Webの力を引き出すCMS+αの提案

どの企業も必ず持っているWebサイト。それをただ会社案内として使っていては「もったいない」と思いませんか? 多数の企業サイトを構築している株式会社インフォネット代表の岸本誠さんに、CMSを軸にしたWebサイトのビジネス活用について聞きました。

現在、多くの企業ではCMSを使ってWebサイトを管理・更新しているでしょう。しかし、ただ会社情報を公開するためだけに使っているとしたら、それは「非常にもったいない」状態であると、株式会社インフォネット 代表取締役社長の岸本さんは指摘します。

「Webでモノを買うことが当たり前になったいま、BtoCで発展してきたマーケティングテクノロジーをBtoBでも活用する流れが顕著になっています。もしWebからの問い合わせが月1件から10件になれば、大きな営業支援になるはずです」(岸本さん、以下同)

では、具体的にどのようなテクノロジーが役立つのでしょうか。

まず思いつくのはCRMやMAツールによる“接客”のカスタマイズでしょう。CRMは訪問者の行動を個別にスコアリングし、MAはそのスコアに応じてポップアップを出したりメールを送ったりします。ここにCMSを連携させることで、ページ内の画像をレコメンドしたい内容に貼り替えるなど、より自然にパーソナライズすることも可能です。しかし、成果を出すには適切にシナリオを構築し、仮説~検証のPDCAを回して精度を高めていく運用体制も整えなくてはなりません。

また、CMSに蓄積されたデータをAIチャットボットやスマホアプリ、スマートスピーカーなど、新しい接点に活かす方法もあります。こちらもただ新しさに着目したのでは本質的な価値に貢献しないものになる恐れがあります。

「私たちが最初に行うのは技術的な提案ではありません。調査・ヒアリングを重ねて顧客企業のビジネスモデルをよく理解し、そのWebサイトにおいて解決すべき課題を見つけることです」

企業のWebサイトにはどのような課題があり、どのような提案が効くのでしょうか。その事例を見ていきましょう。

基幹システムとの連携でWebが最速営業ツールに

例えば、製品の製造・販売を行うメーカー系企業では、ECを行っていなくても自社サイト内に製品情報ページがあるでしょう。しかし、それが基幹システムと連携されていないケースは少なくありません。基幹システムの製品データベース(DB)には社外秘の情報も多い一方で、製品名・型番・仕様書など積極的に顧客企業へ提供するべき情報もあります。

DBの情報がWebページに反映されないと、営業担当者は分厚いカタログやプリントした仕様書などの資料一式を持ち歩かなくてはなりません。その製品を求める潜在顧客が検索で見つけてくれることもありません。

「こうした場合、DBから必要な情報をCMSに送り、自動的にWebサイトに反映される仕組みをご提案します。常に最新の情報が反映されるので、営業の際はWebページを使って顧客に説明することができるようになります」

自動化は文字入力やリンク先のミス、情報解禁日時の間違いといったヒューマンエラー防止にも役立ち、内製化によるコスト削減効果も期待できます。

このような事例は多く、作業工具の製造販売などを行う(株)ロブテックスもそのひとつです。基幹システムとの連携により2,000点におよぶ製品データの更新を自動化しました。

「実は、同社から最初に聞かれたのは『サイトをカッコよくしたい』という社員の声でした。しかし、ヒアリングするうちに本質的な要望が見えてきたのです。担当者が兼務だから、人手が足りないからと、本当にやりたいことを無意識に諦めている方も多いかもしれません。しかし、テクノロジーによって実際には少ない労力でそれを実現できるかもしれないのです」

基幹システムやCMS、CRMに溜めるだけになっている情報はありませんか? それを棚卸ししてみると、営業や業務サポートに役立つWebサイトづくりの材料が見つかるかもしれません。

CMSとデータベースの連動による更新自動化
CMSとデータベースの連動による更新自動化で、コストと手間を大幅に削減。人手が足りないからと諦めていることも技術で解決できる可能性がある

課題
人手不足などで十分な情報更新ができない
ソリューション
データベース連携による更新の自動化
成果
常時最新の情報を掲載内製化によるコスト削減

業務フローを変えるCMSとマーケティングを可視化するCRM

サービス業において、顧客への情報提供は重要な業務のひとつです。フランチャイズ型ビジネスでは本部による各店舗への運営支援として、店舗ごとのWebページが提供されるケースもあります。それを効果的に活用しているのが学習塾「スクールIE」などを運営する(株)やる気スイッチグループです。

学習塾は地域の状況にあわせた時間割を組むためフランチャイズであっても画一的でなく、体験教室の告知、荒天による休校など、伝えたい内容やタイミングも各教室で異なります。そのため、教室別のお知らせページが用意されていましたが、7年ほど前、それは各教室がFAXで更新依頼を本部に送り、担当部門が流れ作業で掲載する仕組みで運用されていました。

「当時すでに全国1,000以上の教室があり、本部・各教室ともに負担の大きい状態になっていました。そこで、CMSで各教室ごとのページを立ててオーナーに権限を付与し、独自に更新できる仕組みを提案しました」

CMS構築だけでなく、マニュアルや書き方のレギュレーション策定など、運用面のサポートも含めたリニューアルになりました。

また、体験教室の予約獲得に力を入れるため、予約・成約状況を管理する解析機能を導入し各教室の状況を可視化しました。本部ではこれをテレビCM等の広告の効果検証、地域別・教室別の状況分析など統括的なマーケティング戦略に役立てています。

結果的に、業務フローに変化をもたらす大規模アップデートとなりました。

「ヒアリングを進めるうちにいろいろな課題が明らかになり、できることを確認しながら少しずつゴールを描いていきました」

ビジネスモデルによってはAIチャットボットで問い合わせ対応を充実させたり、スマホアプリで新しい接点をつくることがマーケティング強化になる場合もあるでしょう。ソリューションの導入には深いビジネス理解が重要です。

CMSとCRMで情報発信とマーケティングを支援
CMSとデータベースの連動による更新自動化で、コストと手間を大幅に削減。人手が足りないからと諦めていることも技術で解決できる可能性がある

課題
日々の更新作業に追われ統括的な視点が持てない
ソリューション
CMSで更新権限を分散 CRMで顧客情報を集約
成果
現場の負担軽減と可視化による統括戦略

企業サイトはたった1つ磨く価値は絶対にある

BtoBで顧客企業が取引先を決める際は「何を買うか」と同時に「どこから買うか」も重要な判断要素になります。また企業間の取り引きに限らず、一般に対しても社会的信頼性を築くことが求められる時代になっています。

「コーポレートサイトの役割はPR・IR・CSRにあります。製品・サービスを売ることはもちろん重要ですが、企業の社会的責任、会社として存在する理由をきちんと発信しなくてはなりません。コーポレートサイトは1つの企業に1つしかない、非常に重い存在なのです」

社外向けと同時に、社内・グループ企業に向けた発信にも意義があります。企業規模が大きくなると、経営層の意向や支社・他事業部の動向、社内制度など社内の情報が伝わりにくくなりがちです。それが自社サイトに載っていても、社員はあまり見ないものです。

多くの企業を傘下に持つある大規模グループ企業では、グループ社員専用のサイトを立ち上げました。各社の事業や取り組み、また福利厚生や会社を跨いだサークル活動などが発信され、グループ社員は毎朝必ずそのページを見ています。

「こうしたケースでは、デザイン的な部分も含めて毎日見てもらえるしっかりした品質のサイトが必要だと思います。グループウェアのようなシステマチックな伝達では情報を発信しても周知が浅く、インナーブランディングにもつながりにくいと考えられます」

企業サイトは、ビジネス成果の面でも、会社のあり方を示す意味でも、まだまだ活用の余地が大きいと岸本さんは指摘します。

「“もったいない”状態に気付いて本気で取り組めば、必ず成果が出ます。“もったいない”とはまだ十分に手が入れられていない部分であり、そこには伸び代しかないのです」

企業の置かれている状況は千差万別で、どんな課題にも効く万能のソリューションはありません。しかし、自社にとって成果の出る方法を探す価値はあるはずです。

コーポレートサイトの役割
コーポレートサイトは、企業の社会的責任や存在価値を発信する、企業のアイデンティティ。社員にとっても自社の事業・文化を理解する基盤になる

課題
系列企業・社員の連携が弱くシナジーが生まれにくい
ソリューション
グループ向けサイトを構築し毎日閲覧してもらう
成果
事業内容・企業価値の共有社内のエンゲージメント向上

教えてくれたのは…株式会社インフォネット 代表取締役社長 岸本 誠株式会社インフォネット Webサイト、CMSサイト構築を包括的に担う。自社開発のCMS「infoCMS」をASPの形で提供。運用サポートにも力を入れている。 https://www.e-infonet.jp/

Text:笠井 美史乃

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