Webエンジニアの活きる場所はWeb制作業界だけではない
2020年11月に公表された内閣府「経済財政白書」の一節に、日本のデジタル化が遅れているのは「IT人材がIT業界に偏っているから」という指摘がある。白書によれば、日本はIT人材の7割以上がIT業界に在籍しているが、欧米では4割前後だ。
ここでのIT人材にはソフトウェア・システム開発やサーバ運用の技術者、インターネット・Web関連サービスも含まれる。発注側となる非IT企業の人材・能力不足を感じる読者も多いだろう。知識不足による丸投げや、不適切な指示・仕様で受注側が困惑するのはよく聞く話である。
これはIT業界に限らず、日本のアウトソーシング業界共通の課題だ。日本は新卒一括採用が基本で、自分のやりたい仕事に就けるとは限らない。エンジニアになりたければシステムベンダーに入る方が、マーケティングをやりたい人は消費財メーカーではなく広告代理店やマーケティング支援会社に入る方が確実だ。エンジニアやマーケターも企業都合の定期異動があり、その分野のプロが育ちにくい事情がある。
一方、欧米企業では仕事に人をつける「ジョブ型雇用」が一般的で、その分野のスキルを持った人がベンダー以外でも選択しやすい。システム開発もマーケティング施策も、発注する側に優秀な人材がいると、概してプロジェクトはスムーズに進み、成果物のクオリティも上がるものだ。
Web制作に携わる技術者やデザイナーも、制作会社での受託業務のほか、非IT企業の発注側としても力を発揮できる。知識と技術を持ったプロフェッショナルが発注側で活躍するのは、業界のためにも必要だ。Web制作会社側もうかうかしていられない。人材流動化における最大のライバルが他の制作会社ではなく、顧客企業かもしれないのだ。
Text:萩原雅之トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長、マクロミル総合研究所所長。1999年よりネットレイティングス(現ニールセン)代表取締役を約10年務める。著書に『次世代マーケティングリサーチ』(SBクリエイティブ刊)。http://www.trans-cosmos.co.jp/
萩原雅之
※Web Designing 2021年2月号(2020年12月18日発売)掲載記事を転載