《人気12作品を本人が解説》tofubeats × GraphersRockが語る、アートワークデザインの制作舞台裏

DJ・音楽プロデューサーとして活躍するtofubeatsさんの作品ジャケットは、10年以上ずっとアートディレクターのGraphersRockさんが手掛けてきました。何から着想を得て、どのようにして聴覚を視覚へと再構築してきたのでしょうか。tofubeatsさんの作品の中からアルバムを中心に象徴的な作品をピックアップし、アートディレクションを手掛けたGraphersRockさんとともにジャケットデザインのテーマやこだわりについて語っていただきました。


lost decade(2013年4月発売)

tofubeats(以下、TB) インディーズ時代に制作したアルバムです。予算がないことからジャケットデザインも自分でやろうとしたのですが、うまくいかず、途中で諦めて民穂さんに手伝ってもらいました。
GraphersRock(以下、GR) tofubeatsが途中までつくったデザインデータをもとに制作しています。四角形が重なったデザインだったので、タイトルにdecade(10年)とあるため10個重ねようと提案しました。今見ると、インディーズ魂が感じられますね。
Don’t Stop The Music(2013年11月発売)

TB 森高千里さんをフィーチャーしたデビューシングルです。メジャーデビューするからには、インパクトがあることに挑戦したかったんです。
GR イラストは山根さんにお任せで、モデルがtofubeatsなのか否かは聞いていないので謎のままです。80年代のシティポップぽいイラストにあわせて、メンフィス(イタリアのデザイン集団をルーツとしたポップで幾何学的なデザイン)調のグラフィックを背景に敷いています。
ディスコの神様(2014年4月発売)

TB 藤井隆さんをフィーチャーした、メジャー2作目のシングルです。僕のアイデアで初回限定盤はカセットテープ付きにしていて、外からカセットテープが見える狂ったパッケージにしてもらいました(笑)。
GR tofubeatsからは、『80年代のディスコブームのときの、日本の7インチレコードのようなイメージにしたい』というオーダーがありました。こちらもイラストは山根さんにお任せしています。
First Album(2014年10月発売)

TB 正面からロゴは見えませんが、メジャーでのファーストアルバムだったので、宇多田ヒカルさんのファーストアルバム『First Love』をオマージュしたロゴの制作をお願いしました。
GR ファーストアルバムというタイトルを謎のオーパーツに見立てて、人智を超えた何かのようなオブジェクトにしています。山根さんには、当時ネット上で流行っていたシーパンクや初期ヴェイパーウェイヴで散見されたギリシャ的なモチーフのイラストを描いてくださいと、具体的にお願いしました。
POSITIVE(2015年9月発売)

TB このアルバムは難産で、レコード会社の方に『暗くならずポジティブにつくりなよ』と言われました。その言葉をきっかけに、『POSITIVE』というタイトルになりました。そこからスポーツというテーマを提示して、山根さんにイラストをお願いしています。
GR スポーツというテーマから健康食品を想起し、そこからポカリスエットなどを手掛けたタイポグラフィの巨匠ヘルムート・シュミットをイメージして、彼をオマージュしたようなタイポグラフィにしました。
FANTASY CLUB(2017年5月発売)

TB それまでの作品と雰囲気をガラリと変えたストイックなサウンドで、挑戦的なアルバムとなっています。過去作と同じくらい評判をいただき、キャリアの転換点にもなりました。
GR これまでの作品と雰囲気がガラッと変わりtofubeatsの内面にフォーカスしたテーマ性の強い作品なので、山根さんのイラストもそれまでのデジタルで描いたシティポップぽいものと雰囲気を変え、手描きで渋いものをお願いしました。イラストは部分的にUVニスで光沢を出し、本物の水彩画のような雰囲気にしています。
RUN(2018年10月発売)

TB このアルバムをリリースしたころからサブスクで音楽を聴くのが主流になってきたので、タイトルを大きく入れてもらいました。
GR タイトル曲が焦りを表現した曲に感じたので、焦っているイメージの色として蛍光オレンジにしました。配信のアイコンでは細かい表現が伝わりづらいのも、派手な色を選んだ理由です。また、CDのライナーノーツはアルバムの制作日記みたいなものなので、ジャケットの制作日記として山根さんのイラストのラフを掲載しました。
TBEP(2020年3月発売)

TB 過去作では人物のイラストが多かったので、このミニアルバムでは静物をテーマにしてくださいと山根さんにお願いしました。
GR 花を描いてほしいというのは、僕から指定しています。『TBEP』はクラブトラック集なのですが、DJと花を挿して一つの作品をつくる生花が似ている気がしたからです。ちなみに、山根さんのアイデアで小さく妖精が描かれています。
TB LPサイズだと妖精がしっかりと見え、配信のアイコンでは花の全体像が見え、ミクロとマクロの両方を意識されたのかなと思いました。
REFLECTION(2022年5月発売)

TB 2018年のツアー中に突発性難聴を発症し、そのときに鏡越しに撮った写真をテーマにつくったアルバムなので、珍しくメインで使う写真が決まっている状態でジャケット制作をお願いしました。配信が主流になり、今のところ最後のCDリリース作品です。
GR REFLECTION(反射)というタイトルなので、初回特典盤では角度によって反射するインクを使いました。やはり、パッケージされた物理的なモノでしか表現できない印刷での工夫や手触りなどにはこだわりたいです。
REFLECTION REMIXES(2022年11月発売)

TB 『REFLECTION』のリミックスアルバムです。民穂さんのアイデアで、僕に似た別の方で『REFLECTION』のジャケットと同じような写真を撮っています(笑)。
GR 『REFLECTION』のMVはtofubeatsのそっくりさんが出てくるという演出だったので、その方にオリジナル盤と同じ構図でジャケット写真を撮らせてもらいました。リミックス盤を聴くのはマニアックなファンの方が多く、MVも見ていると思い、そのギャグが通じるだろうと考えました。
NOBODY(2024年4月発売)

TB 現時点での最新オリジナルアルバムです。山根さんにお任せしたら、警察官が踊っているイラストが上がってきて衝撃でした。バックミラー越しの絵と2点ラフをいただいて、僕はそちらもいいと思ったのですが、民穂さんや他のスタッフとの多数決で僕が負けて、この警察官のものに決まりました(笑)。
GR LPも制作していて、そのブックレットでは通常の黒インクに特色の黒インクをオーバープリントしてレイヤー感を出しています。
TB DJ REMIXES(2024年12月発売)

TB ここ10年ほどライブやDJの際に使用してきた、既存曲の別アレンジをまとめたアルバムです。そこから、民穂さんが“業務用”というイメージを汲み取ってくれました。
GR 業務用というテーマから、段ボールと工事道具を用いた2案を出し、ダンボールのほうが採用されました。このダンボールはパースをわざと狂わせているんです。違和感を持ってもらうことで、配信の小さなアイコンで見たときにも目に留まりやすくなることを狙いました。
▶︎関連記事
《特別対談:tofubeats × GraphersRock》CDアートワークは音楽の世界観をどう伝えるのか? 「聴く」を「見る」に再構築するデザイン
取材・文:平田順子、写真:黒田彰
※本記事は「Web Designing 2025年4月号」に掲載された内容を一部再編集して制作しています。
