
CX向上を実現していくための 6つのステップ(後編)
[STEP 4]顧客サーベイを実施し、現状の顧客体験を分析する
01 サーベイツールを選ぶ
顧客サーベイの実施には、専用のツールを利用すると、その後の分析もスムーズに行えて便利です。世界的にユーザーの多い「SurveyMonkey」は無料のベーシックプランから利用でき、サービスも日本語訳されているので使いやすいでしょう。NPSや製品・サービス、顧客体験、カスタマーサービスなどさまざまな顧客の声を集めることができます。その他のツールはP098、099でも紹介しています。
02 フリーコメントを社内で共有する
顧客サーベイで集めた顧客の声のうち、フリーコメントは回収したらなるべく早く社内で共有します。気づきや喜びといったよいコメントは、従業員のモチベーションアップになりますし、ちょっとした注意は改善に繋がります。ただし、3点以下の非常に悪いコメントは、マネージャー以上のみで共有・対応するようにしましょう。これらは皆で共有しても気分が落ち込んだり、特定のスタッフが名指しの場合はいじめのようになってしまうからです。
NPSでは、3点以下をつけた人を「深刻な批判者」と名付けています。こうした意見はサーベイを通じたクレームのようなものです。相手の連絡先がわかる場合は、回答から48時間以内に謝罪の連絡を入れると、その対応への好印象から体験が好転する場合があります。
03 経済性検証を行う
経済性検証とは、例えば推奨者を1人増やした場合、どれだけの経済効果があるかを算出するものです。推奨者、中立者・批判者それぞれが過去1年間に使っている平均金額の差を算出し、経済効果を比較します。たいていの企業では、ロイヤルカスタマーが売り上げの8割を占めるといわれています。割合は異なれど、実際に、どの企業でもロイヤルカスタマー=推奨者の購入金額が一番大きくなります。
また、顧客サーベイに「あなたは何人くらいの人にこのブランドのことを薦めましたか」という設問を入れておくと、それぞれのクチコミ効果も算出できます。そうして具体的な数値を算出すると、推奨者を1人増やせばいくら相当の価値があるので、そのための施策をしましょうと経営者や役員層を説得する材料になります。実際に具体的な経済効果がわかると、理解を得られたという企業は多くあります。
04 優先改善課題を絞り込む
顧客サーベイから改善課題が見えたら、どの改善から取り組むかという「優先改善課題」をキードライバー分析で絞り込みます。これは、個別体験の評価が総合評価であるNPSに与えた影響をグラフ上にマッピングしていくものです。当然、NPSへの影響力が大きく、現在の評価が低い体験が優先改善課題となります。
この分析で見える優先改善課題は、顧客サーベイの回答すべてを統計的に計算処理して初めて可視化される課題です。顧客の総意が「改善して」とリクエストしていると考えてよいでしょう。一方、フリーコメントなどを通じて届く改善リクエストは顕在的な課題項目です。これら二つはまったく異なる種類の課題だということにも注意しましょう。
[STEP 5]優先改善課題の改善をデザイン・実施する
01 改善する方針を決める
優先改善課題を絞り込んだら、それを改善していくための顧客体験をデザインし、施策を実施・実装していきます。まずは大枠の方針を、リーダー・上司が決断します。このとき、リーダー・上司はあくまで目標とするゴールを決め、方向性を示すまでで、具体的な顧客体験の改善実践方法は現場のメンバーに任せるようにしましょう。「改善策としてこれをやりなさい」と指示されるだけでは現場のモチベーションは上がりませんし、顧客接点にいるメンバーの納得感も得られません。リーダー・上司が「みんなの力を借りてよくしていきたい」という、いい意味での謙虚さがある組織はうまくいく場合が多いように思います。
02 改善する具体策を決める
具体的な改善施策は、当事者である現場チームが考えていきます。STEP2でもお伝えしたように、複数のグループでそれぞれ実践していくのがよいでしょう。CX向上施策のトライ&エラーの回数が増えるという点でも、健全な競争環境ができるという点でもオススメです。
改善に関するディスカッションは週1回~月1回程度の頻度をオススメしています。「現状、お客様はどう感じているか?」「お客様はどうされたいのか?」というテーマでの意見交換においては、役職や年次、スキルの有無は無関係です。CXの改善ディスカッションの場を、若手や新入りメンバーの活躍の場として活用するとよいでしょう。
03 OKRで改善手順を分解する
優先改善課題の改善策をデザインしていく際には、OKRが有用です。OKRとはObjectives and Key Resultsの略で、目標(Objectives)を決め、それを達成するための重要結果指標(Key Results)へ落とし込むという、目標管理の手法です。リーダー・上司が目標を決め、現場チームが指標を決めていきます。
KPI達成を目指すのと違い、OKRは指標をアジャイルに運用できたり、80%くらい達成できればよしとしたりする、柔軟な運用ができるのもよい点です。リーダーが掲げた方針をクリアするための具体的な行動と行動指標を明確化することで、改善行動がわかりやすくなります。
04 現場で改善施策を運用する
具体的な改善策が決まったら、現場チームで実践・運用していきます。このとき、目標とする顧客体験をすべての顧客に届けられるよう、顧客接点に関わるメンバー全員で実施することが大切です。
月に1回以上のペースで、リーダー・上司側に現場チームの手応えや気づきを、状況共有・活動共有するようにするとよいでしょう。リーダー・上司のあり方としては、ソニックガーデン社長の倉貫義人氏が著書『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』(日本能率協会マネジメントセンター刊)で紹介している対話手法が適していると思います。リーダーから「僕はこう思うけど、君はどう思う?」と雑談のような相談を振ることで、現場の声を吸い上げていきます。
[STEP 6]優先改善課題の改善の進捗を確認・共有する
01 改善の進捗を確認するためのサーベイを実施
優先改善課題の改善を行った後は、本当にその施策がCX向上に効果を発揮したかを確認します。目安としては改善施策の実施から1~2カ月後、改善した顧客接点の利用者を対象に2~4週間かけて確認のための顧客サーベイを実施するのがよいでしょう。ただ、業態や実店舗かオンラインの体験なのかによって顧客が再来訪する周期も違うので、改善の効果が顧客に認識されているかどうかを考えて、期間を設定していきます。
改善施策に関しては、改善結果がわかるように最初の顧客サーベイと同じ設問を用意します。設問は全体で10問程度、最初のサーベイ同様にNPSの設問を最初にし、その後に改善確認の設問を入れます。
02 改善の進捗を確認する
改善の進捗を確認するサーベイでも最初のサーベイと同様に、集まったフリーコメントでNPS設問のスコアが4点以上のものはすぐに現場チームで共有し、3点以下のものに関してはマネージャー以上の担当者が対応します。
フリーコメント欄の設問は、ただ「コメントしてください」ではなく、例えば「○○に関して最近印象に残っている中で、店員に励ましの声があればお願いします」というようにすると、より改善課題に関して好印象を持つ人から褒め言葉を引き出しやすくなります。
Webの場合は、前の設問の答えに応じて次の設問を出し分けることもできるので、改善課題への評価が低い人には「○○に関してより改善をしていきたいので、その点数をつけた事情を詳細に教えていただけると幸いです」というような設問にしておくことで、改善の方向性にズレがあった際にヒントとなる回答を得やすくなります。
03 効果の出た施策を共有する
改善の進捗の中で、効果の出た施策を共有します。このとき、CX向上の取り組みを行ったチームだけでなく、その顧客体験に関わる全チームに横断して、情報共有できるとよいでしょう。
CX向上の効果が出ると、取り組んでいる現場チームの仕事のモチベーションが上がるという効果が出ます。ただし、CXのスコアと人事評価を直接的に連動させるのは危険です。よいスコアをもらうことが目的化してしまい、例えば営業担当が、取引先に「アンケートには◯点をお願いします」と根回しするようになると改善課題が見えなくなります。個人評価と連動させるなら、社内でのCX向上の取り組み推進や情報共有の成果を評価するほうが合理的です。そしてOKRの評価を公開し、チームでゲームをクリアして達成感を得るような感覚で取り組むルールを設定するのがコツです。
04 CX向上の段階的な拡大を目指す
CX向上のプロジェクトは、一度実施して効果が出たら終わりではなく、会社の活動の一つとして、永続的にやっていくべきものです。効果が出れば、社内での理解を得て、予算や人員といったリソースも割いてもらいやすくなるでしょう。
日本でもCX向上によって収益や利益を好転させた企業の実例が聞かれるようになりました。取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

- 教えてくれたのは…中谷健一
- トリムタブジャパン(有)代表。顧客体験(CX)・従業員体験(EX)向上のコンサルタント。小売業やメーカー、サービス業のサポート実績を持つ。CX課題の解決にデザイン思考の考え方を導入するセッションを推奨している。Customer Experience Professionals Association(CXPA)会員。 https://trimtab.jp/ Twitter: @kenichi_n