パブリックドメインとは? 活用方法と留意点
パブリックドメインとは?
パブリックドメインとは、著作物や発明などの知的創作物について、知的財産権が発生していない状態または消滅した状態のことを差します。日本語では、公有(こうゆう)という訳し方をされることがあります。2024年2月現在、日本における著作権の保護期間(原則的保護期間)は、著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後70年までと定められています。つまり、著作者の没後70年が経過した著作物は著作権が消滅するためパブリックドメインとなり、誰でも複製、出版、転載などが出来るようになります。
パブリックドメインの歴史的背景
パブリックドメインの概念は、知的財産権が法的に確立される前から存在していました。特に、印刷技術の発展により、著作物の複製が一般に広まるにつれて、その重要性が増しました。
16世紀のヨーロッパでは、印刷業者が自身の利益を守るために、著作物に独占権を求める動きが始まりました。これが最初の著作権法の基礎となり、1710年には英国で「アン法」として知られる最初の著作権法が制定されました。これにより、著作権の保護期間が設定され、その後保護期間が満了すると著作物はパブリックドメインとなる仕組みが定められました。
19世紀から20世紀にかけて、各国で著作権法の整備が進み、国際的な調整も行われました。その結果、1886年には「ベルヌ条約」が成立し、国際的な著作権の保護が確立されました。この条約では、著作権の保護期間とパブリックドメインへの移行が明確に規定されています。
また、アメリカ合衆国では1976年の著作権法改正により、著作権の保護期間が作者の生存中および死後50年から70年に延長され、これが国際標準となってきました。これにより、現在も多くの著作物が保護期間満了後にパブリックドメインとなり、自由に利用できるようになります。
パブリックドメインの歴史を理解することは、現在の著作権制度を正しく理解し、適切に利用するための重要な基盤となります。
(Text:Web Designing Web編集部)
パブリックドメインと著作権の違い
パブリックドメインと著作権は、知的財産に関する重要な概念ですが、それぞれ異なる特性を持っています。まず、著作権は著作者が創作した作品に対して法的に保護される権利です。著作権が存在する限り、他人はその作品を複製、配布、公開するなどの行為を行うためには著作者の許可が必要です。
一方、パブリックドメインは著作権が保護期間満了やその他の条件によって消滅した状態を指します。この状態になると、著作物は誰でも自由に利用できるようになります。例えば、著作者が死後70年を経過した作品は自動的にパブリックドメインとなり、誰でも複製や配布が可能になります。
具体例として、シェイクスピアの作品は著作権保護期間をはるかに超えており、パブリックドメインに属しています。これにより、誰でも自由にシェイクスピアの作品を出版したり、演劇として上演したりすることができます。
このように、著作権は著作者の権利を保護するためのものであり、パブリックドメインはその保護が終了した後の状態を指します。これらの違いを理解することは、著作物を合法的に利用するための基本となります。
(Text:Web Designing Web編集部)
TPP関連法により、著作権の保護期間が50年から70年に延長
2018年12月30日に施行されたTPP関連法では、著作権の保護期間が50年から70年に延長されました。これにより、2018年12月末に著作権の保護期間が満了してパブリック・ドメイン(PD)になる予定だった藤田嗣治などの著作物の著作権は2038年12月末まで延長されることとなりました。
ただ、法改正の時点で既にPDとなっていた作品の著作権が復活することはありません。例えば、2015年12月末をもって保護期間が満了していた江戸川乱歩の作品などもPDのままです。とはいえ、今回の法改正により、もともと保護期間が70年だった映画以外の著作物はしばらくの間新たにPDとなる作品は出ないことになります。
法改正では、著作権とともに著作隣接権の保護期間も70年に延長されました。著作隣接権とは、実演家(役者、歌手、指揮者、演奏家など)、レコード会社および放送局の権利です。
今回、音楽レコード・CDを例に話をします。音楽レコード・CDでは、使用されている楽曲の著作権のほか、収録されている音源の実演家、音源を制作したレコード会社の著作隣接権が成立していることになります。そして、これらの著作隣接権の保護期間は、実演家については音源の収録日、レコード会社についてはレコード発行日から起算することになっています。
北島三郎さんは現役ですが、1962年発売のデビュー曲「ブンガチャ節」は、実演家である北島さんの権利も、レコード会社の権利も保護期間が終わっています。ただ、作詞家(星野徹)と作曲家(船村徹)の著作権はまだ保護期間内のため、レコード自体がPDというわけではありません。
しかし、クラシック音楽の古いレコードなどの中には、著作権も著作隣接権も保護期間が終わっているものがあります。指揮者としても有名だった作曲家リヒャルト・シュトラウスの生誕150年である2014年には、彼が指揮した演奏を録音したレコードの復刻版CDが発売されました。その中には1920~30年代に録音されて発売された、モーツァルトやワーグナーといった古典の楽曲の演奏がありました。これらの音源は、著作権も著作隣接権も切れてPDになっています。
ですから、皆さんがデジタライズしてWebサイトで配信をしても著作権法上は問題がないということになります。物置に眠っている古いレコードの中にPDとなっているものがないか、探してみてはどうでしょう。もしかすると思いがけないお宝が出てきて一攫千金も夢ではないかもしれません。
ただ、その際には、今回の保護期間の延長、そして海外の作品についてはさらに約10年の保護期間の延長(2015年12月号で紹介した戦時加算)があるため、今回の法改正により保護期間が約80年となっていることに注意してください。

執筆者プロフィール
桑野 雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。
鶴巻町法律事務所 http://kuwanolaw.com/
※本記事はWeb Designing 2019年4月号掲載記事を転載し、Web Designing Web編集部が再編集・再構成したものです。法律等にまつわる記載につきましては、本誌掲載時点の法令等に基づいています。
「知的財産権にまつわるエトセトラ」とは?
鶴巻町法律事務所の桑野 雄一郎さんによる、Web Designing本誌の人気連載です。
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