビリティを高めるには、Webページの構造や意味を正しく伝える「セマンティック・マークアップ」が不可欠です。

セマンティック・マークアップは、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)などの障害者が日常的に使用する支援技術が正しく機能するための土台となります。正しくマークアップされていない場合、スクリーンリーダーが誤った内容を読み上げてしまうおそれがあるため注意が必要です。そのため、見た目の再現を優先して本来の意味と異なるタグを使うのではなく、それぞれの要素にふさわしいタグや属性を使うことが大切になります。

このように、アクセシビリティを意識してマークアップの質を高めることで、結果的にWebサイト全体の品質向上にもつながっていきます。

プレゼンテーションスライド「アクセシビリティ向上とは、Webサイトの品質を高めることである」と書いてある。

モダンWeb技術で叶えるアクセシビリティ

従来型の動的CMS(例:WordPressなど)は、管理画面と公開環境が同一サーバー/同一ネットワーク上に置かれる構成が一般的です。導入や日常運用をひとつの仕組みで完結しやすい一方、管理と公開の境界(セキュリティ境界)を保ちつつ高負荷や機能拡張に対応するには、追加の設計と運用が必要になることがあります。要件が増えるほど、構成の複雑化やメンテナンス負荷の増加につながりやすい側面があります。

一方、ヘッドレスCMS+モダンフロントエンドでは、管理画面/開発環境と公開環境をはじめから構造的に分離します。また、私たちがよく採用するクラウド型のヘッドレスCMSおよびホスティング環境を用いたサーバーレスアーキテクチャであれば、基盤の保守やセキュリティはクラウドサービスベンダー側で標準運用されるため、Webサイトのコンテンツの魅力アップなど、本来取り組むべき課題に注力しやすくなります。具体的には以下のような利点を得ることができます。

  • インフラ構築・保守のコストを大幅に抑制し、ユーザー体験の向上に集中できる
  • フロントエンド技術の選択肢が広がる
    • 高速なユーザー体験を実現するSSG/SSRを活用できる
    • サイトパフォーマンスを向上でき、ユーザー体験およびSEOが改善しやすい
  • フロントエンドがCMSの仕様に依存しない
    • アクセシビリティ要件を標準化したコンポーネントを用意できる
    • 柔軟なUI設計で拡張性の高いアクセシビリティ向上ができる
    • 構造化データやARIA属性など、フロント側での実装最適化が容易

また、アクセシビリティの観点では、ヘッドレスCMSとモダンフロントエンドの採用により高品質なコンポーネントライブラリやデザインシステムを構築しやすくなります。こうした技術的な後押しによってアクセシビリティを向上しやすいのが特徴です。

プレゼンテーションスライドの画像。見出し「モダンWeb戦略におけるヘッドレスCMSの位置づけ」。左が従来のモノリシック構成で、CMS、Webサーバー、DBが一体となり拡張しにくい。右がヘッドレス採用後で、CMSと開発環境を公開環境と分離し、公開環境はビルド済みのWebサイトデータをCDNから配信。分離によりスケーラビリティとセキュリティが向上することを示す。

アクセシビリティの向上は重要なWeb戦略の一部

デジタルを舞台にビジネスを加速するには、モダンなテクノロジーを用いたWeb戦略が重要です。同時にアクセシビリティ向上も、世界を鑑みればROIの観点から決して切り離すことのできない重要な戦略の一部となります。

日本企業がこれまでのデジタルの遅れを取り戻し他国に先行するためには、モダンなWeb戦略とアクセシビリティを加速することがとても重要であると考えます。


▼セッションで使用されたスライドの全ページは、以下よりご覧いただけます。

<シリーズ記事はこちら>

第1回|AI検索時代でも、Webサイトの成果を生むUX視点【マーケティングUXとアクセシビリティUX】
第2回|Web担当者が“楽”になるCMSとは? NEW FOLKが提案する「ヘッドレスCMS」という選択肢
第3回|大規模サイトをどう設計し直すか──株式会社キテレツが取り組んだリニューアル事例に学ぶ運用改善の視点
第4回|サイトリニューアル後の「うまくいかない」を防ぐために──スタジオスプーンが語る、制作者と依頼主の「見え方の違い」とは
第5回|作って終わりにしないWebサイト運用。事業成果につなげる考え方と実践例
第6回|UXを「見た目の良さ」だけで語らない──フォーデジットが考える、サービス全体を設計するという視点

文/小嶋七海(ちょっと株式会社)

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