費用対効果から見た「オフラインプロモーション」の価値

オンラインのプロフェッショナルであってもオフラインの素人では、クライアントの事業成長に一部しか貢献できない。そう頭でわかっていても、インターネット広告費が増え続けるなかで、どこかオフライン広告を下に見てしまっていることがないだろうか。少なくとも筆者自身はそうであった。そんな筆者に対して、オフラインプロモーションの必要性や効果、そして価値について大きな気付きを与えてくれた一つの事例を紹介しよう。

著者プロフィール

CoolQoo(キスリー株式会社)
ノンボトル・ウォーターサーバー「CoolQoo(クール・クー)」のレンタル事業を行う。従来製品のようにボトルの受け取りや保管管理が不要で、飲む直前に「ROろ過」を行うため非常に鮮度が高い“お水のブロードバンド化”を推し進めている。ウォーターボトルがないため、飲み放題で料金は定額。新時代の幕開けとなる次世代型ウォーターサーバーとして、月々4,200円の「ROろ過コース」と9,000円の「水素水コース」の2コースで展開している。(価格は税別)
目次

ボトル型ウォーターサーバー市場の現状

筆者はWebプロモーションを生業にするので、常にWebを軸にした提案を考えており、今回のケースも同様だった。ウォーターサーバーにまつわるキーワード調査を行い、王道であるリスティング広告運用の提案を行うが、「ウォーターサーバー」の平均CPCはGoogleAdwordsで499円、Yahoo!プロモーション広告で861円であった。ワンクリックでここまで高騰していると、LTVを意識しても費用対効果を生みにくい。

そんななか、打ち合せを重ねるうちにお客様よりポスティングの相談を受けたが、システム処理しているネット広告のコストよりもマンパワーで配っているコストが安いはずがなく、効率が良いわけがないと本気で思っていた。しかし、調べるうちにこれはネットよりもポスティングが正しいのではないかと感じるようになる。理由は簡単で、断然“安い”からである。

ポスティングの仮説と効果

市場調査を簡単に報告すると、現在の全国世帯数は約5,000万世帯(国税調査より)。現在、全国でウォーターサーバーを導入している世帯は約350万世帯(独自調査)で、全世帯の7%程度。さらに都心に住む400名に標本調査、ウォーターサーバーを導入しているかどうかのアンケートを行った結果、72人がウォーターサーバーを導入していると回答があったことから、都心部世帯の18%がウォーターサーバーを導入していると言える。

この標本調査は不特定多数に行ったため、単身世帯も多く含まれる。単身よりも家族世帯のほうがウォーターサーバー導入率は高いため、家族世帯向けに絞ったプロモーションを行えば、18%よりも高い比率でウォーターサーバーを導入できると考えられる。

ちなみに、ポスティングには「ランダムポスティング」「法人ポスティング」「タワーマンションポスティング」などが存在するが、今回は価格がもっとも安いランダムポスティングで見積もる。

ポスティング代は業者により差があるが、仮に1世帯4円(チラシ制作費は別)とすると、10万世帯にポスティングを行った場合は40万円となる。しかし、リスティング広告(検索)で10万クリックを獲得しようとすると、GoogleAdwordsでは約5,000万円、Yahoo!プロモーション広告では約8,600万円必要になる(01)。

01 リスティング広告以外のネイティブ広告やキュレーション広告、DSPなどの広告出稿を行ったが、CPAの目標値には届かなかった。改善余地は十分にあるため、テコ入れをしながら改善に努める 「GoogleAdwordsキーワード プランナー、Yahoo!JAPANプロモーション広告キーワードアドバイスツールより」

また、ポスティングでは家族世帯の場合、一人ではなく複数人の目に留まる可能性がある。価格もリスティング広告の実に0.4~0.8%程度の費用でリーチができ、目標CPA2万円から逆算しても20件獲得できれば目標達成できる。10万世帯にリーチをして20件程度だけのはずがなく、もっと獲得できるだろうことは誰もが容易に想像できる。所謂やらない理由がない状況と言える。ちなみにリスティングであれば2,500~4,300件獲得しなければならず、この歴然たる差に驚愕した。

早速手配を進め、ポスティングを行った。公開できる範囲の具体的な数値は後述するが、CoolQooは商品の特性上、電話による問い合せがあればかなり高確立で申し込みにいたるのだが、ポスティング最初の週はオフィスの電話が鳴り止まず、従業員全員が疲弊するほどに反響があった。大成功である。

02 Webプロモーションの一部をご紹介したい。「TABI LABO」ではアドネットワークを使った記事を作成(写真)。その他、「COCOLOLO」でネイティブ広告を行ったほか、大手家電量販店のメルマガでの広告やWeb純広告、動画広告なども行っている

目に留めてもらうためのアイデア

ポスティングを行えば、ただ効果が出るというものでもない。ポスティングが安い理由を調べると、どうやら複数のチラシを一緒に投函するので1世帯単価を下げていけるということがわかった。

さらに、別のポスティング業者のチラシとあわせると、受け取った世帯主はチラシまみれの郵便受けから必要なものを“仕分け作業”で見つける。他のチラシと紛れると内容に目を通す前に捨てられてしまう。これは「高い確率で捨てられる」と考えるべき。そこでチラシにまぎれても“チラシ”と思われない見せ方が必要であると考えた。丁寧に作り上げたカタログ風のデザインにすれば、捨てる前に目を通してもらえるという仮説への道筋を立てた。

差別化を図るポイントと、仮説

仮説は、「日常生活においてポストにあるチラシっぽいものは見ずに捨てるが、カタログっぽいものは一目置く」というものだ。たとえるなら、渋谷のスクランブル交差点で大勢が移動している中で立ち止まっている人がいれば誰もが振り返る。チラシで溢れかえっているポストの中で“静”を表現した異質のアプローチで逆に目に留めてもらおう、と考えたのである。

参考までに、デザインとして使用したチラシを掲載しておく(03)。誌面で目を通してみても、目につくのが静かなデザインだと思うが、読者の印象はどうだろうか。正直、ここに関してはA/Bテストをしていない。これから別チラシでも効果測定を行う予定である。

03 左上が実際にポスティングで配布した、“静”の印象を与えるようカタログ的にデザインしたチラシ。実際、他の3つもポストに入っていた場合、手にとってもらえる可能性が高いのではないだろうか

他の広告とどう比較されているか

目に留めてもらうために、色使いや、あえてチラシっぽさを演出することによるアピールも大切ではあるが、それよりも前に考えるべき重要なことがある。私も常に気をつけていることではあるが、「ほかの広告とどのように比較されているのか」を知ること。これはリスティング広告に置き換えても同様である。

その上でアプローチや切り口、伝え方やオファー内容を検討する必要があるのだ。またこれは毎回必要な作業で、使い回しは効果がない。一度うまくいった広告をもう一度使い、同じ効果が得られるものではないという点にも注意したい。

04 テレビを利用したプロモーションも行ったものの、ポスティングに比べると効果が低かった

プロモーション実施後の数値

実はWebやポスティング以外にいくつかテレビによるプロモーションも行っている。著名な方々にCoolQooを丁寧に紹介いただいた。今後の改善余地は十分にあったが初回に関してはCPAの目標値には届かなかった。

Webやテレビよりも確実に反響のあったポスティング実施後の数値を公開させていただく。2016年3月に実施を行ったため、2月から4月までの推移を表にまとめた(05)。

05 「CoolQoo」WebサイトのPVの推移。3月にプロモーションを行った結果、2月から3月にかけてはおよそ150%、3月から4月もおよそ130%と伸びを示した

その他、資料請求の件数は154%、Webからの問い合わせも143%と伸びを示した。また、大型施設や大手量販店前などで積極的にイベント販売を行っているが、イベント販売の日程前にチラシを配ることで、配らなかった場合に比べ動員数が150%程度も伸びた。また、その際にチラシを手に駆けつけてくれる方などもおり、非常に効果がみられた。正直なところ、私もビックリしたが、FAX-DMでも1枚につき7円、1万枚FAX-DMを送ったところ、5件の契約が決まっている。実に、CPAは1万4,000円で目標よりも大きく下回った。この手法も上々である。

このような言い方は大変失礼だと思うが、私のオフィスや知人のオフィス、取引先のオフィスなどでここ数年FAX-DMというものを見た覚えがなかった。もうFAX-DMは効果的ではないと思い込んでいた。しかし、FAX-DMをとってもWebプロモーションよりも費用対効果が良いケースもあるということを知った。

事業に貢献する生業の身として

このようにWebを主戦場にする筆者にとって、このオフラインによるプロモーションは初めての経験となり、非常に衝撃を受けるものであった。お客様の“事業の成果に貢献すること”を生業としている者として、まだまだ未熟さを痛感させられた事例であったが、非常に良い経験をさせていただいた。筆者の未熟さから衝撃を受けたまでだが、この記事を読んでいただき、私と同じように衝撃を受ける方がWeb業界には多いと思う。

消費者は当然生活のすべてをWebで完結しているワケではない。消費者の行動を見つめ、お客様のサービスを見つめ、その事業の成果として最適な手法はWeb以外にも十分あることを私自身、生涯のメモとしてここに刻ませていただく。

※Web Designing 2016年8月号掲載記事を転載

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