
えっ! 「AIがマーケティングを変える」だって!?
1. AIの正体見たり! ただのつながり発見器!?
最近「AI」人工知能に関するニュースがとても多いですよね。車の自動運転と深く関わっているとか、将棋や囲碁で人間に勝利したといったテーマで、毎日のように話題になっています。しかも同時に、「人の仕事を奪う」とか、「人間の知能を超える」といった語られ方をすることが多いこともあって、AIを特別な技術のように感じている方も多いのではないかと思います。
しかし、そういった面ばかりが強調されることで、AI技術の現状やそのメリットといった大事な部分が見えにくくなってているんじゃないかな、と思います。
確かに、AIはこれまでの技術にはない側面を持っていますから、新しいことがどんどん起きることは間違いありません。だからと言ってAIは人間のように何かを「考える」ものではありません。ではAIに何ができるのか。簡単に言うと、モノとモノとの間の「関連性」、つまり「つながり」を見つけ、その度合いを測ること、それだけなんです。しかもこれは特別なことではなく、人間にだってできることです。ただし、それを人間がやるととんでもない時間がかかります。何千年、何万年…。それを、AIはわずかな時間でやってくれるのです。
ではその「つながり」とはどういうものか。それを実感できるのが、IBMの「シェフ・ワトソン」というWebアプリケーションです。これは素材や料理方法などの情報を入力(選択)するだけで、まったく新しいレシピをつくってくれるアプリケーションです。たとえば「豆腐をロシア風に調理して食べたい」とか、「母の日に食べるパスタを豆腐を使って作りたい」といった要望をふまえたレシピを瞬時に、自動的につくりだしてくれます。
なぜそんなことができるのか。シェフ・ワトソンには、あらかじめ数万件にも及ぶ、大量のレシピや素材に関するデータ、その感想などのデータを読み込ませて解析をさせてあります。そのため、すでに「豆腐」が他のどんな素材とつながるのか、つまりどんな素材と合うのか、あるいはどんな素材の代わりとなるのか、また調味料や調理法との相性はどうか、といった膨大なデータを持っています。その一方で、「ロシア風」の料理を実現するための、どんな素材や調味料が必要かといった情報も持っています。
それら独自の「つながり」の情報の中から「豆腐」と「ロシア料理」の両方と関係の深い素材や調味料はあるか…。ワトソンはそんなつながりを探し、見つけ出すことができればそれらを組み合わせたレシピにする、というわけです。
ここで大事なのは、事前のデータ解析ということになるのですが、シェフ・ワトソンは、レシピなどのデータから、いったいどうやって「つながり」を見つけ出しているのでしょうか。
そこで行われているのが文章の解析です。文章の中にある単語同士の関連、たとえば「甘い料理には砂糖が使われている」といったようなことをひたすらに、一つずつ確認していきます。人間だったらうんざりでしょうが、コンピュータ上で動くAIは文句の一つも言わず、徹底的に調べ上げてくれます。そうすることでAという素材とBという素材は一緒に使える(関連性が高い)とか、Aの代わりにCが使えるな、といったことが組み立てられるようになるんです。
シェフ・ワトソンがつくりだしたレシピの中には、これまでの常識から大きく逸脱したような、不思議なものが少なくないので、まるでワトソンが考え出したかのようにも見えるのですが、そうではなく、人間がこれまで知らなかったつながりを活用して、表に出してきただけなんです。
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AIが人間を滅ぼすのでは?新聞やテレビでAIが取り上げられると、必ずそんな疑問が付け加えられます。その「予断」こそが、AIの本当に便利な点を見えにくくしているのです。
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AIが見つけ出すのは、ビッグデータの中にある、個々の項目のつながりとその度合いを測ること。人間には決してできない面倒な作業もすぐにやってくれます。
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シェフ・ワトソンは誰でも 利用できます(英語)。以下サイトを訪れてレシピを作ってみよう。URL:https://www.ibmchefwatson.com/
AIがマーケティングのここを変える


2. 「つながり」がヒントをあぶり出す
AIの特徴は「つながりを見つけ出すこと」にあると説明しましたが、ではそれが、日々の仕事のどんな点に役に立っているのでしょうか。まず、紹介しておきたいのは、そのつながりを見つける力を活かす活用方法です。
先日、新聞に「AIの力で新しい医薬品を開発」といったニュースが掲載されていました。その記事を読んでみると「AIに医学に関する大量の論文を読み込ませたら、これまでにない医薬品ができあがった」といった趣旨のことが書かれていました。なんだか、AIが薬を考え出したかのように読めますが、そうではありません。ここでAIが活きているのは「論文を読み込ませて」という部分です。シェフ・ワトソンにレシピを読み込ませたのと同じく、AIに薬に関する研究データを読み込ませて、関連性を見つけ出す作業をさせたてみた。するとその結果からは、意外な「つながり」が見えてきた…というわけです。AIが活躍するのはせいぜいここまで。この先は人間が意味のあるつながりを見つけ出し、検討を進めなければいけません。
しかしこれはすごいことです。たとえば、これまでなんの関係もないと思っていたAとBという研究成果の双方が、Cという物質を通じて、実は類似性がある、といったことがわかるわけですから。その発見をきっかけに、ブレイクスルーが生まれておかしくありませんよね。
ではこの記事の「大量の論文」の部分を、「コールセンターに寄せられた声」に置き換えてみたらどうでしょうか。「人事査定書」とか、「営業日報」に置き換えてみてもいいでしょう。なにか、すごいものが見えてくるような気がしてきませんか?
このように、AIは、これまで蓄積してきたデータから、思わぬつながりを見つけ出してくれるんです。
それに関連してもうひとつ、AIには重要な使い道があります。それは、つながりの「深さ」を測ることで、分類を見直すことです。例えばアクション映画を見た人に、次にどんな映画をすすめるか。次もアクションをすすめるというのが王道のやり方でしょうか。同じ分類に属する商品をすすめるというやり方は、マーケティングの基本中の基本ですよね。
ところが、その人が次に選んだのが、ロマンスだったとしたらどうでしょう。気まぐれ、と見捨てるのも一つの考え方かもしれません。しかし、そこにこれまで誰も気がつかなかったなんらかのつながり、たとえば「アクションロマンス」という好みがあるかもしれません。これまではそれを調べる術はありませんでしたが、AIならそれが可能です。その人の行動履歴や映画の感想として書き込んだデータ、さらには映画のストーリーを解析してみると、意外なつながり、共通点が見つかるかもしれません。
この方法を使うと、これまでよりも精度の高いリコメンドを出すことができるでしょうし、そもそも便宜的に用意していた「アクション」「ロマンス」などの分類が適当でない、ということがわかるかもしれません。
これはさらに、Webサイトの設計とかカスタマージャーニーマップの構築、さらにはマーケティングオートメーションの実施といったところにも応用できるようになるでしょう。そこではこれまでにはないより効果的な分類ができあがっているはずです。つながりを見直す。この機能がマーケティングにいかに大きな影響を与えていくか、おわかりいただけたのではないかと思います。
ただし、AIが見つけてくれるのは、つながりがあるということだけ。それをどう活かすかはやはり人間の仕事なんです。そこを間違わないようにしましょう。
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医薬品の他に、化学薬品の分野でもAIが活用されています。これらのジャンルに共通するのは、論文が大量に残されていること。精度の高い素材が大量に存在するという点です。
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映画や音楽のストリーミングサービス、そしてECの分野でリコメンドが大きな役割を果たしているのはご存じのとおり。その精度が上がれば売り上げは大きく変わるでしょう。
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AIデータ解析を活用したサービスは、すでに多くのものがリリースされています。それについてはP032から紹介をしていますのでぜひ、参考にしてみてください。
つながりをたどる仕組みとは


3. コミュニケーションの質を高める
AIのビジネス活用について語る際に、今もっとも話題になるのが「ボット」でしょう。その中でも、ユーザーの問いかけに対して自動的に応答し、会話のようにコミュニケーションをとってくれるチャットボットは、まるで人間が関わっているかのような自然な対応ができるということもあって、おおいに注目を集めています。すでに数多くのサービスが登場していますよね。また、天気を聞いたら答えてくれるとか、好みのニュースを知らせてくれるといったタイプのボットもありますし、スケジュールやタスクを管理してくれるボットなども存在します。
ただし、AIの能力やその可能性を考えた場合に、ボットを単に「人がいないときでも受け応えをしてくれるシステム」という理解に止めるのではなく、広くネット上のコミュニケーションの質を高めるためのツールだと考えておくほうがいいのではないかと思います。
ここで一つ問題提起なのですが、今、自分の会社のWebサイトに興味や関心を持って訪れてくれた相手と、十分なコミュニケーションが取れているでしょうか。ふつうのWebサイトであれば、商品やサービスの紹介をし、あとはFAQページを置くくらいがせいぜいではないでしょうか。これは仕方のないことではあるのですが、顧客に対して「知りたいことがあったら自分で探せ」と言っているようなものです。
コミュニケーションの中には「話せばわかってもらえるけれど、Webサイトというページで表現するシステムの中に織り込むのがとても難しい」という領域があります。Web制作に携わったことのある方であれば、直感的に理解しているのではないかと思います。
そんな、これまで難しかったコミュニケーションが、ボットを使うことでできるようになります。自然に会話していきながら、ごくかんたんに知りたいことにたどり着ける仕組み。そんなものがつくれたら、顧客の態度はきっとポジティブなものに変わるでしょう。
ボットを活用した新しいWebサイトの一端を経験できるのが米国のザ・ノース・フェイスがIBMのWatson(ワトソン)を活用して作成したページです(下図)。ここでは行きたい場所やその季節、さらには男女、用途などの質問に答えていくことで、商品を自動的にセレクトし、ページを作成してくれます。これによって自分で探すよりも楽に商品検索ができるようになっています。気の利いた会話が交わされるわけではありませんが、もっと大事なことを教えてくれているように思えます。
もちろん、これと同様・同等のシステムを自社サイト上に設置するのは簡単なことではありませんし、大きな予算も必要になります。ただし、コミュニケーションのポイントとなる部分に、こういった工夫を施すことができれば、顧客の満足度を大きく高めることができると思います。いま、さまざまなサイトでFAQのボット化が進んでいるのもその一例だと言えると思います。もちろん、ただボットを配置すればいいというわけではなく、問い合わせをしたくなるような構造や演出をよく考える必要があるでしょう。その点を踏み出すことができれば、顧客とのコミュニケーションの質を大きく高めることができるはずです。
こういったボットの活用は、当然ながら大企業の間で進んでいますが、中小企業の間でも導入を検討しているところが増えています。販売する商品やサービスが限られる中小企業にとって、じつはボットの導入に適していると言えます。ではどうやって導入すればいいのか。次章ではそのあたりの事情を実例に沿って紹介していきたいと思います。
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今後LINEなどのメッセンジャーを活用したコミュニケーションが増えていくという予測もあります。WebでのUIに関する考え方も大きく変わってくるかもしれません。
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AIを設置しても、それを使いたくなるような仕組みづくりがなければ使ってもらえません。Webサイト上のシナリオづくりやジャーニーの見直しもポイントになるでしょう。
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複雑な構造のボットをつくろうとすると莫大な予算と時間が必要となりますが、シンプルなものであれば安価に、短時間でつくるコトもできます。次章ではその点にも触れていきます。
ボットを活用したWebサイト

米ザ・ノース・フェイスは、IBM Watsonを利用した、対話型のページを用意している。ボットをユーザーの要望に合致したカスタマイズページの表示のために活用している。単にチャットをするだけではないことを示す事例と言えるだろう

同社の主力商品の一つであるアウトドア用ジャケットについて、「いつ、どんな場所で利用するのか」と質問している。ユーザーは自然文の形で、入力をするよう促される。ここでは「7月に富士山に」と入力

すると男性用か女性用かと尋ねてくる。「Man」「Woman」とだけ答えても良いが、図のように「主人用に」とか「彼女のために」といった回答をしても適切な判断をしてくれる。なお回答欄の下には、回答例が表示されているので迷うことなく入力できる

いくつかの質問に答えると、訪れたいと答えた時期の、富士山の気温や男女などの条件に沿った同社の製品が並んだページが表示される。なおページの左側にはさらに用途や色などの情報を追加で尋ねてくる場合もある

4. AIにはスモールスタートが合う?
いま積極的にAIの導入を進めているのは大手の、マーケティング予算に余裕があるところが中心です。新聞などで取り上げられるのはそれこそ数千万円、数億円をかけて問い合わせシステムを導入した、といったような事例ばかり。それもあって「自分達には無関係」とばかりに、AI導入を躊躇している会社も少なくないでしょう。
しかし、Webマーケティングの世界におけるAIをめぐる状況は、「ブレイク前夜」といった様相を呈しています。長くWeb制作に携わってきた人であれば、「CMS」の導入が始まった時期やFacebookやTwitterの本格的なマーケティング活用が始まった時期のことを思い出すといいと思います。おそらく2017年の後半には、「AIを利用するのは当たり前」というフェーズに入っていくのではないかと思います。だからこそ、いま取り組むことが先行者としてのメリットを享受できる最後のタイミングになるでしょう。この時期に取り組むことは、仮に大きな成果を出せなかったとしても価値のある知見を貯めることになり、後々大きなアドバンテージになります。
とはいえ、導入を進める際に難しいのは社内の説得でしょう。会社のトップが積極的なケースを除けば、事例がまだ少ない今の段階で、その意義を理解させるのはなかなか難しいと思います。
そこでおすすめしたいのが「スモールスタート」です。まずはすでにある、AIを活用したサービスを利用、開発依頼してみる。営業支援ツールなら2週間から2カ月程度、小さな予算でもつくることができます。結果を出すことで、周囲にAIの意義を理解してもらおうというわけです。
そんな予算もない、というならお金をかけずに、自分たちでできる範囲で検証的に進めていく方法もあります。例えば、IBM Watsonのプラットフォームを無料で利用できる「IBM Bluemix」を活用すると、簡単な応答システムを自力で作ることが可能です。Bluemixにプログラムの知識はほとんど不要ですし、セミナーなどに参加して使い方を学べば、すぐに作りはじめることができます。
こういったやり方で、スモールスタートに取り組んでいる企業は私の知っている範囲でもいくつかあるのですが、そのうちの数社は、テスト的に作成した応答システムを、本格的な問い合わせ応答システムに発展させていこうとしています。応答システムの精度を高める部分と、WebサイトへのつなぎこみについてはAIを得意とする制作会社に相談するのがいいと思いますが、肝心の応答システムの精度に関してはこれまでの積み重ねが活き、進化がスムーズに進んでいます。AIを使ったシステムは、学習を重ねていくことで精度を高めていくことができますので、時間をかけて取り組めば、取り組んだだけよいシステムを作ることができます。そのあたりも早い時期に取り組みを始めるメリットに挙げられると思います。
「AIは難しいものだ」という認識がありますから、導入することすら難しいというふうに考えがちですが、実はその難しい部分のことをまったく知らなくても、すでにツールとして利用することができます。もしかすると、よく知らないくらいのほうが、予断がなく使いこなせるようになるかもしれません。
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AIに何をさせるか、その考え方は今後Webの世界でも、マーケティングの世界でも重要になってきます。今から知見をためておくといいでしょう。
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IBM Bluemixは現在フリートライアルができる用になっています。チュートリアルも用意されているのでまずは目を通してみるといいでしょう。
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中小企業にとって壁の高いAI導入ですが、実は中小こそAIの活用に適しています。ぜひ、フラットな視線でそのメリットを見つめてみてください。
Bluemixを使って自前応答システムを作る
一定量は無料で利用できるBluemix。自前応答システムをつくるにあたってはプログラミングの知識などは必要ない。以下のような流れで作業することになる。



- 教えてくれたのは… (株)アイアクト COO 西原中也
- 2001年(株)アイアクト入社。前職である編集の情報整理力とシステムの知見を活かし、メディア運用から大規模システム構築など幅広くWebに関わる。2016年にWatson連携の会話ロボットを製造。以降Watson、人工知能の事業責任者。人工知能学会会員。東京大学中退。浄土真宗本願寺派の僧侶でもある