事例:Webだからこそできる、複数動画でA/Bテスト

動画PRの礎になるA/Bテスト

(株)すかいらーくが運営する「ガスト」は、全国に1,357店以上(11月末時点)、全都道府県を網羅する業界唯一のファミリーレストランチェーンだ。子どもからお年寄りまで利用層も幅広く、従来はテレビCMや折り込みチラシなどを中心に広告を打ってきた。その同社が、ガストの限定メニュー「オニオンリングハンバーグ(オニバーグ)」の発売に際し、新たに動画を導入した。

実は、同社の動画への注目度はかねてより高く、2014年頃から食材紹介などのオリジナル動画制作や自社SNSでの公開、CMの流用などさまざまな手法を試みてきた。新聞やテレビを観ずなかなかリーチできない20~30代に対する新たなPR施策を探し、次の一手を打ちたいとの思惑があったからだ。マーケティング本部の小林大祐さんは語る。

「この世代にはデジタル分野が有効と捉え、そこでは動画がプロモーションの柱になるはずだと注目してきました。ビジュアルやシズル感を一目で伝える力は、私たち食のブランドにとって大きな強みになるからです」

しかし、過去のテストプロジェクトでは、動画活用の方法や知見などは得られたものの、最終目標である「来店客数増」への効果は判断できない結果が続いていた。そこで今回は、最終目標の一歩手前にある、ユーザーの行動や反応など中間KPIのデータ取得を目的とした「A/Bテスト」の導入を考えた。この動画制作を請け負ったのが、(株)Viibar(ビーバー)だ。

 

クリエイティブと企業視点

小林さんは、Viibarに「新商品オニバーグをテーマとしたWeb動画で、2種類の毛色の違う動画」の制作を依頼。KPIは2本あわせてオーガニック再生50万回とした。予算は潤沢ではなかったため、最初に金額を明示しその枠内で制作してもらう形を取った。Viibarの冨永千晴さんは、「オーガニックリーチの最大化」「Webオリジナル動画の機能を検証する」というミッションを受け、“シズル”と“シェア”を意識した動画を提案した。

2種類の動画で効果測定(1)

A:ギャル語篇

ギャル2人が「ギャル語」でオニバーグのおいしさをひたすら捲し立てる様子に語句解説のテロップを組み合わせた構成「理解不能」など、狙いどおりの反響で再生が伸びた

http://viibar.com/works/s1242

https://vimeo.com/190209166

2種類の動画で効果測定(2)

B:シズル篇

ガストの広告表現で鉄板の「シズル感」を活かした展開。ハンバーグの断面や肉汁などの描写とミニチュアのコマ撮りが共存する、オーソドックスに見えつつもCMなどでは実現が難しいクリエイティブでもある

http://viibar.com/works/s1182

https://vimeo.com/190209067

「すかいらーくさんは、オーガニック再生の伸びをKPIに設定されていたので、SNS上でのシェアやコメントなど反応を引き出す企画を5本ほどご提案しました。Webは能動的に見てもらうメディアだけに、あえてツッコミどころを用意して興味を惹き、実行動を促すよう意識しました」

その場で「ギャル語篇」「シズル篇」の企画が採用に。同時に公開場所としてシェアに強いFacebook広告が提案され、ガストが専用チャンネルを持つYouTubeと2つのプラットフォームで展開されることになった。しかし、詳細を詰める過程で、かなり頻繁な意見交換が行われた。

「ギャル語を捲し立てる案自体は、クリエイティブとして非常に面白い。ですが、企業目線で見ると裏側でどれだけロジックを組めるか、弊社の言いたい内容が最低限入っているかコミュニケーションの機微などが少し弱く感じました。そこでフックになる仕掛けを整理して入れてほしいとお願いしたんです。会社を説得するには、ストーリーとロジックの両方で、『この仕掛けがあるとこの反応が起こり、話題になる』と説明できる要素が不可欠です。続編をつくることになってもPDCAを回す判断軸となります」(小林さん)

動画に面白さを導く原因や理由を明示する。この課題に冨永さんは「バズらせる仕掛け」の要素を整理して提出。クリエイティビティとビジネス的要素をつなぐ下地づくりを行った。

バズる仕掛けの想定と考察

冨永さんが提出した「バズらせる仕掛け」をまとめた提案書。まずは「シェアされる動画とは」という根本的なところから考察し、SNSでシェアされる(話題になる)要素をViibar独自の調査結果なども交え、ポイントを5つに絞った。さらに、「シェアされる際にどのようなコメントでシェアされるか」というところまで想定し、大量のギャル語を使うことで複数回視聴させる仕掛けまで考えている

「例えば、目を惹くために辞書のようなインターフェイスと広辞苑風の字幕で映像に派手さをつけ、初見では追いつけない怒濤の会話で勢いを出すといった演出を加えました。シナリオもオニバーグの食レポに変更しています。なぜその行動に繋がるかという理由づけ、そしてその理由をいかに落とし込むかはかなり考えました」(冨永さん)

小林さんと企画を進めてきたすかいらーくの堤雅さんも、今回の調整の難しさを語る。

「弊社としても今回は必ず結果を出す必要がありました。だからこそ、様子を見つつですが今までにない挑戦に臨んだんです。マスリーチのCMなどでは到底できないクリエイティブですが、Web専用だからこそ実現できたものです」

 

撮影現場でのアイデアを活かす

動画制作に費やした期間は、検討期間も込みで約1カ月半。撮影はカメラと照明各1台ずつ、スタッフ5名がガスト板橋坂下店にて4時間ほどかけて行った。編集期間も約1週間と、全工程がかなりのスピード感で進んでいったことがわかる。ちなみに完成した動画だが、実は「ギャル語篇」にもシズルカットが入っている。念のためにと撮影した素材がクリエイターのアイデアで適切に編集されており、社内協議を経て活かすことになったのだ。

すかいらーくでの撮影風景

当日の撮影はガスト板橋坂下店を利用。「女優さんの個性が強かったので、キャラクターの説明や表情の演出を加えてより強調できるようにしました」(堤さん)

「実写の企画はスタッフごとのアイデアが新たなよさを生み出す楽しみがありますね。現場で俳優さんの個性を活かし演出を加えることで面白いものにしていけます」(堤さん)

「すかいらーくさんが前のめりで制作に関わってくださったことで、元の企画から大きくブラッシュアップされた動画になったと思います。クライアントさんの熱心さは私たちにとっても非常に重要で、とても感謝しています」(冨永さん)

短納期に応えられるViibarの動画制作フロー

Viibarは、国内最大級 3,000人超のプロクリエイターネットワークと、オンライン動画制作ツールからなる動画制作クラウドを活用し、動画制作・マーケティング事業と動画メディア事業の2つの事業を運営。比較的低価格で、短期間の制作時間に応えられる体制をつくっている

「Viibarさんは僕らがお伝えした要望だけではなく、一旦すべて受け止めた上でやめたほうがいい要素、死守したほうが面白くなる要素など、最低限のラインと率直なご意見を返してくださる。僕らも妥協点を見つけやすいです」(小林さん)

 

決め手は中間KPI値

今回の動画は、売り上げや属性の類似した店舗を全国から抽出しA、B、Cの3グループに分けて2週間公開され、結果はすかいらーく社内の専門チームによって分析が行われた。分析項目は、昨年と公開前後の比較、公開・非公開地域における客数の延びの違いなどだ。「ギャル語篇」の影響は大きかったが、残念ながら客数効果に確実に繋がる結果とまでは言い切れなかった。

「分析方法によって結果に多少ブレが出たんです。ですが検索数や再生数、リーチ数など中間KPIの数値がポジティブな数字が出てよかった。仮定レベルでは効果がありそうだと捉え、動画活用を裏付けるデータとして会社に報告しました」(小林さん)

ちなみに「ガスト」での検索数はかなり優位な数字が出たとのこと。この結果を受け、同社では2017年の動画活用の本格導入に向けて動くことが決定。今後は動画をベースにした各種PR展開を考えていくという。

バーミヤン「新むかしばなし 桃太郎」

初めてViibarが手がけたPR動画。2015年7月、バーミヤン「8月3日はバーミヤンの日!」プロモーションに際し、ロゴの桃を連想させる「桃太郎」をパロディ化したアニメーションを制作した http://viibar.com/works/144

ガスト「ティラミスバナナパンケーキ」

2015年9月に発売されたパンケーキのPR動画。コマ撮りで制作されており、同様の手法がオニバーグ「シズル篇」に流用されている http://viibar.com/works/skylark_tiramisu

動画のプロジェクトでは、実験的な企画を自由にさせてもらってきたと語る小林さん。大手企業でもアグレッシブに挑戦できるのは、常に危機感を持ち新たな一手を探そうと考える、理解ある社風の力も大きいのだろう。

「だからこそ結果を出したい、この施策でなら動画の効果を裏付けられるはずだという勝算を持って臨めました」(小林さん)

すかいらーくとViibar、次世代に向けた動画活用の実験は今後も続いていく。

最新作は“意識高い系”

最新作は「ギャル語篇」の第2弾。自称意識高い系サラリーマン2人がビジネス用語を駆使して「0次会をガストで行うメリット」を紹介する。個性的なキャラクターを追加しより深い印象づけを狙うほか、冒頭で公式サイトへの誘導告知も行う

 https://www.youtube.com/ watch?v=LjSEMm_5W3c

 

小林大祐
(株)すかいらーく マーケティング本部マーケティング&プロモーショングループ マーケティングPRチーム
堤雅
(株)すかいらーく マーケティング本部マーケティング&プロモーショングループ マーケティングPRチーム
冨永千晴
(株)Viibar セールス&マーケティングユニット
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