判断するのは100年先の人? 3人のクリエイターが辿り着いた「よいサイト」の基準とは
今、どんなWebサイトが「よいサイト」なのでしょうか。今回は、異なる得意領域を持つ3人に、それぞれの視点からその基準を考えてもらうことにしました。登場いただいたのは、「WebGL総本山」エンジニアの杉本雅広さん、LINEヤフー UXデザイナーの渡邊陽介さん、シフトブレイン CDO デザイナー アートディレクターの藤吉匡さん。果たして答えは見つかる? そもそも会話は噛み合う?(前後編の後編)
サイト訪問の前後の文脈をきちんと捉えているサイト
編集部 ここからは渡邊さんがセレクトしたサイトを紹介いただきます。
渡邊陽介(以下、渡邊) 最初に挙げた「dōzo」は通販サイトです。まず思ったのはワーディングがいいなと。「肉しか勝たん」みたいな(笑)。ただ、よく見ていくとこのサイト、かなり尖っているんです。藤吉 ギフトカタログとしては変わったアプローチをしていますよね。
藤吉匡(以下、藤吉) ええ。普通に考えれば独特な表現はユーザーを選ぶことにつながりかねません。あえてそこに挑戦しているのだからすごいな、と
杉本雅広(以下、杉本) 私は世代的にも、このサイトのターゲットではないと思いますが(笑)、スクロールして見ていくうちに、「誰かにプレゼントでもしてみようか」みたいな気になりました。
渡邊 私もなんです。実際に同僚にプレゼントをしました(笑)。
藤吉 このサイトからはデジタルならではのインタラクションを利用して、ユーザーの「新しい体験を創出しよう」という狙いを感じますよね。
渡邊 UXデザインでは、Webサイトを訪問する前から後までを一つの文脈として考えて体験を設計するのですが、それがとても上手なのだと思います。

編集部 渡邊さんがセレクトした、「海外eSIMならトリファ」や「MEJINAVI 2024」もそうした「文脈」の視点からセレクトしたのですか?
渡邊 そうですね。やはり自分がいいなと思うサイトは、体験の設計がしっかりしていて、それにあわせた情報の取捨選択や整理ができているサイトです。それを実現するためには、ユーザーとしっかりと向きあうことが大切になってきます。ただ、ユーザーの考え方は時代とともに変わっていくもの。「よいサイト」の形も、常に変わっていくだろうと思っています。
渡邊さんが選んだ「よいサイト」
「“好みはなんとなくわかるけれど、何をあげたらいいのかわからない”という課題にアプローチするギフトカタログ。文脈とマッチしたビジュアルやワーディングも適切で、使ってみたくなります」(渡邊さん談・以下同)
「海外旅行時のWiFi契約を“難しそう・めんどくさそう”と感じるユーザーに対し、情報を上手に取捨選択することで安心感を与えているサイト。ビジュアルもそうした狙いとマッチしており、使いやすさを感じます」
「雑誌のようなビジュアルを使うことで、志望者に大学生活をイメージさせることに成功している。インタラクションに施した工夫や、ショートムービーを多用している点もユーザー層にあっていて効果的だと感じます」
変わり続ける「よいサイト」 Webに普遍性はあるのか
編集部 ここからは「よいサイトとは何か」をテーマに、もう少し話を進めていきたいと思います。藤吉さんはここまで、どんな感想を持ちましたか。
藤吉 それぞれまったく違う視点からWebを語ってきましたが、よいサイトを考えていく中で、「ユーザーが求めている体験をしっかりと構築している」点や、「コンセプトが明快である」こと、そしてそれらを実現するために「ソリッドにつくり込まれている」といったあたりが、サイトのタイプを問わず、よいサイトの条件として挙げられるのではないかと思いました。

編集部 杉本さんや渡邊さんはいかがでしょうか。
杉本 私は事前のアンケートに、よいサイトとは「誰も見たことがないサイト」だと書きましたので、きっとこいつは「Porter Robinson」のようなサイトをよいサイトだと言うのだろうと思われていると感じますが(笑)、今、藤吉さんに挙げていただいた項目についてはその通りだと納得しています。

渡邊 私は当初、お二人が選んだサイトと私が選んだサイトに、それこそアートとデザインのような、大きな違いがあると思っていたのですが、今日のお話を伺って、優れた体験を提供できているサイトをよいサイトと考えている点は同じですし、学ぶ点は多いなと感じています。

編集部 ただし、渡邊さんからは、ユーザーの変化に合わせて、「よいサイトの基準は変わっていく」というお話もありましたよね。
渡邊 私が関わっているサービスはユーザーの声に耳を傾けて、それこそ毎日のように改善を続けています。だから、同じサービスでも数年前とはまったく違う中身に変わっていることもよくあるのです。
杉本 そのお話と関連して、一つ、藤吉さんに質問したいのですが、今回、藤吉さんがセレクトしたサイトはいずれも“ちょっと古いサイト”で、「In Pieces」に至っては10年も前のサイトでしたよね。そうした時を超えても評価が「変わらないサイト」を選んだ理由を改めて伺いたいな、と。
藤吉 最近、時代を超えて評価され続ける作品、例えば絵本とか浮世絵といったものから刺激を受ける機会がありまして、それ以来、自分もつくり手として「100年先のクリエイターに刺激を与えられるような作品をつくっているだろうか」と、考えるようになったんです。そのタイミングでこのお話をいただいたこともあって、Webの世界もそうあるべきではないかという意味を込めてセレクトしたんです。
100年先を意識したものづくりが、よいサイトを生み出す
杉本 ただ、Webの世界では、数年も経つとほとんどのサイトが姿を消してしまうという現実があります。今のWebでそれが可能でしょうか?
藤吉 例えば映画の世界では、100年先に向けて自分の作品を残そうと取り組んでいるクリエイターがたくさんいますよね。ではWebではどうだろうと考えると、そんなことを考えている人は少数派でしょう。まずはそうしたつくり手の意識や取り組み方を変えていくことが第一歩になるのではないでしょうか。
編集部 100年先を意識する人が増えれば、残るサイトも増えていく、と。
杉本 その点で言うと「In Pieces」は、当時最新だったWebGLではなく、すでにこなれているCSSを使って3D的な表現を実現していますね。
藤吉 当初から、「多くの人に長く見てもらえるサイトにする」と考えていたのかもしれませんね。
渡邊 今のお話を自分の仕事で考えてみると、例えばサービスの利用が広がったことで人々の日常が大きく変わっていった、みたいなことが当てはまるのかなと思います。
藤吉 それこそLINEのようなサービスがそれに当たりますよね。
渡邊 そうなると、10年先、100年先に向けて「自分もそういうサービスを生み出すんだ」といった形での向き合い方があるのかなと。だから、納得しながら今のお話を伺いました。
編集部 おっ、とそろそろお時間のようです。当初は話が噛み合うのか心配だったこの会ですが(笑)、結果的にとても有意義な時間となりました。みなさん、ありがとうございました!
Text : 小泉森弥 Photo : 山田秀隆
※本記事は「Web Designing 2024年12月号」に掲載された記事を一部修正・再編集して公開しています。



